6月の午後の美術館にて去り逝く天才芸術家の魂に出会うことについて

標題は村上春樹をパクってみたわけですが。
さて。
ロシアといえば巷はその夜のW杯「日本×ロシア」戦に浮き足立っていた日曜日、宇都宮美術館に『極東ロシアのモダニズム 1918-1928…ロシア・アヴァンギャルドと出会った日本』展を観に行きました。

作品はロシア革命前夜に生まれた新しい芸術表現である構成主義が、やがて共産党プロパガンダ用芸術に吸収されて別物になっちゃうまでの短い期間の前衛芸術作品が中心。それに、その潮流に触発された同時代の日本人芸術家達の作品・活動状況の回顧展みたいなのが少し併設されているって感じ。
かくいうワタクシ、10代の頃よりこうした「装置」系、「実験」系(前衛モノ)の芸術が好きでして…戦前のモダニズム潮流や当時の建築意匠であるアールデコ様式などに激萌え!という、ごくわかりやすいレベルでの初級前衛ファンなのです。

前衛、っていうのは時代を選ぶっていうか、それが生まれる時代とそうでない時代があると思うんですよ。そうでない時代にある「いわゆる前衛風」っていうのは、狭い芸術家フィールドにあって、自己満足の枠を越えないものだったりするんじゃないか?ビジュアルは似てても存在の意味が全然違うんじゃないか?と思ったりします。
「現代美術ってワケわかんない」って言う人はわりといたりするけど、そう思わせちゃうのも現代美術と呼ばれるものの中に、前衛ヅラした只の自己満足チャンが多量に混じってるせいだと思うんですけど。てなこと言うと怒られちゃうかな。でも80年代辺りにはそんな人が大勢いたんだもん。才能も美的センスも思想もないのに空間に空き缶並べて「アート」って言ってる人が。その見極めっていうのもまた、なかなかシロートには厄介だったりして。私も仕事で画壇の隅っこに関わってた頃、こういう「自称アーティスト」さん達の思い込みに翻弄されて、いつも疲れてたし。「アート」な世界って魑魅魍魎?とか思ったもんね。

ま、そういう実態の掴みにくい現代よりは、この1920年代辺りのバウハウス流や、ダダイズム構成主義の興隆ってのは、当時の社会の構造と反応しあって、すんごく実際的で刺激がある正統的な前衛潮流だと思うんですよね。必ず多角的ですし、わかりやすい。カンバスにとどまる芸術ではないのみならず、三次元さえ超えようとするイキオイがいいなぁーっていうか。目的(思想)があるという事がポイントですかね。システムとしてのあり方が、従来の絵画とは全く違ってる。つまり鑑賞する側も、同じように観てはダメなんですよね。そこがちょっと荷が重かったりもするのだけど、知れば知るほどいろんなことがわかってくるから面白くもある。

ロシアン・アバンギャルドはちょっと置いておいて、今回、私が大いに語りたいのが、日本構成主義芸術の始祖、村山知義の存在なのです。


村山知義(1901~1977)は、10代でベルリンに渡り、当時流行の構成主義芸術に触発され、日本に帰国後「MAVO(マヴォ)」という芸術集団を作って絵画、造形、演劇、建築などの多方面で活躍した前衛芸術家です。『子供之友』などに挿絵を書き続ける童画家でもありました。プロレタリア作家でもあった。

とにかく何でもやっちゃう(できちゃう)人で、当時は「日本のダヴィンチ」とまで言われてたらしい。(ちなみに頭の中身も開成→一高→東大→しかもすぐ中退っつーグレートさ。)

でね、今回の企画展には村山知義主催のマヴォの機関誌や挿絵や行動記録なども展示されてまして。
そのあまりにも胸躍る前衛臭さ、漂うオシャレな空気感、唱える思想の力強さとウィットに思わずクラクラとキてしまい(笑)、美術館を出る頃にはすっかり興奮状態で「マヴォ!万歳!」と叫んでいました。で、それ以来ずーっとネットや図書館で資料漁ったり、絵本買ったりなんかしてんですよね私。あはーは。ハマっちゃった。マヴォ!!
作品は版権があるでしょうからこういうとこに安易にUPしてご紹介できないのが残念。
でも、これならたぶん大丈夫かな?と思われるので、村山知義設計の吉行あぐりサロン(美容室)のお写真を載せてみました(現存してません)。

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あぐりさんはNHK朝ドラの『あぐり』でも人気でしたね。淳之介先生、和子さんのお母様です。(それにしても「あぐり」って…この名前、どうでしょう!モダンだわ~)この奇妙に心惹かれるデコなフォルムを見よ!あぐりさん曰く「とっても窓が開けにくかった」らしいけども(笑)。

ちなみにお手軽に村山知義の作品に触れたい方は、絵本をオススメ。
わりと多数でているのですが、『しんせつなともだち』(福音館書店)はすぐに入手できる超・名作です。今すぐ書店へ!

しんせつなともだち

しんせつなともだち

  • 作者:方 軼羣
  • 発売日: 1987/01/20
  • メディア: 単行本
 

 最近ありがちな兎や熊などの動物がやたらカワイくって人間じみているファンシーな挿絵と違って、誤魔化しではない本当の動物の可愛さが感じられてグッド&色彩のセンスの良さにも感嘆&可笑しいセンスも満載、です。
つい最近出版された幻の作品『なくなったあかいようふく』も別の意味で可愛くてイイぞ(ちょっと漫画チック)。こちらは村山知義、籌子(かずこ)←奥さま、亜土←お子さん、の共作。家族愛の塊です。

なくなったあかいようふく (日本傑作絵本シリーズ)

なくなったあかいようふく (日本傑作絵本シリーズ)

  • 作者:村山 籌子
  • 発売日: 2002/04/25
  • メディア: 大型本
 

 作品は村山氏の個人美術館:ギャラリーTOMでも観られます。
ついでに、表現演劇として踊る村山知義氏のお写真はこちら。

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村山氏と共にマヴォにいて裸ダンスをしていた仲間にかの田河水泡(高見沢路直)もいました。←『のらくろ』の作者ね。布張り復刻版『のらくろ』、全巻と言えないのが残念ですが、かなり持ってるんだよね、私。『少年倶楽部』の復刻愛蔵版も。って、ちょっとだけ自慢。

以上。萌え報告でした。マヴォ

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