『人間失格 太宰治と3人の女たち』

いろんな物語があるなかで、私が特に好きだと感じるのが評伝モノです。
実在の人物をあくまでも物語の中においてどう描くか?というのは、危険水域ギリギリの冒険ですが、うまく描けたら新たにキャラクターとしての命が吹き込まれ、その人物のイメージがさらに膨らんでゆく。もともと実際の人生があり、血肉をもって生きていた証があるうえで、別の解釈もあり違った物語もあったのかもしれない…という想像が喚起されるのが楽しいのです。
成功例の最もたるのは、司馬遼太郎の『竜馬がゆく』あたりでしょうかね。幕末にいたごろつきヤンキーみたいな男を、唯一無二の英雄に変えた。真実は誰も知りません。龍馬は実際に英雄だったかもしれないし、そうでなかったかもしれない。でもすくなくとも私は司馬先生の龍馬を読んで激惚れしたクチで、その後にいろいろと史実を調べて行ってイメージが変転して膨らんでいった経験があります。

何にしろ、こういう人物を辿る冒険に乗り出せるのも、評伝を読んで興味が湧くからです。やはり評伝モノというのは面白い。

閑話休題

アマプラにて蜷川実花監督の映画『人間失格 太宰治と3人の女たち』を見ました。

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公開当時に評伝モノへの興味と蜷川監督の映像美に興味があったので見たいと思っていたのだけど、機会がないままでした。機会は成田凌が持ってきてくれたわけですが、まぁそれはもういいや。『おちょやん』終わったら興味が無くなってしまった(^^;。私が好きだったのは成田凌じゃなくて、彼が演じる一平だったんだろうな。クズだったけど。って、話が逸れました。

評伝モノを映像化するときは、誰を配役するのかってのがすごい楽しみです。半分くらいそこに重きがゆく。大河ドラマなんかでも、まず配役にワクワクする。ワクワクしないと見る気もしない。その「ワクワク」は自分の中でのイメージとの距離感、なのです。近いからいい、だけではなくて、予想外だから見てみたいというのもある。
太宰を小栗旬が演じる、というのは、観る前はなかなか魅力的だと思ったのだけど、実際に見てみると全くもって太宰ではなかったですねぇ。イメージの乖離が凄すぎて、逆に開き直って楽しめたかもしれない。だって凄く男っぽくてカッコイイんだもんね、小栗旬。太宰ってそういうタイプじゃないよ。むしろ真逆でしょう。小栗旬は演技もいいしビジュアルもいいし、体つきの男っぽさに和服も似合ってエロくて、メチャクチャ魅力的だったのだけど、太宰の評伝モノだという前提があるゆえに頓珍漢になってしまった感じ。実にもったいない。他のところでどうにかこれ、使えんもんか?って感じ。

タイトルの「3人の女」とは、妻の美知子(宮沢りえ)、『斜陽』のモデルとなった愛人・太田静子(沢尻エリカ)、最後に心中する愛人・山崎冨栄(二階堂ふみ)です。

この三女優の競演が、当初最大の見どころだと思ったところです。
宮沢りえの演技はダントツに重厚感がある。そこにいるだけで空気が変わる。存在感ありまくりでした。
沢尻エリカは画面の中にいると華やぐけれど、演技はイマイチ。キャラ設定が、実在の人に対してちょっと失礼なんじゃないかという薄っぺらさ。太田静子はインテリなはずなのに、あんなにバカっぽくていいの?
二階堂ふみは狂気を孕んだ役を体当たりで上手く演じていましたが、少し芝居が過ぎるかな、という感じ。ああ、演じているなぁっていう…。科白の言い方とかかなぁ?そのせいか、あまり感情移入ができない。それと一人だけ脱ぎ要員だったのが気になった。生贄感が凄い。
成田凌演じる編集者・佐倉潤一は人物描写にどうも一貫性が無い感じ。大人しくて分別のある編集者かと思いきや、突如として意図しなかった行動に出る人で、ちょっと混乱。
坂口安吾役は藤原竜也安吾は文壇きっての滅茶苦茶な人のはずですが、藤原安吾はあまり無頼な感じもせず。やさぐれててカイジっぽさは出てた(これは単なる先入観か。どうしよう私、いつみても藤原竜也カイジにしか見えなくなってしまっている!)。安吾こそもっと男臭い人を配役すべきだったのではないかな。むしろこっちが小栗旬じゃないかしらん、と思ったり。
高良健吾三島由紀夫はちょい出でしたが、わりと納得のイメージ(顔は全然違うけど)。
映画の内容に関して何か書かないと…と思ったけど、特に思い浮かぶこともなく俳優の寸評にて感想が終わる、という(汗)。

これ、太宰のファンの人はどう見ただろう?そもそも見ないか。蜷川さんは多分太宰の小説は好きじゃないんじゃないかなぁ。わからんけど。


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