「軍中楽園」

鈕承澤(ニウ・チェンザー)監督が私財を投じて撮影し、侯孝賢ホウ・シャオシェン)が編集協力したという作品、「軍中楽園」を見ました。
1969年、緊迫する中国と台湾の最前線である金門島にあった、「軍中楽園」と呼ばれる娼館(慰安所)で繰り広げられる人間模様を描いている作品です。

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この映画のキャッチコピーは

“こぼれおちた、愛”
運命に翻弄された男と女の甘美で残酷な物語

…というのなんだけど。
これ、ホントにこの映画観た人が考えた??って思うくらい、違和感のある言葉選び。
これではまるで恋愛劇みたい。この作品には恋愛なんて一ミリもないと思っているから、奇妙な感じがしちゃう。
愛がないかといえばそうでもなく、いたるところに愛はあるんですよ。同情も共感も友情も親子愛もある。でもこうしてキャッチに「愛」と書かれ「男と女の」とされたら、やっぱりちょっと違うなと思う。むしろここには男女の愛だけがないような気がするから。

主人公のシャオパオ(イーサン・ルアン)はどうにもイケて無くて、その雰囲気が物語に合ってます。
その上司のラオチャン(チェン・ジェンビン)も絵にかいたようなどうしょうもない甘えた男で、見ているだけで気持ちが萎えます。そんな男に勝手に惚れられて勝手に踏みにじられる娼婦アジャオ(チェン・イーハン)が可愛そうで哀れで…ホントに男って嫌だなーーーって思っちゃう。
謎めいた美人娼婦ニーニー(レジーナ・ワン)の佇まいはステキでした。ギターを弾きながら「帰らざる河(River of No Return)」を歌うシーンがとてもいい。これ、西部劇の歌なんだけども、台湾的なセンチメンタルが加わって、グッと胸に迫る好い曲に聴こえるの。
シャオパオとニーニーの間に恋が生まれるのか…と思いきやそうではないし、初体験を娼婦としたくないとかぬかしたシャオパオは結局ぐずぐずと娼婦と遊ぶ男になるし。どうもこうもないろくでもなさ。
この映画には男の嫌なところばかりが描かれている気がする。出てくる女もみな男のせいで悲しい思いをしている。男は戦争でツラい思いをして…みたいなことを描こうと思ってんだろうけども、それ以上にツラい思いをしている女ばかりが見えてくる。見てるとどんどん不愉快になる。
ただニーニーの歌声とか、アジャオの可愛い笑顔とか、夜の草原とか、そういうちょっとした美しいシーンばかりが記憶に残る作品です。

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シャオパオはニーニーに憧れているのだろうけど、娼婦として低く見ていることが後々の行為でわかる。蓋を開けたらうんざりするような男なんですよね。それまでの思慕のようなものも単なる甘えにしか見えなくなる。

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可愛いアジャオも身勝手な男の犠牲に。胸が痛みます。

ラストに”もしも願いが叶うなら”的な、この先あったかもしれない人生を妄想するようなシーンがあるのですが、それすら身勝手でドッチラケに思える。ホントにしょーもない。これ、女を敵に回す作品なのか?わざとか?うーん、謎。