「ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語」

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公開当時から見たかったのだけど、映画館に行けないでいるうちに終了してしまい、DVDになるのを待っていました。あまりの見たさに、すでに何度も読んでいる「若草物語」の文庫を、映画版の表紙がついてるってだけで買ったほど。
やっと見られました!
期待通りの素晴らしい作品でした。大満足。
話の時系列が入り組んでいて、これ、元の話を知らない人が見たらちょっと混乱するかも…という感じなのですが、実はこの描き方が本作の斬新なところ。頻繁に過去と現在を行き来するのにもちゃんと脈絡があるのです。現在で心動かされたことに関連付けられる過去の出来事が入れ込まれる形になっているので、人物の記憶に絡んだ感情の在処がよくわかるようになっている。どのようなことがあって、ゆえにどのように考えるようになったのか…といった、人物の心の来歴がよくわかる(ゆえにキャラ造形が重層的に構築されてゆく)作りになっています。
展開はわりとスピーディーですので、しっかり注視していないと置いてゆかれそうです!
そして特筆すべきは画面の秀逸さです。
一つ一つのシーンがまるで絵画のように美しいの!
春の野原、夏の海辺、秋の夕暮れ、雪の森…移りゆく四季の風景が姉妹の人生と見事に溶け合って、深い抒情を醸し出しています。人生の喜びや悲しみが、それらの美しい景色の中で丁寧に描かれてゆく様は、まさに映画の醍醐味といった感じ。うっとりと物語の世界に溶け込めます。
そして、何といってもジャクリーン・デュランが作り上げた衣装の数々!見事アカデミー賞受賞となりましたが、出てくる衣装がいちいちステキで食い入るように見てしまいました。時代の雰囲気や家の経済状態まで、如実に物語る衣装の数々。これ、写真集とかあったら飛びつき買いするわ。ホント、つくずく大きなスクリーンで見たかった!

 

若草物語」といえば、四姉妹です。誰が一番自分に近い?なんてことを考える人も多いくらい、そのキャラはそれぞれ際立っています。

 

長女・メグ(エマ・ワトソン

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エマ・ワトソンは私の中ではいまだにハーマイオニーのイメージだし、普段のリブ的な言動からしても、良妻賢母型のメグ役をやると知った時はちょっと違和感がありました。でも、蓋を開けたら思いのほかのハマりっぷり。ああ、彼女はしっかりと女優さんなんだなぁって思いましたよ(って感想もヘンですが(汗))
メグは良き母良き妻でいたいのにちょっぴり虚栄心も持っていて、それが時々出てきてしまうことに自己嫌悪を抱いてるんですが(虚栄心といっても、いいお洋服を着たかったりするくらいの可愛いレベル)、とても真面目で一生懸命な人です。
メグの旦那さんをジェームズ・ノートンが演じているのですが、これがとてもステキで!貧しい家庭教師なんですが、メグを大事にして、自分がメグに贅沢をさせてあげられないことを申し訳なく思っているのです。メグは旦那さんにそう思わせてしまう自分が嫌で、こちらもそれを申し訳なく思っている。互いに恋に落ちて結婚した同士、清貧の中で支えあう、お似合いの夫婦となっています。


次女・ジョー(シアーシャ・ローナン

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ジョーはこの物語の主役(語り役、作者)です。だからどうしても、これはジョーの物語という側面が強く出ている。ジョーは多感で重層的な人物。生半可な役者じゃできない役です。シアーシャ・ローナンのジョーは完璧でした!彼女こそが、若草物語のジョーだわ!って感じ。
ジョーに関しては書きたいことがたくさんあるので、また後日詳しく書くつもり。
ジョーの「魂の友」ローリーを演じるのはティモシー・シャラメ。超絶イケメンと言われているシャラメが、これまたハマり役!ちょっと現実離れした感じの男の子で、萩尾望都の漫画に出てきそうな存在感がイイです。


三女・ベス(フローレンス・ピュー)

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ベスは献身の人。病弱だけど、だからこそ人の心がよくわかる。フローレンス・ピューの幼さの残る佇まいがピュアなベスの人柄を体現していました。貧しい家庭に施しをしにいってそこから猩紅熱をもらってきてしまう。後にそれがもとで夭折してしまいます。
ローレンスさんのお屋敷の誰もいない部屋でベスがピアノを弾くシーンがとても印象的。その姿に亡き娘を重ねながらそっと耳を傾けているローレンスさんの姿に涙、涙。
医療が未熟なこの時代、命あることそのものが、暖かな奇跡のようであったのだろうなぁとしみじみと感じます。


四女・エイミー(エリザ・スカンレン)

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エイミーは、パリでマーチ伯母(メリル・ストリープ)と暮らして美術学校に通っています。社交界で知り合った裕福なフレッドといずれ結婚するつもり。マーチ伯母の口癖は「女の結婚は経済だ。お金持ちと結婚しなさい」。エイミーは家族のために、自分がお金持ちと結婚して後ろ盾になろうとしているのです。この時代(なんと150年前のお話ですよこれ!)女が一人で生きてゆけるような時代ではなかったのね。貧しい家族を守るためにもエイミーはいつもプライド高く顔を上げている人、というイメージ。
でも、土壇場でエイミーは自分の本当に生きたい人生があることに気づくのです。そこに至るまでのエイミーの心理的な揺れや葛藤は大きな見どころ。


四者四様の生き方を描き分けながらも、その誰の中にも共感するところがある。
四人のうちの誰に似てるか、ではなく、この四姉妹は女性の中にある多面性をあらゆる方向からわかりやすく描いているのだと、今回始めて感じました。私の中に、メグもジョーもベスもエイミーもいる!と気づいて、ストン、と腑に落ちました。

女性が一人で人生を切り開いてゆくのがとても難しかった時代の中で、自由とは、お金とは、愛とは、結婚とは…という様々なテーマを、この作品は現代にも通じるリアリティで描き出しています。
150年前の物語なのに、女性の悩みはいつの世もほとんど変化がないんだなぁ…としみじみ。
現代の意識高い系の人たちは、ジェンダーの問題を対立構造でとらえてしまいがちだけれど、そういったアプローチよりも、この時代の四姉妹の生き方の方がより不自由な中でも肝が据わっているような気がして私にはしっくりきます。この件に関しては言及するとなると長くなるので今は書きませんが、いつかじっくり整理してみたい案件です。

物語の最後は、原作とは一味違うこの映画ならではのアレンジが施されているのですが、これがまた秀逸で!詳しくは言えませんが、落としどころとして最っっ高のエンディングです。
こういった描き方がされている、というのが今の時代再びこの作品を映画化する意義なんだと感じました。いや、もちろん作品自体もエバーグリーンなのでいつの時代も色褪せぬものですが、そこに寄りかからずに新しい視点をもってきたのは凄いなぁと。
ジェンダーに関する多様な考えに寄り添った(どっちが正しいと明言せず、どっちを選んでも解釈が成り立つ)、ウィットに富んで、明るくて、勇気をもらえる、とても面白いラストでした。

 

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可愛い洋服の数々。
バサバサしたボリュームのあるスカートの下にたっぷりの布を使った下穿きを着るスタイル、すごくいいなぁ。作りたいなぁ…という思いがやみません。楽だし可愛いし最高よね!

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この手袋なんか、も――――メチャクチャ可愛いのだ!素敵すぎる!

 


『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』予告1 3月27日(金)全国公開 第92回アカデミー賞6部門ノミネート