北軽井沢逍遥

連休が終わるなり体調を崩してしまいました。
まとまった休みがあるとはしゃいで予定をギッシリ入れるから後でどーっと疲れちゃうんだよね。子供か!


毎年変わり映えしないスケジュールなんですが、連休後半は北軽にある親戚の別荘に行ってました。
特に何をするでもなく、普通に料理作ったり掃除したり散歩したりして過ごしましたですよ。


この辺りは、大学村と呼ばれる古くからの別荘地で、散策していると有名人のお宅の庭先に出たりもします。



林の奥にちらりと見えるのが、劇作家の岸田國士一家の別荘です。
人様のお宅をあからさまに写してはイケマセンので、遠目に雰囲気だけ(^^;;。
娘である詩人の衿子さん、女優の今日子さん姉妹が幼少の頃から夏を過ごしていたという「山小屋」。
姉妹が若かった頃は、文学座の団員や詩人仲間が集まっては創作活動をしていて、サロンのような雰囲気だったといいます。
今日子さんは先ごろお亡くなりになってしまいましたが、晩年はここに住むようになった衿子さんの元を訪ね、頻繁に滞在していたのだとか。
かつて、今日子さんと三島由紀夫の「密会」があったとされるのも、もしかしたらここなのかな?
衿子さんが後に結婚した(けど1年で離婚した)谷川俊太郎氏もここ「大学村」での幼馴染みだそうです。


岸田姉妹の別荘での生活の様子は、「ふたりの山小屋だより」という共著本で伺えます。


ここには、谷川俊太郎、寺島尚彦(元・洗足音楽大学教授、「さとうきび畑」などの作曲で有名)を交えての幼馴染み座談会も収録されてますが、お話からは戦中戦後の文化的な家庭の子どもたちが過ごした夏の様子ってのが伝わってきて楽しいです。
寺山修司谷川俊太郎に対してどうしても拭えないコンプレックス(出自や育ちにおける引け目)を抱いていた、ってのは有名な話ですが、さもありなん、という感じ。谷川さんって、ホントにおぼっちゃんなんだもんw
それにこの人たちって、みなさんインテリのご子息ご令嬢で、お金持ちだとか血統がいいとかの家の子とはちょっと違った文化的な雰囲気があるんですよね。
自分独りの足で青森から遠い階段を昇ってきた感のある寺山には、谷川の東京知識階級の「純粋培養」ぶりは眩しい存在だったことでしょう。
でも、岸田姉妹や谷川俊太郎の父が有名人でなかったら、寺山のように世の中に出てこられたかどうかってのも感じずにはいられません。
才能はあるし、作品は私も大好きですが、環境が及ぼした恩恵は大きいなぁ、というのも感じる。
けれど、文芸に関しては「苦労知らず」は一つの財産だとも思うので、きっと最初からこうなる運命だったんでしょうね。それでいいのです。
世の中は常に不平等で、だからこそ、「物語」が成り立つのだし、一方で寺山のような存在が欠かせないのだし。面白いものです。


閑話休題
「大学村」のある別荘地は、その昔、法政大の学長・松室致の持ち物で、その関係でさまざまな学者や文化人が集まってコミュニティを作るに至ったのだそうです。
ざっとあげてみると、岩波茂雄、野上豊一郎・弥生子夫妻、安倍能成芥川比呂志・也寸志、大江健三郎佐野洋子*1などなど。文化人揃いです。
そういえば、野上豊一郎も、谷川俊太郎の父・徹三氏も、法政大学学長(総長)歴任者です。
パッとしない三流校のイメージが定着しているわが母校ですが、こう見るとなかなか文化的ではないですかw。ちょっと嬉しいです。


野上豊一郎は漱石門下生だったことから、漱石にゆかりのある岩波茂雄氏(岩波書店創業者)などもここに住むようになったようです。
この辺りの林を歩いていると、そういったかつての「選ばれた文化の担い手」である芸術家や学者たちが愛した、落ち着いた雰囲気を感じます。俗っぽくない空気がある。
北軽って、いわゆる「軽井沢」ではないのですが(北軽井沢は群馬なんですヨ…正しくは群馬県吾妻郡)、軽井沢が消費天国と化した今、ホントの軽井沢スピリットのようなものは、むしろここに残っているように思います。


とはいえ、私個人はこの地への思い入れはありません。
もし私が別荘を持つとしても、ここには建てないでしょうねぇ。
文化人の存在やらなにやらを別にしても、ここは「古き良き時代」の場所という感じで、どうも自分の場所だという気がしない。
時折、観光者気分で訪れるくらいで充分。
それでもウチの娘などは、物心ついてから毎年、GWと夏にここで同年代の従姉妹たちと過ごしているので、幼少期の思い出としてこの地の空気がしっかりとインプットされているようです。
彼女たちで作り上げてきた独自の遊び場もあるようだし、子どもならではの過ごし方をしているんだろうなぁ。
村の様子の変化にも敏感なんですよ。「あの道にあった木がなくなってる」とか、そういうのに。私はそんなこと、最初から何も気づいてないけれど。
彼女たちにとってはここは毎年更新されてゆく「懐かしい場所」なんでしょう。
それはすごくいい経験なのではないかと思いますね。



別荘裏手の林から見た夕日です。
(どうでもいいけど、こういう写真がきれいに撮れるイイ腕とイイデジカメがアタシは欲しい。)
山奥にひっそりと存在していたはずの北軽の別荘地も、最近になって急激に開発の手が伸びてきています。
大学村付近の砂利道も舗装されるところが多くなってきたし、この雑木林も、すぐ隣まで伐採されて工事中の看板が建てられています。
リゾートマンションも建っているし、河川の工事も進んでいます。
こうして日本はどこもかしこも同じような味気ない商業主義的な風景に変わっていくんでしょう。

*1:佐野洋子さんは谷川俊太郎の3番目の元・奥さんっすよ。才能溢れる元・妻が二人も北軽に住んでるなんてねー。谷川氏には敷居の高い場所なんじゃなかろうか(笑)。