「青楼オペラ」

桜小路かのこ先生の「青楼オペラ」。
コミックサイトで何気なく見つけて読み始めたらがっつりハマってしまいました!
「一気に読んじゃもったいない!」と思いながらも面白くて一気読み。(12巻完結です)

 両親を殺されお家取り潰しになった武家の娘が、その犯人の手がかりを得るために自ら吉原に身を置いて…という人探し&仇討ちという基本ラインの上に、その娘になぜかちょっかいを出してくる札差(高利貸し)の御曹司、下男として姫を守り続けるかつての家臣、謎の医者などが入り組んで、やがてお家取り潰しの真相とその裏にいる巨悪の存在が暴かれてゆく…というストーリー。
一見、ラブストーリー?って思わせるビジュアルながら、本質は壮大な人間物語&謎解きサスペンスの仕様になっているのが魅力です。ストーリー展開が面白くて、次は?どうなるの?!って飽きさせない。人物の感情もすごくよく描けてる。作画も綺麗で、和服姿の男女の描き方が色っぽくて可憐で実に巧い!可愛い顔して、思いのほか重厚で読み応えたっぷりな作品です。
絶対的に守られる”姫”と3人のイケメン、という構図は、それと聞いただけではいかにも少女漫画な感じがしますが、それぞれ登場人物は信念のもとに動いているので、厭味なく引き込まれます。
舞台設定がこないだまで私がいろいろ資料を調べていた吉原だったのも興味深かった。「大籬(おおまがき)」「禿(かむろ)」「紋日(もんび)」「付廻し(つけまわし)」なんていう言葉にも馴染みがあって、物語世界にスーッと入ってゆけました。
遊郭の悲惨な部分やリアルな実情、エロ描写はほぼ描かれていませんが、それはストーリーの本質が別のところにあるからです。遊郭をきれいなところとして描こうという意図ではないと思うので、そこを指摘するのは違うかな、という感じ。そもそもフィクションの世界で、時代考証の扱いというのは難しい。いきすぎてもフィクションの面白みが削がれてしまうし、足らなければしらけるし。
桜小路かのこ先生は時代考証のアドバイザーもつけずに全部ご自身で調べて編集さんに相談しながら描いたそうで。こういうの小説に書くだけでもかなり勉強したけれど、絵で描くのはその何十倍も大変です。努力が伺えます。単純に、凄いなぁ~と感動しました。また、先生は勘所というか、史実とフィクションの塩梅がいいんですよ。イイ感じに現代風で、馴染みやすくなっている。
例えば、江戸時代の話なのに男子が短髪、ってのもちゃんと理由をつけているし、不自然にならないように配慮をしてる。短髪のがビジュアル的にカッコイイんだもん短髪で登場させたい!でも、意味もなくあの時代のあの場所にいるはずのないビジュアルは持ってこられない!そこでそれ相応のキャラ設定をする、ってのが創作者としての誠意なわけです。エクスキューズをつける。
フィクションでも、こうした意識の向け方があるかないかで印象が随分違う。そんな細かいところに心を砕く桜小路先生の誠実を感じます。
作者こぼれ話によると時代考証チョンボもいろいろあったようですが、それを見破るほどの知識がこちらになかったり、物語の勢いがあるのでまったく気になりませんでした。
すごくいい作品なんだけど、どうしても腑に落ちないのがこの題名。
なんで「青楼オペラ」?
この題名の意味が最後までわからなかった。
物語を作る時、題名にはかなり思いを込めるというか…すごく考えてつけると思うのだけど、この題名が作品のどこにつながるのか、何を意味するのか最後までわからなくて、宙に浮いてる感じがするのが唯一モヤッとしたところ。