「赤い月」

 

赤い月

赤い月

  • 発売日: 2017/09/15
  • メディア: Prime Video
 

 実は「満洲モノ」にはとりわけ興味をもっている私はひそかにこの映画、楽しみでした。
こういった題材の日本映画が良かったためしは今までないし、期待は特にしてなかったんだけどね、どんな風にいじってるんだろうなぁ、という意味の興味があって。
それに、SARS禍にも負けずに中国東北部でロケをして撮影したというその風景は絶対に見たいと思っていたのです。それはスクリーンでちゃんと見たかった。なので劇場まで足を運びました。

確かに、ロケの効果はあったと思う。いい風景が撮れていました。
ただの赤い夕日でも、それはもう、日本のものとは違う沸き立つような強さが感じられる。広大な雪原、果てしない空、雲映す緑の大地。すべてただそこに映像が流れてゆくだけで、当時の日本人達がどんな気持ちでこの場に立ったのかという想像を喚起する力に溢れてて、パンチのあるシーンを作っていたと思います。
でもねぇ…
なんか、「え?」って感じで終わるの。あっけない。
すごい内容のはずなのに、こんなにあっけなくってどうするの??みたいな。たぶんそれは登場人物たちの内面が全然表現されていないまま「できごと」が流れるように過ぎるだけ、というアプローチの方法にも問題があるかと思いますが、それ以上に問題なのは明らかに役者、って気がする。
出演する人たちの演技がねー、もう、どうしょうもない。
常盤貴子は、表情は良いし存在感もあるけれど、セリフがどうにもマズイ。本当に彼女はTV向きの女優さんなのだなぁと。
加えて、伊勢谷友介は演技が演技演技してて不自然、山本太郎は軽すぎ、大杉漣は中国人じゃないのに中国人の役でそれっぽい日本語を話すからギャグのようだし、布袋寅泰に到ってはなんでこのキャスティングなんだ???演技が上手いわけでもない、オーラもない、時代の空気も身につけていないトンチンカンなキャスティングで、全く意味不明。
唯一香川照之はいつも通り器用な演技ですけど、周りがヒドイのでかなり浮いて見えます。
もうねぇ…どうしよう、これ。こんなんでいいんでしょうか、日本映画は。
少なくとも私だったらこの物語の重厚さをきちんと表現しえるキャスティングくらい組めるぞ。俺にやらせろキャスティング、みたいな。
脚本は私の好きな井上さんだし、降旗監督もスタンダードな撮りかたする監督で悪くはないと思うんだけど、これはどうにも…と思いましたね。

今日はレディースデーだったので映画館は混んでて、しかも、とても小さな劇場だったので、ぎゅう詰めになって観ました。
まるでこっちまで引き揚げ列車に乗ってるような気分。そのほとんどが老齢の人だったのです。
そんな中で隣に陣取ったでオバチャン軍団(推定60代)が菓子食いながらしゃべりながら見てて、でもところどころで急に嗚咽しながらハンカチでしきりに涙を拭ったりしてるのが、妙に心に残りました。
あんまり泣けるようなシーンでもないのに泣いてたりするので、映画のストーリーってのよりも、何か実体験とか記憶とかを呼び覚まされてしまって泣いてしまってるのかなぁと想像したりしちゃって。もしかして小さな頃にあの風景を実際に見た人なのかも、とか。
もしそうだったら、こういう映画の機能ってのも私には計り知れないと思いましたよ。映画評なんて無力だ。もっと大事なことが、「一本の映画を見る」という行為にはあるような気がして胸中複雑です。
満洲」という偽国があった時代を知らない人が日本人の(特に若い人たちの)中には結構いるのだろうし、こういう題材を映画やメディアが扱うってのは意義のあることです。そりゃ確かにそうなんです。
だからこそもうちょっと深みのある作品にしてくれって感じはあるかなぁ。せっかくなんだから。お金もかかってるんだし。観客も含めたくさんの「想い」が寄り添う題材なんですから、もっと敬意をはらって作って欲しい。せめてセリフをリアルにいえる人選くらいしてくださいよ、と。

なかにし礼さんのお母さんをモデルにしたという主人公の生き方には、私は個人的に共感しにくかったですが、こういう女の人がいるのはわかります。それにそこに共感するか否かは別に映画を鑑賞する上で重要ではないのでどうでもいいですね。そういう価値観の女性が、あの時代をどう生きたかという話なのでしょう。
でももしこれがもう少し自分に似ているタイプの女性だったら、もしかしてより感情移入ができたのかな?とも思います。そこは(ごく個人的に)残念。

それと、主人公の最後のセリフは賛否両論だと思います。もしかしたら非難轟々かもしれない。
私は少し違和感感じました。
なぜならそれを強引にも言わしめるほどの説得力がこの作品のどこにもないからです。
否定的な意見を書いてしまいそうな映画を観たあとは、ここに感想書くのはやめようと思っていましたが、ちょっと放っておきたくなかったので(私なりに背景への思い入れがある映画だったから)辛口ですが書いてみました。ごめんなさい。