「花束みたいな恋をした」

坂元裕二オリジナル脚本で菅田将暉有村架純主演で映画化された「花束みたいな恋をした」のノベライズ本とシナリオを読みました。


坂元さんの作品はいつも気になっています。
ドラマはほぼ見るようにしているし、大抵間違いがない。「凄いなぁ。さすがだ」と、思うことが多い。だからこの映画にもすごく興味がありました。(映画はまだ見ていないけれど)
映画を見る前に原作読むことに関しては、ネタバレの恐怖よりも知りたい欲の方が強かったから問題ありませんでした。予告編を見ただけで魅力的で、どんな物語なんだろう、どんなセリフがあるのだろう、どんな場面をみられるのだろう…と興味があった。
まず最初に、お嬢が持っていたノベライズ本を読みました。

ノベライズ 花束みたいな恋をした

ノベライズ 花束みたいな恋をした

  • 作者:坂元 裕二
  • 発売日: 2021/01/04
  • メディア: 単行本
 

 私は最初から何か勘違いしてて、これが原作本だと思っていたのです。でも、あまりにも文章が酷くて、文学はおろか小説にさえなってないので、「坂元さん、なんでこんな下手糞なんだ?!」と驚いたのですが、私の早とちりでした。
ノベライズ担当の人が、坂元さんのシナリオを小説風に書いたものだった。
シナリオを小説に変換するという難しい作業を、原作者でもない人に頼んだらあかんよ。物語も文章も平坦になってしまうのはあたりまえ。だってどこまで踏み込んでいいのかわからないじゃないの。下手なデキでも無理ないのです。ノベライズ、という方法がそもそも雑な在り方だと思う。

で、坂元さんのホントの作品を読まなくては、と今度はシナリオ版を読みました。

花束みたいな恋をした

花束みたいな恋をした

  • 作者:坂元 裕二
  • 発売日: 2021/01/04
  • メディア: 単行本
 

 うん。こっちの方がしっくりきた。
ノベライズではあまり魅力的に映らなかった二人の恋物語も、シナリオだと少しマシに感じた。脚本が巧くて、スッとムリなく映像が思い浮かぶ。さすがです。
読み終わるともう映画を観たような気になっちゃったw

大学生から社会人へとなってゆく20代半ばの恋人同士の5年間の話。
若い同棲カップルの日常には懐かしい匂いがする。私も結婚前は同棲してたので、いろいろとグッとくる場面があった。あの頃の自分が抱えていた恐怖が、この作品では現実になる。
この恋が終わってしまうこと、別れてしまうこと、離れ離れになってしまうことが。

恋は、花束のよう。
上手く言ったもんだと思う。最初は祝祭のように色とりどりの花が輝いている。やがて少しずつ、枯れてゆく。全部が一時に枯れたりはしない。でも、やがて全部枯れる。祝祭はいつかは終わる。恋はいつか、絶対に終わる。
この年代の5年間の恋人というのは大きいね。想像しただけで泣けてくる。ぞわぞわする。
このぞわぞわ感はエレカシの「リッスントゥザミュージック」という曲を聴く時の気分に似てる。どうにもならない心細さがしんしんと心に沁みる。ツラい。というかセツナイ。怖い、という感覚もある。
若い頃、私が一番怖かったことを歌ってる。だから聞くたびにぞわぞわする。この物語はあの歌によく似てる。

2人の会話の中にたくさんの文学や映画や音楽の話題が出てくる。二人は好きなものがよく似てて(相手の本棚を見て「ほぼウチの本棚」というくらい読んでいる本も同じなのだ)、そういうところを最初に知って急速に惹かれあう。膨大な共通項を数え上げ、これぞ運命の人!って感じになる。
個人的に思ったことを言うと、このパターンは私は無い。
自分と同じ本棚持ってる人間には、私は惹かれないなぁ。
”読書が好き”という部分が一緒というのは嬉しいけれど、ジャンルは全然違う方がいい。で、時々おススメを紹介しあう。読んだ後、「これをチョイスするのは実に彼らしいな」と、その嗜好の所有権を彼のものと認めて、そのことを愛でる。逆も、そうあって欲しい。
相手の好きなものをいろいろ知って、積み重ねて、相手の像を作ってゆく感じが理想なのです。同じところを探して喜ぶのは性に合わない。違うからこそ好きになるのではないか?って、単なる恋愛観の違いなんだろうけど、どうも気になってしょうがなかった。
そもそも最初からあれもこれも好きなものが一緒だと、齟齬が生じた時に失望を感じやすい気がする。
好きなものが嫌いになったり興味なくなったりすることはよくあることだけど、その都度相手が遠のいた感じになるのはキツイ(現に物語の中にそういうシーンは多々あった)。
この二人にもそういう積み重ねが心に影を落としてく。同じ熱量だと思っていたのに、違った。という失望。もうあの頃と同じではない、という諦め。
そういった「些細な」気持ちの齟齬を描くと、やはり坂元さんは抜群に上手い。
この物語の最高な場面は、最後の最後だ。現代のマジック。ここでどわわーーーっと泣ける。ほぼこのシーンがいろんなものをかっさらってゆくかのようだった。
こんなものを持ってくるあたりが、センスいい。時代に添った気持ちの在り方を描き続けた人なだけある。


菅田将暉&有村架純が激しいケンカ『花束みたいな恋をした』140秒予告