「名画でたどる西洋絵画400年」展 その2

昨日の続きです。


展覧会で印象的だった作品の感想を。ろくな知識もない、率直かつ単純な個人的覚え書きです。(富士美術館さんは、収蔵作品の画像を自由に使っていいというダウンロード機能がついておりましたので、その画像を載せています。)

 

◆「ルイ16世の妹 エリザベート王女」
エリザベート=ルイーズ・ヴィジェ=ルブラン

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肖像画というのは、描かれた人の人生を知っているのと知らないのとではおのずと見方が違ってきます。その人の「その後」がどうであったかで、肖像画に描かれた時点の佇まいへのシンパシーが変わってくる。
エリザベート女王=マダム・エリザベートは、マリー・アントワネットの無二の理解者、親友のような存在として知られています。信仰心厚く、穏やかで優しい人であったという記録が残っています。兄ルイ16世夫妻の元に残るために結婚もせず、常に夫妻を支える家族として傍にいた人です。フランス革命の際も、運命を共にしました。最後には断頭台の露と消えました。
この肖像画が描かれたのは1782年。革命の7年前です。アントワネットは前年に初めての男の子(王太子ルイ・ジョゼフ)を生んで、王妃としての自信が漲っていた頃。プチ・トレアノンで遊ぶのに夢中で、マダム・エリザベートにも「ここで一緒に暮らしましょうよ!」と誘っていたようです。蜜月の日々、といったところでしょうか。
この肖像画を描いたヴィジェ=ルブランもアントワネットのお気に入り。この作品もアントワネットが描かせたのかもしれませんね。のちの悲劇をまだ知らない王女の明るく幸せそうな微笑みが、胸に沁みます。
ちなみにヴィジェ=ルブランのビジュアルはこちら。かなりの美人画家さんです。

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彼女は革命後もヨーロッパの各地を転々とし、上流階級の人脈を作り、人気画家としてたくさんの作品を残し、各地の芸術団体の会員になり、回想録も書き上げて86歳で大往生を遂げています。好きな仕事を思う存分やり、認められ、称賛される人生。しかもお金持ちで長生きで、って最高だなぁと思うけれど、彼女の旦那は博打好きのダメンズで夫婦仲は悪く、子どもはグレて家庭は常に悩みの元だったそうな。人生いろいろ……ですねぇ。


◆「漁師の娘」
イリアム・アドルフ・ブーグロー

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この作品は「生きている!」と感じるまでの肌の質感が凄まじいのです。ここまで生命力を感じさせる人物画って初めて見ました。実物を前にすると、ホントに息を呑みます。写実を超えた表現力。驚愕の作品です。


◆「シルクのソファー」
ミケーレ・ゴルディジャーニ

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題名にもあるシルクのソファーの艶やかな光沢のある生地の表現力が素晴らしい!その質感の対比として、「ソファーの上のクッションの黒いビロードのような柔らかさ、背後の皺がよった壁紙の薄さ、少女の白い衣装の半透明な質感と頭部のリボンの光沢、床に敷かれた絨毯の厚ぼったい重さ」といった素材の質感が丁寧に描き分けられています。近づいて見てみると、わりと思い切った色ののせ方をしているんですよ。でも、ちょっと離れて再度見ると、見事にシルクの質感が表現されている。まさにマジック!という感じなのです。一枚の作品の中にたくさんの描画のお手本が詰まった作品という感じ。勉強になります。

 

◆「花」
ジャン=バティスト・モノワイエ

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決して実際には同時に存在しえない季節違いの花々を盛り込んだ作品なのだそうです。ありそうで、絶対に無い世界。華やかだけど、嘘の世界。……ってのが、ミステリアスで素敵です!
それぞれの花の美しさが丁寧に描かれていて、まさに美の競演といった感じ。


◆「ポール・アレクサンドル博士」
アメデオ・モディリアーニ

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この博士、めっちゃ素敵でしょ!見惚れちゃう。首が細くてすらっとしてて、でもガシッと大きな手がセクシー。肖像画って、実物より幾分”盛って”描かれるのだろうけれど、ここまで原型から離れて雰囲気で押して尚且つカッコよく仕上げるってのは、さすがだな~って思います。
まだほんの初期(1909年というから、モンパルナスに来たばかりの駆け出しの頃)に描かれた作品ですが、すでに個性的なモディリアニ・スタイルができています。
モディというと、その悲劇的な生涯が印象的で、作品を見る時も無意識にそういう雰囲気(暗い、苦悩のイメージ)を投影しちゃうのだけれど、巧みなデフォルメで人物の雰囲気を描き取る才能は、もともとあったのだな、とあらためて感じます。
当時の画壇ではこういった人物の描き方ってかなり斬新だったでしょうね(モディの首長スタイルは、藤田嗣治曰く「俺の影響」だそうですがw)。すごくカッコいい。現代の漫画やイラストにも通じるセンスがある気がします。


◆「再開」
ルネ・マグリット

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不思議なんだけど可愛くてハイセンスな意匠に一瞬にして心を奪われてしまう。「うわ~……」と息を飲んで小さな絵の隅々まで凝視。そして溜息。異空間へと誘われてゆくワクワクした愉しい気分と、謎めいた不思議な戸惑いを同時に感じます。
マグリットの作品を見ると無性に模写してみたくなるんだけど(できるわけないけど、やってみたいってだけよ)、この作品はその筆頭かも。


◆「黄昏の古路」
アンリ・ル・シダネル

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シダネルは夕暮れの街角にポツンポツンと灯がともる様子や食卓のある風景を多数描いています。モチーフがいつも似ている(私が見る限りにおいては)。常に日常の中の心温まる幸せなひと時がそこにある。人影は無いのだけれど、生活の息吹が濃厚に漂っていて、とても家庭的な親密さを感じるのです。ささやかで偉大な刹那の安らぎ。人生、という大きなものさえ感じさせる作品です。

私の大好きな作品に、シダネルの描いた「夕暮れの小卓」というのがあります。
こちら。なんとも言えない安らぎがあるのです。

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この作品の感想を書いた記事が過去にありました。

www.freakyflower.com