心に残る面影

日本ではあまり馴染みがないかもしれませんが、1999年に「人間四月天」というドラマが中国・台湾で放送されて大人気になりました。副題が「徐志摩的浪漫愛情故事」。徐志摩というのは清朝末期(民国初期)に中国で活躍した詩人・文学者で、ドラマは恋愛遍歴を軸にした彼の人生を描いたものです。
主人公の徐志摩を黄磊が演じていたので、黄磊迷だった私はこのドラマを夢中になって見ました。
物語には徐志摩に関係する3人の女性が出てきます。カッコ内は演者ね。

親の決めた結婚相手。最初の妻・張幼儀(劉若英)
初恋の人であり永遠の心の恋人・林徽因(周迅)
不倫の恋で結ばれた二番目の妻・陸小曼(伊能静)

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驚くことに、この3人の女性はどなたも清代末期の中国において傑出した人なのです。
当時の知識階級の少数精鋭ゆえか、徐志摩が華々しい女性を好んだのかわかりませんが、皆すごい女性なのでビックリします。
ドラマでは悲しく理不尽な思いをさせられた存在として描かれていた、離婚した最初の妻・張幼儀は、実はもの凄い才女で、徐志摩と離婚した後はドイツに留学し、銀行の頭取となったりアパレル会社の社長になったりと実業界で大活躍します。後年の不遇の徐志摩に経済的援助をしたり両親の世話もしました。とんでもなく度量が大きい人なのです。
林徽因と陸小曼は「民国四大美女」と言われている華やかな女性(「四大」のあと2人は、歌手の周璇と女優の阮玲玉←ロアン・リンユィ。マギー・チャンが映画で演じてましたね!)。

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林徽因は才色兼備の代名詞のような人です。徐志摩が生涯愛していたのは彼女一人だというのが大方の見方のようですが、この二人は結婚という形で結ばれなかったからなおさらいつまでも互いへの思慕が消えなかったのでしょうね。互いの伴侶にしてみればまったく迷惑な話ですが、悲恋ゆえに永遠だと、どこかでちゃんとわかっているような気がします。林徽因はその頭の良さゆえに恋の本質を見抜いていたのかもしれません。
林徽因が他人の妻となってしまった後、失意の徐志摩を救ったのが、陸小曼との燃えるような不倫の恋です。勢いで結婚しますが、すぐに二人の関係は破綻してしまいます。恋と生活は両立しない、を地で行った感じですかね。

 

なぜこんな話を急に始めたかというと、最近、気がつくとふと陸小曼のことを思い出しているのです。
陸小曼、というか、陸小曼を演じた伊能静のドラマの中の佇まいを、ですね。
陸小曼って、全然しっかりしていないヒトなんですよ。昼夜逆転生活と頭痛持ちのせいで寝てばっかりいるし、浪費家だし、我が儘だし。仕事に疲れた徐志摩が家に帰ると、陸小曼は人を呼んで麻雀に興じている。

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1人でいるときは一心に絵を描いています。大きな机にバーッと画布を広げて、見事な南画を描いている。

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なにかすごく親近感があるというか…ああ、わたしはこの人のことわかる気がする、って思うのです。他人とは思えない感じがするんですよね。同じ種類の人間なんですたぶん。
完璧な林徽因やしっかり者の張幼儀とは違って、怠惰で享楽的で欠点だらけの陸小曼の人間的な弱さがとても身に沁みる。
徐志摩が亡くなった後、陸小曼は人前に出ず、化粧もせず、徐志摩の作品を集めて出版することに奔走します。
ドラマの最後に出てくるのはその時の彼女の様子なんですが、そのシーンが忘れられません。不意に思い出しては、胸が熱くなる。どういうわけかわかりませんが、最近、特に思い出しやすくなっていて、もう一度ドラマを見返しました。

上海の里弄を歩く陸小曼が、屋台で買った甘栗を食べながら歩いてゆきます。
ふと空を見上げて立ち止まり、雪の気配を感じる。そしてフッと微笑んで(かつて雪の日に徐志摩と結ばれたことを思い出し)また歩き続ける。

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出来上がったばかりの徐志摩の作品集のゲラを抱えながら、たった一人で冬枯れの道をゆっくりと歩いてゆく姿が、なんというか…しみじみと胸に沁みるのです。大好きなシーンです。


このドラマ、中華圏では大ヒットしたんですがなぜか日本では出ていませんね。邦訳版、なんで出ないのだろう名作なのに。いろんな人にお勧めしたくても邦訳版が出ていないからどうにもなりません。残念です。


【我多麽羨慕你】公視 人間四月天 MV