「アメリカン・グラフィティ」

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これは米国公開時ポスター。
キャッチは「Where were you in '62?」(1962年、君はどこにいた?)
ベトナム戦争を前にした最後の「古き良きアメリカ」がここにある。


この映画をはじめて見たのは中学2年の時。TVの洋画劇場でした。
もう、衝撃でね。初めて見たのにずっと憧れていた世界に出会ったように夢中になりました。
音楽、車、ファッション…バーガーショップ、プロム、ラジオDJ
当時はビデオなんてものもなくて、一度見たそれが忘れられない私は、胸の中でその残像を何度も思い出しながらずーっと憧れていて、高校生になってからやっと名画座で上映されたのをスクリーンで見たのでした。感動のあまり言葉もなかった。
でも、私はこの映画が大好き、ってことは恥ずかしくて誰にも言えなかった。ダサいかも、と思ってたのです。

「アメグラ」が描いているのは「田舎者」の世界です。
山の小学校から田舎の中学校に行き、さらにもっと大きな町の高校に通っていた私にとって、思春期の時点でこの映画はすでにものすごく共感を感じやすいモノだったんですが、さらにそこから都会の大学に行く段階には共感もさらに倍加して拭い去りえない精神の拠り所になりました。
私はその都度、小さな勇気を奮って故郷を後にした。
心の中に「アメグラ」で見た最後の青空を思い描きながら。
きっとそういう思いと重なるところがあるから、この映画は私にとって永遠に変わらない思い入れがある。
たかが映画とはいえ、ものすごく人生に影響する作品ってのがある。
好きっていうだけでなくて、なんていうか、人生に関わった感じがする映画っていうの?
私の場合は、「アメグラ」がまさにそれなのでした。

カリフォルニアの田舎町の高校生が、最後の夏休みの最後の夜を過ごす。
ここに描かれているのはその一夜のお話です。
いつものようにドライブインに集まった仲間たちが小さな冒険や恋を探しにあちこちに散ってゆく。その様子が「グラフィティ(=落書き)」のように描かれている。
明日の朝には東部の大学にゆく二人の高校生(ホヤホヤの卒業生)がいて、二人とも迷ってる。
その心の折り合いのつけ方が軸になって話が進む。

二人の若者を演じたのがロン・ハワードリチャード・ドレイファスです。
ロンが演じたのは、悩んだ末に故郷に残る道を選んだスティーヴ。
リチャードは一人で仲間と離れて東部の大学に行くカート。
物語の最初の頃は、スティーブが町を出たがっていて、カートの方はどっちかっていうと去りがたい想いを抱えていたんですが、一晩の経験がそれぞれの思いを変えさせる。
青春時代の迷い、というのはこうしてどっちにも転ぶような「決めかねる」ところがある。
馴染んだ街と仲間達のもとを去りがたくて最後の夜にフラフラと街を徘徊するカートは、ドライブしたり、不良たちに「可愛がられ」たり、美女を追いかけるのに夢中になったりしながら、やがてなにか見えない手によって導かれるように、町外れのラジオステーションでウルフマン・ジャックと出会う。
真夜中にポツンと一人でラジオDJをするウルフマン。
でも彼の声は電波に乗っていろんな人のもとに届いている。
独りだけれど、孤独ではない。世界は無限に広がっている、という感動に満たされる。
小さな田舎町の青年が外界と触れるということの象徴のような印象的なシーン。
私の大好きなシーンです。
その後の人生で、私は何度もこのシーンに救われました。

最後、町を離れるリチャードが東部に向かう飛行機の中でトランジスタ・ラジオを聴きながら眼下に広がる故郷を眺めます。
町はどんどん小さくなってゆく。
憧れた女性の白いサンダーバードが視界を横切って消えてゆく。
やがてトランジスタの音がかき消されて…
目を上げると、どこまでも青い空が広がっている。果てしなく未知の未来がそこにあるような、そんなイメージで。

感傷的で、孤独で、淋しがり屋で、夢想家で…未来を求めて自分の青空を探しにゆくため故郷を出てゆく田舎の若者。
カートはどこか自分に似ていて、でも自分にはない憧れの部分をもった存在でした。
私が少し勇気をなくしたときなどに「思い切って飛ぼうよ」と囁いてくれるのはいつも「アメグラ」ラストシーンのカートと、カリフォルニアのどこまでも青い空でした。
とはいえ、私が”男の子として”好きなのは断然、恋人のために田舎に残ってくれるスティーブの方なのです。すごい矛盾なんだけど、どうしたってそうなんですよね。複雑!
そういった一筋縄でいかない感じも、この物語の面白いところです。

この作品には若者達のほかに主役がいる。全編を彩る音楽です。
当時流行ったアメリカのヒットナンバー。ロックンロールやR&Bの名曲の数々。(アメグラと言うとロックンロール、っていうイメージあるようですが、本当は3分の2はR&Bのヒットナンバーです)
音楽に頼った映画だとしても、それは決して映画として邪道、ってことではない。
いいタイミングで、ドンピシャなチューンが流れてくるこの映画の音楽監督さんは、まさしく歴史に残る仕事をしました!
作中に流れる音楽は、聞こえてくる状況によってすべて音質も変えたのだそうです。
車の中で聴く音、街角で聞こえてくる音、遠くの店の中でかかってる音楽…全部それは違って聞こえる。それを丁寧に再現してて、そういう細かい配慮が臨場感を生み、物語の中に一層入りやすくさせてくれているのです。

アメグラを語るときによく話題になるのは、最後の「テロップ」は必要か否か?って問題。
私はあった方がいいと思います。幾分感傷的とも言えるし、ちょっとずるい感じもする。でも、あれがあるから物語にはその先があるのだと教えられる。人生にも、しかり。
ヘンな考えかもしれないけど、たぶんラストナンバーにビーチ・ボーイズの「All Summer Long」が流れなければ、あのテロップはもっと悲しい雰囲気だったもしれない、なんてなことをちょっと思ったりも。ここでもまた音楽の力、というものを感じるのです。(加筆再録)

アメリカン・グラフィティ (字幕版)

アメリカン・グラフィティ (字幕版)

  • 発売日: 2014/03/15
  • メディア: Prime Video
 

 この映画には「2」もあります。

レビューはこちら。

www.freakyflower.com

 

アメリカン・グラフィティ2 (字幕版)

アメリカン・グラフィティ2 (字幕版)

  • 発売日: 2015/12/25
  • メディア: Prime Video