「パヒューム/ある人殺しの物語」


これ・・・スゴイ映画でした。
何がスゴイって、目に見えず言葉にできない「匂い」というものを、映画で表現できるあらゆる手段を使ってどうにかして伝えようとしている、そのとんでもない意欲が、です。この映画は全編「匂いを伝える」ことに腐心してます。
そしてそれを、可能な限り全うしている気がします。
匂いを伝えるために、「ウゲ〜。カンベンしてー(汗)」ってな卒倒しそうにグロなシーンがあったりもするのだけど、ここまでの表現ができる彼らをスゴイとも思うの。天晴れです。意欲的で冒険心に富んだクリエイター達に脱帽。
そしてあの衝撃のラスト!
こんなラストシーン、想像もしませんでした。こういう終わらせ方をする作者の創造力にクラクラしたね。


主人公グルヌイユは稀有の嗅覚を持つ男。この世に存在する全ての匂いを嗅ぎ分ける。
彼がこの世に産み落とされるシーンからして、観客はもの凄い匂いの渦の中に叩きつけられる。
悪臭立ち込める18世紀のパリの、その中でもさらに悪臭に包まれた場末の魚市場の屋台裏。
腐った魚、流れ出す血、贓物、屠殺場、皮工場、小便、大便、吐瀉物、体臭、口臭、死臭、香水…
これ、映画館の大スクリーンで観たらもっと強烈だったと思う。
この世の果て、地獄の匂いがする場所で、グルヌイユは生まれる。生まれた瞬間から母に抱かれることもなく、腐った魚の贓物の中で泣いていた愛を知らぬ男。
最初のこのシーンがあまりにショックで、その後の彼が「人ならざるもの」として存在しても無理からぬことのように思えるのがポイントでしょうか。
彼は長じて極悪犯罪者となるのですけど、それに対する憎悪以上に、ひたすら救い難い深ーい悲しみを感じてしまうのは、彼の壮絶な人生と神懸かった能力ゆえです。


これは稀代の天才調香師の話でもあるし、血も凍る連続殺人犯の話でもあるし、愛を求め続けた悲しい男の話でもあるし、虫けらの様に無視され続けた男の自己存在を証明しようとし続けた話でもある。
どういった部分に比重を置いて観るかによって、観客の感想もずいぶんと違うだろうと思いますね。
舞台が18世紀だしちょっと寓話的なエピソードが多いせいか、どこかダーク・ファンタジーのようで、人死にが出る映画が嫌いな私でもなんとか最後まで観ることができましたが…女性が次々と犠牲になる部分はやはりとてもキツかったです。
殺戮場面は綺麗に描いているので、視覚的なショックは少ないですが…静謐な美しさがある分、よけいに殺された女性たちが可哀相でね(涙)。
アラン・リックマン演じる被害者の父親の恐怖と悲しみが胸にひしひしと迫りました。
って、あ!そうです、これもアラン目当てのチョイスだったんです(^^;;。
ヅラでした。アラン。
でも、アラン祭りどころじゃないっっちゅー強烈な作品ゆえ、普段は存在感あるアランも「ごくフツーに演技してましたね」ってな手堅い印象くらいしか無し。
ダスティン・ホフマン(若いときよりイケてる)も出てますが、終わる頃には出てたことさえ忘れました。←後半の内容が濃すぎて、前半しか出ないダスティン・ホフマンの記憶が無くなった。よく思い出してみるとなかなかコミカルな可愛らしさを振りまいていたようにも思う。
とにかく全てが主人公の1人勝ち、って感じですよ。演じたベン・ウィショーは完璧でした。
おっと!忘れるところでしたが、音楽の演奏をしているのはサイモン・ラトルベルリンフィルです。素晴らしいね!


この映画を見たあと眠りについたらすごい夢を見ましたよ。匂いに押しつぶされそうになって、うなされました。
すべての物の匂いが次々と鼻腔から脳髄に押し寄せてくる。その都度、精神が揺れて、ショックを受けて、どんどん疲弊する。という夢。
疲れたよぅ。
これ、人間の潜在意識に深く働きかける映画だと思う。強烈。