『奇迹·笨小孩』(『素晴らしき眺め』)

ネットフリックスにて、『素晴らしき眺め』(原題『奇迹·笨小孩』、英題『Nice View』)を見ました。
この作品、日本では公開されないかもなぁ…と思っていたのですが、ネトフリが出してくれた!ありがとうネトフリ!心から感謝。

2022年:中国映画。文牧野(ウェン・ムーイエ)監督作品。寧浩(ニン・ハオ)プロデュース。
易烊千璽(イー・ヤンチェンシー)、田雨(ティエン・ユイ)、陳哈琳(チェン・ハーリン)、齊溪(チー・シー)、公磊(ゴン・レイ)、許君聰(シュー・ジュンコン)、王寧(ワン・ニン)、黃堯(ホアン・ヤオ)、鞏金國(ゴン・ジングオ)

今年の春節映画です。新年の初めに見るにふさわしい、ウェルメイドな作品。
千璽がイイよおおお!めちゃくちゃ輝いておった。役に入った時の千璽の素晴らしさを、なんと表現したらいいのだろう。うまく言えずにただただ胸アツ。
私の大好きなイー・ヤンチェンシーはこんなにステキな俳優さんなんですよおおおおーー!と大声で叫びたい。感涙。

 

以下、ネタバレしておりますのでご注意ください。

 

主人公の景浩(ジン・ハオ@易烊千玺)は幼い妹タンタン(陳哈琳)と二人暮らし。

シングルマザーで2人を育てていた母親が心臓の病気で亡くなり、景浩はタンタンを養うために大学を中退して深圳へとやってきて小さな携帯電話の修理屋を営んでいます。精密機器の修理が得意でTVなんかもチョチョイと直しちゃう。

タンタンには母親譲りの心臓の持病があり、できるだけ早く手術をしないとならないのです。手術代のためにどうにかしてお金を稼ぎたい景浩は、スマホの不良品を大量に買い取って、それを修理して売るという一獲千金の勝負に出るものの、タイミング悪く違法スマホの取り締まりが厳しくなり、買い取り先が一斉に手を引いてしまう。

大きな借金を抱えてしまった景浩は、深寧電子という大手携帯電話メーカーに自分が改良したスマホを買い取ってくれるように頼むのですが、全く相手にされません。何度断られても粘り強く交渉に行き、ついにCEOに直談判することが叶いました。

この、CEOに会いに行くまでのシーンが凄かった。
バイクは事故りーの、車にははねられーの…あれは当然スタントマンがやったのよね??というアクションシーンなんだけど、まさか千璽本人がやってる?今はいろいろと映像構築技術も進化しているから実際に危ないことはやってないと思うけど、迫力満点でハラハラしました。この時の深圳の迷路みたいな街並みの描写も素晴らしい。

CEOは景浩の話を聞き、条件を出します。
「納期は4か月以内。精密検査で85%の精度をクリアする物を作ること。手付金は払わない。それでもよければやってみなさい」

急遽、景浩は人材を集めて小さな町工場「好景電子」を作ります


全面的に協力してくれる年の離れた親友・梁さんを田雨(ティエン・ユイ)が演じているのだけど、この人がとてもいい雰囲気を醸し出してる。

梁さんは景浩のことをよく知っていて、心の裡でいつも応援してくれてるの。彼自身も貧乏なので金銭的援助はできないのだけれど、常に寄り添い、励まし、力を貸してくれる。景浩が最後まで頑張れたのも、彼の存在が大きかったと思います。良き友は財産ですね。

求人紹介所や人づてで集めた従業員たちは見るからにポンコツ風味。

仕事の腕も未熟なうえ、いろんな事情を抱えていてトラブルを起こしたりもする。

それでも、根気よく仕事を教え、励ましながら、どうにか工場も軌道に乗り、景浩と彼らの間に次第に仲間としての団結力が出来上がってゆきます。


従業員たちは一癖もニ癖もある人ばかりで面白い!詳しくは映画を見ていただくとして、ここでは一人だけ、この人↓に注目してみました。

張さん@公磊(ゴン・レイ)
元ボクサーで、今は野良犬を拾ってきては世話をする引き籠り。
作業の手際が悪く、物覚えも悪い。見かねて景浩が𠮟責すると、もの凄く悪びれてしまうので、景浩がびっくりして「ごめん、言いすぎちゃった」ってシュンとしてしまうのが可笑しい。こういう人にモノを教えるのってめっちゃ大変そう…

でも、いったん喧嘩となるとその拳が火を噴くんですよ。その落差の激しさが実にコミカル。


公磊は『長安二十四時』でも千璽と共演しております。

めっちゃヤル気のない右驍衛、趙参軍。出てくるたびにどこか可笑しく、クセの強いキャラでした。
面白い俳優さんだなぁと思ってたけど、ここでもまたヘンだったw

 

話を戻して。


工場経営と言っても、納品が合格して買い取られるまでは一切の収益は無いわけで。従業員の給料、工場の家賃、光熱費などの稼働費を稼ぐために、景浩は危険な高層ビルの窓拭きの掃除をして働きます。それでも家賃の支払いは遅れている。

幼い妹の世話をし、昼は清掃、夜は遅くまで機器の改良作業をする日々。従業員と病気の妹を抱えて働き続ける景浩は疲労困憊です。

弱り目に祟り目。そんなある日、工場に泥棒が入ります。商品となるスマホをごっそり盗んで逃走する泥棒たちと必死に格闘した景浩。盗まれたスマホは無事取り返したものの、手の指を骨折してしまいます。そのためにビルの清掃の仕事をクビになり、唯一の収入の道を断たれることに。
先行きの不安に押しつぶされそうになり、眠れない夜も…

とうとう家賃を払えず、住んでいたアパートからも工場からも追い出されることになりました。もはや何もかもを失ってゆくのか…という絶望の淵で、言葉もない景浩。この時の果てしない彼の失意を思うと、胸が苦しくなります。たった20歳の男の子が背負うにはあまりにも大きすぎる苦悩です。どうか景浩に幸せを!と願ってやまない。

そんな景浩を救ってくれたのは工場の仲間たちでした。打ちひしがれた景浩を励まし、元気づけ、工場が無くても人間がいるのだから大丈夫!と、皆で手分けして製品を仕上げてくれたおかげで、納期までに無事、仕事をやり遂げることができました!

そしていよいよ深寧電子の審査発表の日。
従業員全員で会社に訪れ、CEOの言葉を聞きます。
呆然と退席し、エレベーターに乗った後…

こうなるのですね!
最高の喜びを最高の仲間たちと共に爆発させるシーン!
結果は精密度87%の数値を出して取引が認められ、さらに2年間500万元の提携契約まで結んでもらえたのです!
本当に良かった!

何度見てもここで泣いちゃう。ずっと苦しみや悲しみで涙を流してきた景浩が初めて流す喜びの涙の尊さったらない。もらい泣きせずにいられない。

そして6年後。
立派に成長した「好景電子」のCEOとして新作発表会に立つ景浩は、自信に満ち溢れいっそう輝いておりました!

メガネをかけたシュッとしたイケメンCEOになっておるぞ!

従業員たちも皆それぞれの道で幸せに輝いている。親友の梁さんは今や会社の右腕だ。タンタンの手術も成功し、美しい娘さんに成長してる。

あの時の絶望的な状況を思うと、本当に感無量です。
人生、ツラくても諦めちゃダメだよ!と励まされているような気持ちになる。
少なくとも景浩は信じてた。「頑張ったらなんだって、できない事なんかないよ」とトントンに話していた姿を思い出す。あれは自分に言い聞かせていたんだと思う。

努力は報われる、とは限らない。
報われないことだってめちゃくちゃ多い。ほぼほぼ報われないのではないかと思ったりもする。
それでも頑張る人の姿は尊い
幸運にも努力が報われた人たちに、心から「よかった!おめでとう!」と思えるのは、先の保証なんか何もないところでもがむしゃらに頑張り続けられる強い思いに心が動かされるからだと思う。
景浩の馬鹿みたいに真っ直ぐな頑張りは、妹の手術のためという、絶対に譲れない大切な目標があったから。強い思いがあったからなんですよね。(ここで原題の『奇迹·笨小孩』って言葉が生きてくる。題名は大事なのよ…。邦題、イマイチ意味が分かんない)
徹底的な努力ができる人は、つまり信念のある人なのよ。そこが人の心に響くのです。
実に「努力の人」である千璽が演じるにふさわしい役だった。この役、他にやれる人いるの?レベルでハマってた…と思うのはファンの欲目でしょうかねぇ(汗)。

小さな妹を可愛がるお兄ちゃん、という部分も素の千璽がうかがえるところ。千璽は一回りも年が離れている弟がいて、すごく可愛がっているので、小さな子に対する哥哥ぶりが板についてる。

実はタンタン役の哈琳との共演は二度目。この映画の撮影の4年前、「放開我北鼻(僕を放してよベイビー)」というTV番組で共演しているのです。
若い男の子アイドルが、哥哥(=お兄ちゃん)になって子どもたちの世話をする、というバラエティ番組。こういう番組が人気だってのは、わかる気がする。子ども相手だと、どうしても素の性格や考え方がわかるもんね。ファンには見どころがいっぱいある。ファンでない人が見ても「なんだこれ?」って感じだろうけどw(「放開我北鼻」は全編がYoutubeにUPされているので、千璽の「哥哥ぶり」を堪能したい方はご覧になってみてください。千璽が出ているのは第2シーズンです)

当時4歳の哈琳と、17歳の千璽。

この時の千璽はまだ本人が子どもでは?って感じの少年です。
え?でも17歳っていうと、もう長安二十四時』の李必を演じてる頃ですよね…?
って考えると、びっくりする。マジで。
こんな子どもがあの演技を?うわ…やっぱり天才だわ(と、ファンはまた惚れ直す、と)。

千璽って演技に入ってる時とそうでないときの差が大きすぎて、同じ人に見えないくらい印象が違うんですよ…他にこういう人、知らないんだけど。います?

 

『素晴らしき眺め』でも、哈琳と千璽の可愛い二人の様子がたくさん見られます。
可愛すぎて可愛すぎてどうにかなりそうな幕後花絮(撮影の裏側)を貼っておきます。
千璽哥哥、最高だよー

 


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最後の最後に、エンディングテーマと共に「中国人民はみんな努力して夢をかなえています。くじけずに頑張れば、きっと明るい未来が来るのです」というコンセプトのもと、映画本編とは何の関係もない市井の方々の頑張りを映した映像に切り替わります。相変わらずなのでもはや気にはなりませんが。
個人の物語を国民の物語に落とし込もうとするのが国家の戦略だろうけれども、映画は芸術なんですよ…
こういうのを見るたびに、そういうところで頑張って作品を作り続けている人たちのことをますます愛おしく思うのですけどね!

 

ステキな宣材画像、載せときます。

千璽単独。

 

春節バージョン

 

素晴らしき哉、哥哥!

 

主題曲は劉徳華(アンディ・ラウ)とのデュエット曲「還是笨小孩」。


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「笨小孩」はもともとアンディが1988年に自ら歌っていた曲(アンディが作詞)で、1999年には柯受良(ブラッキー・コー)と呉宗憲(ジャッキー・ウー)と3人でのコラボでも話題になりました。

その時のMVがこちら(要するに元歌)。


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千璽とアンディのデュエットは、「笨小孩」的精神が新世代にも受け継がれてゆくということなのです。そのことを思うと親世代としてますます胸が熱くなります!

予告編


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