「ナムジ」と「神武」

安彦良和先生の「ナムジ」と「神武」全8巻を一気読み。
安彦先生の「虹色のトロツキー」は私の中でベスト3に入る神漫画です。「虹トロ」「王道の狗」「天の血脈」の近代史3部作(それと現在進行形の「乾と巽」)はどれも愛読書なのですが、不思議と古代史を題材にした作品をいままで読んだことがなかったのです。というか、知らなかった。その存在を(汗)。私の好きな時代って、近代史と古代史なのに。偶然、大好きな作家先生が同じ時代を好きで作品を書いているというのに、今まで気づかずにいたのです。
ホントになんでこんなことを今更気づいているのか?間抜けか?という感じなのですが、如何せん漫画という媒体はどうも見落としがちで。何かあると気づく。気づくと一定期間没頭するし、すごく影響を受けたりもするのですが、入り口を見つける能力、というか、アンテナ(?)が、すごく低いんですよねぇ。その世界を泳ぐことに慣れていない。毎日のように書店に行くけれど、どこも漫画のコーナーは別になってるというのも大きいのかもしれない。そういうことの、積み重ねが。

閑話休題
両作とも古事記をもとにした話で、「ナムジ」は大国主命、「神武」は神武天皇の物語になっています。続き物です。
とはいえ、古事記(及び日本書紀)に記述してある通りの物語を漫画化したものではありません。安彦先生が多くの歴史的遺物や記紀(の裏に書かれている事物)をもとに想像を巡らせ”本当はこうであったかもしれない”物語を構築しています。
すごく面白い。しかも辻褄が合ってい(るように思え)て、謎解きのような面白さがありぐいぐいと引き込まれます。
古事記の神々の話も、人間の歴史。意図的に隠されていることや、示唆的に書かれている部分などがきっとたくさんあるはずなのです。そこを一つ一つ紐解き、関連付けて新たな”本当はこうであったかもしれない”を導くのはとてもエキサイティング。
「国譲り」や「神武の東征」は実はこうだったのではないか?という解釈が実に自然で、なるほど!と目からうろこです。
八咫烏」「因幡の白兎」などの解釈もとても印象的でグッと胸にくる。
語り継がれる物語には、本質的に人の心をを打つ何かがあるのでしょうね。だからこそ伝わってゆくのだろうから。

登場する人間たちは男も女もとにかくパワフルで、命を燃やしている!という感じ。
半死半生の生きてるだけで精一杯な私のような人間は生きてゆけない時代だったんだろうなぁ、と変なところで感心したりする。
安彦先生はとにかく絵が素晴らしく巧いので、ビジュアル的にも圧巻です。あまりにリアルで臨場感がありすぎてツラくなってしまうところもありますが(戦闘シーンとか)、それゆえに刹那の人生がひときわ奇跡のように思える。
少し、記紀の知識がない人が読むのはハードルが高い部分もありますが、わからない部分はさらっと流してでも、読んでみることをおススメします。
この国の始まりの歴史を、戦国時代や明治維新の歴史物語のように、血肉の通った人間の物語として楽しめます。
「物語」には力がある。誤解をする力も、それを解く力も。
安彦先生の作品を読むと、いつもそのことを深く感じます。

 

ナムジ―大国主 (1) (中公文庫―コミック版)

ナムジ―大国主 (1) (中公文庫―コミック版)

 

 

 

神武―古事記巻之二 (1) (中公文庫―コミック版)

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