「スタンド・バイ・ミー」

言わずと知れたスティーブン・キングの同名小説を映画化したものです。
私は映画を観るより先に小説の方を読んでいたのですが、キングの小説の中でも出色に素朴で文学的な色彩をもった世界に惹かれました。
映画の方も、その印象を損なうことなく忠実に描いてる感じ。

 

オレゴンの田舎町に住む4人の少年が、町外れの森で行方不明になった少年の遺体を探しにゆく。
その一晩の冒険を通して、少年時代の心の揺れや、友情、人生に対する思春期特有の不安感や昂揚感をタピスリーのように多角的に描いた作品です。
映像も、セリフも、音楽も、とても美しく心に残る。

 

原作の副題は「秋の目覚め」。
キングの価値観では「大人=秋」なのか…と思うと、ちょっとせつない。
でも、きっとそうなのだろうと思う。
この作品に触れると、そう思えるっていうかね。
つまり12歳の時に体験した世界が珠玉だったら、その後の人生は秋のようなものなのかもしれないな、と。

こういった形での「大人になるための冒険」、というのは男の子には必要なのかもしれない。
いや、わかんないけどね、男ではないので。
性別で区切って物事を考えるのはいいことではないかもしれないけど、この映画を見てると、男女の差、ってのは絶対にあると思う。
つまり女の子はああして大人になるのではない(と思う)ので。

女版「スタンド・バイ・ミー」とも言える(?)映画でデミ・ムーアメラニー・グリフィス、ロージー・オドネル、リタ・ウィルソンの4人が出てる「Dearフレンズ 」というのがあるのだけど、作品的にはかなり劣るにも関わらず、共感を感じるのはこっちの方だったりするんですよ、私としましては。

女の子は、ずっと一人、なのだよね。精神的に。
どんなにツルんでいても、親友ができても、分かち合う仲間がいても、一人。
男の子同士の友情のようには溶け合わない(気がする)。
「女には友情は生れない」ってのじゃないよ。
友情の質が、たぶん違うんだよね。距離感の心地よさが違う。
その部分を「Dearフレンズ 」は、とてもよく描いてました。
こちらもまぎれもなく「友情」。「スタンド・バイ・ミー」もまぎれもなく「友情」。
でも、この二つの「友情」はかすかに質感が違う。

違うからこそ、男の子同士の友情物語は、女の子にとってしばし憧れだったり、違和感のあるものだったり、鬱陶しかったり、BLネタになったりするわけですよね。
でも、異質なものを観察する楽しさ、ってのはある。
物々しくも大げさで可愛くて背伸びしながら濃い同胞意識でつながっている少年達の冒険を見ていると、笑っちゃう。バッカみたいって笑いながら、ちょっと寂しかったりもする。まぁ、あくまでも私の主観なので、あまり深くはツッコまないで(汗)。

 

この作品には少年時代のリバー・フェニックスが出ています。
4人の少年のリーダー格の子:クリスの役。
まだ15歳なのに本当に驚くほどの演技派!しかもオーラが違う。
端正な顔に宿る年齢に見合わぬ含蓄ある視線も、大器を感じさせるに十分です。
彼がドラッグでたった23歳でこの世を去るなんて、この時は誰も予想してなかったでしょう。そういう早世の事実も後から重ねると感慨深いものがあります。
この役の少年も、早世してしまうしね…。

 

リチャード・ドレイファスは出番が少ないながらも映画全体のキーパーソンとなる大事な役をやってます。「主人公の後年」という、ね。
主人公(少年時代はウィル・ウィートンが演じてます)は、大人になって作家になってるのです。
ここはキングの実像ともダブりますが、ワタクシ個人的にはアメリカングラフィティのカート(リチャードが演じた役ね)のその後、という風にもオーバーラップして感慨深いものがありますw
映画は、彼の視点から語る形(小説として語る形)でお話が進むので、全体のナレーションもリチャードがやってます。
つまりこれはリチャードの語るリチャードの少年時代のお話、という風情。
監督のロブ・ライナーとリチャードは幼馴染みですから、こういうナニゲにずっぽりのハマリ役、ってのを充ててくれたのかもしれない、なんてちょっと邪推。
文学的(でありしかし庶民的)な雰囲気がナチュラルに醸し出されています。
そう。とにかく文学的なんですよ、この作品。
ノローグする「わたし」は作家であるわけですから、レトリックがものすごくステキなんです。
これはもう小説の方が断然いいのでお閑な方は是非読んでみることをオススメ。
ひとつ、小説の中で印象的な言葉を挙げてみると…

「なににもまして重要なことは、なににもまして口に出して言いがたいものだ」

ってのがある。作品中に何度か出てくる言葉。
作家は、言葉を信用してない。
だからこそ、小説を書くのだ…というのをこの言葉は暗に伝えてる。
物語を書く、という行為は、言葉の持つ危険とスレスレのトコで言葉で表現できない「重要な」インプレッションを人に伝えることができる。
物語は、「口に出して言えない重要なこと」のメタファー(暗喩)として機能するわけ。
作家である「わたし」は12歳の秋からずーーっと、言えない言葉を心の中で物語にしてはタイプライターに吐き出し続けていたのだなぁ…と、感慨深く思う。
スタンド・バイ・ミー」と言いたい愛する人に向かって。

 

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ポスターはいろんな種類があるけど、これが一番好き。
心震える冒険の気分が良く出てる。
原作も、映画も、どちらも素晴らしい。ぜひ両方を。

(過去記事加筆再掲)

 

スタンド・バイ・ミー  (字幕版)   

スタンド・バイ・ミー (字幕版)   

  • 発売日: 2016/03/18
  • メディア: Prime Video