立冬の日、ギャラリーTOMで

「ギャラリーTOM」は、村山知義の息子・亜土さんとその妻・治江さんが視覚障害者だった息子さん(錬さん)の一言「ぼくたち盲人もロダンを見る権利がある」で発起した彫刻専門の美術館です。
渋谷区松涛の閑静な住宅地の一角にある小さなギャラリーはこじんまりと暖かく、落ち着いて作品鑑賞ができます。
私たちが行ったときは他に誰もいませんでしたので、本当にじっくりと作品に向かい合うことができました。1Fに2部屋と、階段上のロフトという小さい建物は、それでも各場所の雰囲気がそれぞれ違い、作品数のわりにたくさんの感想をもてるステキな美術館です。
いろんな美術館を連れ回してるウチの娘が、「今まで行ったどの美術館より好き」と言って楽しそうに作品に触れていたのが嬉しかったなぁ~。
光溢れるフロアに置かれた彫刻作品は、フォルムや質感が魅力的で、ついつい手が伸びてしまうんですよ(笑)。
この美術館は目の不自由な方の為に、展示品に「触って」鑑賞できるようになっているのです。(視覚障害者のみ接触可な作品にはそのように書いてあります。)

おそるおそる指先を伸ばして作品にそっと触れてみると、ただ視覚で見るだけより不思議とその作者の気持ちの温みが伝わってくる感じ。触れながら目を閉じてみると、目の見えない人たちの見るものの一端を垣間見られるような気持ちもする。
フロア中央に置かれた、カール・プランテル作の「瞑想」という大理石の球体など、見ただけでは単なる(?)球体なんですが、触れてみたときの石の質感や微妙なフォルムの変化を通すと、悠久の時間の重なりを感じたりしました。
人間の感覚って深いなぁ。
普段、全然使ってない感覚のありかをちょっと覗いてみてしまった感じ。
2階部ロフトの展示物は前衛度が高くて、個人的に好きな作品ばかりでした。
石と木という全然違うものを組み合わせて想像力を喚起させたり、フロアじか置きのレンガ様のオブジェや大理石の「芽」など(これは視覚的な感動なんですが)まるで光を遊ぶかのような…光と影の構成そのものが作品、みたいなものが多くて。そういうのが冬の優しい日差しの中でいろんな表情を見せるのがまた良くてねー。こういう展示物を見ると、このギャラリーの建物の構造自体が彫刻観賞用に作られているのを感じます。「場」が、イイの。

視覚だけに頼りがちな私たちの日常というのはものすごく浅いのかもしれない。
特に美術というものは視覚が中心で、「眼の快楽」とまで思ってるわけなんですが、こうした立体作品に触れると、指先にもまた違う「眼」があるのを感じますね。手触り、温度、湿度、わずかな起伏…いろんな情報が指先から入ってきて脳で結ばれてできるイメージは、「見たことも無い」ものだったりするから楽しい。案外、そういった「見たことも無いもの」を目に見えるものにしようとあがいているのが芸術家なのかもしれません。

開催中の企画展は「彫刻に近づくために Ⅱ」で、展示はアーナルド・ポモドーロ、ウラジミア・スコダ、ヴェナンツォ・クロチェッティ、カール・プランテル、コルネリス・ジットマン、ジャコブ・エプスタイン、ズビネック・セカール、パブロ・ピカソ、マダン・ラル、マックス・アンリ・ラーミナの彫刻と、LUISA ELIAさんの紙粘土主体の造形作品で占められていたのですが(そもそも基本的にはここはそういった彫刻美術館なんですが)、来年1月からは村山知義の映像仕事を中心とした企画展がかかるようです。
やっぱり彫刻ファンというわけでもなく単にTOMのファンの私としてはこっちの方が断然嬉しい展覧会だったりしますが。
あ、でもね、今回訪れてみて彫刻に対するココロの垣根をちょっと低くしてもらえたのはやはりとても嬉しかったです。それはそれ、ということで。
彫刻に限らず、焼き物やガラス工芸など立体造形全般に対して全く門外漢でトンチンカンな私なのですが、行ってみて良かったです。
食わず嫌いはダメね(^^;)。

先年、館長だった亜土さんがお亡くなりになってしまったので、今は奥様の治江さんがお独りでこの愛らしい美術館を切り盛りなさってるとのことです。
丁度、館長さんは外に出てらしてお会いできなかったんですけどね…残念!次回に期待しましょう。
あ、それから。
此処に来たら絶対此処で買おう、と決めていた知義の著作も無事入手いたしました!
大正13年刊の「現在の藝術と未来の藝術」大正15年刊の「構成派研究」の復刻版2冊組。図版が多くて、震えます(嬉しくて(笑))。カンディンスキー論も多くて、ドキドキ。
私は美術を鑑賞するのが好きなのですが、それ以上にそれを分析解読するのが大好きなのです。村山知義は、そんな私のあまり感心できない嗜好をとってもとっても満足させてくれる存在で…私が彼を好きな第一の理由は、やはり彼の「芸術論」とその実践姿勢なのです(作品そのものというよりは)。それでも童画は例外で、TOMの童画はそのものでとても好きです。
ギャラリーでは童画のポストカードも販売されていたので、飛びつくようにして買いました。お馴染みの「子供之友」で書いていた童画のものです。TOMの絵本や画集なども、ここでは手にとって読んで、気に入ったら購入できるようになってます。ネットでも販売しているので、下記オフィシャルHPを参照ください。
高価なので今回は諦めた画集があるので、次回はこれを目指して行こう(笑)。

ギャラリーTOMのオフィシャルHPはこちら。

www.gallerytom.co.jp