「色、戒」(ラスト、コーション)その2

昨日の続き。
いくつか気になった小ネタを。


■ジェスフィールド76号


私が租界だった頃の上海を好きになったのは18歳の頃、「上海バンスキング」(映画版)を観たのがきっかけです。
古い上海の地図を広げては、想像の羽を広げて「魔都」を楽しんでいました。
サッスーン・ハウス、ブロードウェイ・マンション、ジャーディン・マセソン、江海関、大英帝国総領事館、新世界、大世界、四馬路…
建物の名前や地名を聞くだけでうっとりと憧れたものでした。
その頃から私にとってフランス租界にあったという「ジェスフィールド76号」というのは独特の魅力を持った存在だったのです。
こここそが、”リトル・デビル”と呼ばれた丁黙邨(ディン・モーツン)の活動の本拠地。彼らに拘束されこの建物に連れ込まれた反日活動分子たちは、生きて二度とは出てこられなかったという恐怖の館!でした。*1
なので、最初、この映画の話を聞いたとき、嬉しくて興奮しました。
すごく興味を持ってた題材を、大好きな偉仔主演で見られるなんて、最高じゃないの!と。
ずっと頭に描いていた「76号」が再現されるのだ、と勝手に思い込んでました。
予告編でタン・ウェイが裸で窓辺に佇むシーンがありましたが、あの場所を「76号」だと思い込んでワクワクしたりね。
フタ開けたら、そういったものからは遠い作品だったわけですが(それはそれで、よかったんですけどね)。


わずかに76号らしかったのは、王佳芝を待たせた車に易先生が乗り込んできて拷問の話をするシーンで出てきた建物(高い壁があるちょっと拘置所風の)ですかね。
車窓を流れる並木路は実にフランス租界っぽかったですし。
あんな感じの場所にあったんだろうな、と想像しました。
敷地内にあったはずの大きな洋館は画面からはうかがえなかったですが、あの不自然なほど高い壁と有刺鉄線は雰囲気を伝えていました。あの門を入ると両側にトーチカが設置されてもいたんだそうですよ。怖いね!
今はこの場所は学校になっていてかつての建物はもう跡形もありません。
永遠に、消えてしまった場所です。


■黄磊


リーホンの演じる愛国青年を見ながら、黄磊のことをフッと思ったんですよ。「リーホンの役、黄磊が演じてもハマるだろうなぁ」ってね。
そしたら、いきなり「黄磊」の名前が出てきたので度肝抜かれました!
頭の中で思い浮かべた瞬間、字幕に「黄磊」って出たんだもん、そりゃ驚くって!
このシーン↓です。



ひー。な、な、なに?!この偶然。
「みんなは?元気なの?黄磊たちは?」って。
要するにレジスタンスのお仲間に黄磊という名前の人がいたんですね(高英軒という役者さんが演じてる)
このシーンより前にそのことにはまったく気づかなかったのですごく唐突な印象でした。
あービックリした〜。
センセがアタシを呼んだような気がしちゃったよ。


■打麻雀


この映画は麻雀のシーンが多いです。
易夫人が麻雀とショッピングで寂しさを紛らわしている人だ(=夫婦の間は今や形だけ)というのを表現するために、そのシーンが多くなっているのだと思うのですが…
何が好きって、麻雀が大好き!な私には見てるだけでこれらは楽しいシーンでした。飽きない。
麻雀が好きな人ならわかると思うけれど、麻雀はとりあえず人をシアワセにする。
駄ベリをしながら徹夜で麻雀なんて、至福としかいいようがないですよ。お給仕さんが食べものやお酒を運んでくれたらさらにいうことなし!太太たち、美味しそうなスープ飲んでましたねー。
あの牌も、手触りがよさそうで、香港の牌ほどデカくもなく見目麗しい牌でした。
卓に縁(ふち)がついていないから、積むのが大変そうでしたけどね。


太太たちの麻雀は、勝負師のそれではない、のんびりと社交的なものです。麻雀よりおしゃべりのほうがメイン、という感じ。
とにかくよく鳴く麻雀だなぁーというのが印象的でした。
マイ夫人(タン・ウェイ)が「五門齊白板」であがるシーンがある。
五門齊(ウーメンチー)ってのは、マンズ・ソーズ・ピンズ・風牌・三色をそれぞれ刻子で揃えた役。
ローカル役(一般的ではない役)なので、あまり使わないけれど、役満だし、ツモれば四暗刻が付くからデカイです!(「白板」てのは白の役も付く、ってことです)
これね、別名「五族協和」とも呼ばれる役なんだそうです。
五族協和」とは、言わずもがな、満洲帝國のスローガンですよ。
アンリー監督、こんな細かいところにまで当時の社会風刺を入れたりしてるの??って思ったり。もしそうなら深いねぇ。(注:この部分じゃないかもしれないけど、麻雀シーンには何か意味が隠されてる部分があるみたいですね。どこだろう?もう一度見返してみようかなぁ…重箱の隅?)

*1:一時期、私はこの「76号」に魅せられて、国会図書館に通って関連文献を調べたものでした。いつか自分で物語を作る時の参考にしよう、と思って資料を集めていたのです。いまだに実現してませんが(汗)。その時に集めた資料を昨夜久しぶりに取り出して読んでいたら、1929年の工部局(日本の租界支配組織)の年報に「租界の外にある炭酸水工場で作られたソーダ水は不衛生であるので注意」「無認可の牛乳屋の牛乳には混ぜものが多い」「中国商人が扱う食料品には注意しなければならない」なんて記述を散見しました。昔も今もこんなところは変わらないのね(爆)。