キャラを楽しむ『貞観政要』

講談社学術文庫の『貞観政要 全注釈』を読んでます。

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貞観」とは、唐の太宗・李世民在位の元号

つまりドラマ『大唐見聞録(唐磚)』で、雲くんがタイムリープした時代!つい先日まで私がどっぷり浸っていた時代です。
貞観政要』は、太宗・李世民と近臣の問答を集めたもので、帝王学の基本が学べる「統治の教科書」として広く読み継がれてきた不朽の古典。
…と言っても、私がこの本を面白いと思うのは、ドラマで馴染んだキャラによる実話だから。まるで『唐磚』のスピンオフを見ているようなのです。
「ああ、彼らは本当にあの時代に生きてた人だったんだなぁ~」と思うとしみじみと愛おしい気持ちになります。ドラマの余韻を楽しむのにうってつけのコンテンツ。

ダントツに出番が多いのが魏徴(ぎちょう)です。
諫議大夫(かんぎたいふ)(=皇帝のあやまりをいさめ、国家の利害得失などについて忠告する官職)、秘書監、侍中(いずれも皇帝の側近職)と務めてきた文官のトップ。
こちらが魏徴。

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そして初めて魏徴に会った雲くん。

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初対面の挨拶で魏徴が生きていることに感動し、ゴマすっておこうと

「さすが鏡の如しと言われた魏徴殿!」と雲くんがヨイショするシーンが印象的でした。この「鏡の如し」の逸話も、『貞観政要』に載っています。(ちなみに雲くんは史学科の学生なので歴史には詳しいのです)

(太宗曰)「いつも思うに、魏徴は事あるごとに私を諫め正すが、その多くは私の過失を言い当てている。まるで明るい鏡に姿を映すと、美も醜もはっきりと見えてしまうようなものだ」
(巻二 求諫 第四 第十章 魏徴の正諫は明鏡のごとし)

魏徴が亡くなった時、太宗が深く悲しんで言った言葉も載っています。

「銅で鏡を作れば姿かたちを正すことができる。昔のことを鏡とすれば、国の興亡や盛衰を知ることができる。人を鏡とすれば、自分の良い点、悪い点を明らかにすることができる。私はいつもこの三つの鏡を持っていたので、自分の過ちを防ぐことができた。ところが今、魏徴が亡くなり、私はとうとう一つの鏡を失ってしまった」
(巻二 任賢 第三 魏徴)

貞観政要』の中では太宗は側近の諫言をよく聞き、身を正していますが、時には皇后の諫めにも従い、厳しいことを言ってくれる皇后を「ありがたいことである」と褒めています。

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ドラマでもアニタ・ユン演じる長孫皇后はよく陛下と会話し、臆せず意見を言える信頼感があり、仲睦まじいです。

一方、皇太子・李承乾は史実ではかなり不出来な様子。遊び惚けて公務もおざなり、諫められても聞かず、逆ギレしたりするタイプのよう。弟の李泰の方が優秀で、太宗に可愛がられています。兄より弟を可愛がったというのは、ドラマでは「そう見えるかもしれないが、実は違う。皇太子に奮起して欲しいからあえて厳しくした」となっていたけれど、史実は承乾のダメ度がかなり重篤なので、長幼での身分を超えて、つい弟の方を贔屓するのも無理からぬ感じ。

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兄・李承乾(左)と弟・李泰(右)

魏徴は王子を贔屓する太宗を何度も諫めていますが、その文脈も「優秀な李泰が安全に成長できるようにするため」というもので、李承乾をかばったものではない感じ。放蕩息子に頭を抱えている皆さんの様子が伺えます。

史実では魏徴が憂えた通り、兄弟は反目しあい、結局は二人とも潰れる結果に。太宗の跡を継ぐのはその下の弟・李治(のちの高宗)になります。

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雲くんが初めて李治に会ったとき、「李世民を継ぐのは李治」と知っているけれどそこに至る詳細は…なんだっけ?という感じでした。親友の李承乾にこれから起こることがわからぬという、ちょっと勉強不足だった雲くん。ここんとこ詳しく知っていたら、親友を救うこともできたろうに…って、まぁ時代の流れはかわらないか。

蝗害に関する逸話も載っていました(意訳)

蝗害の折、太宗が穀物の視察に行ってイナゴを見ると、数匹を手に取って「人民を苦しめるイナゴなんか食べてやるぞ!」と口に入れようとした。側近が「病気になりますからおやめください」と慌てて止めたけれど、太宗は「呪いをわが身に移すのだ。病気なんか怖くない」とイナゴを食べてしまった。その後、蝗害は収まった。
(巻八 務農 第三十 第二章 イナゴを飲み込む)

「イナゴは美味しく食べられる栄養豊富な食物で、皆でイナゴを食べれば蝗害による食糧難にも対応できるし、イナゴ退治にもなるよ!」と教えたのは(ドラマでは)雲くんですが、史実ではこんな都合の良い(?)神がかりエピソードがあったのですねぇ。

雲くん主催のイナゴ試食会の様子は可笑しかった!イナゴが食べられるなんて思ってもいない人たちへのプレゼン。

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まずは陛下が恐る恐るイナゴをパクリ…

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「うまい!」の一言で、魏徴も恐る恐る…

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あまりの美味さに猛烈にパクパク

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おかわりまで所望しておりました!

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魏徴、めっちゃ可愛いんですよ。謹厳実直なのに人間的な感じが好きです。

陛下と魏徴が「うまい!」と言ってたべたのだから、あとはもう皆さんイナゴの取りあいです。「イナゴうまいぞ!」は市井の人々まで大きく広がり、町の料理屋ではイナゴの価格が高騰するまでの人気となりましたとさ!というオチ。

ちなみに私の故郷(群馬)では、イナゴは甘露煮にして食べます。…といっても、あまり一般的ではないのかも。高校生の頃、お弁当にイナゴの甘露煮が入ってたことがあったのだけど、円陣を組んで一緒にお弁当を食べていた仲間たちがそれを見て「ギャー」と席を立って逃げましたからねw 栄養価も高くて美味しいのですけど、見た目のインパクトは強いかも(?)

今では缶詰でお手軽にご賞味できます。ぜひお試しあれ!

講談社学術文庫版は全訳版。解説もすごくわかりやすく、サクサク読めます。訳だけでなく原文もついているので、深く学びたい人にもよさそう。