「ロシア児童文学の世界」展

ロシア物関連の展覧会にはできるだけ足を運びたい私。
昨年、足利で観たロシア絵本展とちょっとかぶるところもありそうですが、あちらは絵本の絵が中心なのに比べこちらは小説や物語を含めたロシアの児童書籍文化を追う…というようなスタイルでして、そのコンセプトは若干異なるものです。
会場となる「国際こども図書館」へは初めて訪れました。これ、昔の国会図書館の分館ですよね?外観はすごく豪壮な明治の西洋建築。

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で、内装は新しくてピカピカのオシャレな図書館でした。
すごい!こんなところに遊びにきたら、一日いたって飽きないと思う。子供たち連れてまた来よう。

展覧会は3階の「本のミュージアム」で。
ここの内装もすごく凝ってて素敵です。ブースごとに円形の展示コーナーがあって、そこに、想像したよりたくさんの資料が展示されていました。見ごたえたっぷり。なんと展示資料数389点ですよ。
こんな豪華な展覧会がなんと無料。
「え?いいの?」ってくらい、恐縮しちゃいましたよ。

私が生まれて初めて接したロシアの物語といったら、たぶん4、5才の頃に読んだ「ななつのお願い」だと思います。
この物語の記憶は強烈にあるんですよね。日本には絶対にないトーンをもった…ようするにとっても西洋風のお話だったので。絵本の絵まで覚えています。
それから「金の魚」。これも魚の絵が奇妙でちょっとグロで(笑)記憶に残りました。それから「てぶくろ」「おおきなかぶ」「3びきのくま」…このあたりは有名で、今も変わらない絵の絵本が売られています。
案外身近なんですよね、ロシアの物語ってのも。
展示にはそういった懐かしい(日本で翻訳出版された)物語ももちろん全部そろってましたが、やはり観てて飽きないのは革命前後のロシアの絵本の挿絵の豊かさでした。

展示は、帝政時代のものから革命を経てソ連時代へ、さらにペレストロイカの時代へとめまぐるしく変わったロシアの歴史をたどりながら、各時代に子供たちが読んでいたものを見ることができる形になっていました。
昔話や伝承文学がきれいな挿絵で描かれている19世紀の絵本も美しいし、革命前夜の(私が一番好きな時代の!)前衛芸術家たちがこぞって腕を披露したのであろう、ロシアアバンギャルドの画風で描かれた絵本、さらに革命によるプロパガンダに溢れた絵本、社会主義リアリズムを描いた物語…と、歴史とともに児童文学とそこに描かれた絵の世界もめまぐるしく変わってゆきます。
でも、一貫して言えるのは、ロシアの芸術の水準の高さです。もともと、ロシアって芸術の国で、水準点が高いんですよね。だから、時代が巡って新進の作家が出てきてもどれもレベルが高いんだろうな。
それは国家の理想の高さにつうじるのかもしれなくて、だから最近のロシア芸術はかつての勢いが無いんだとも言えるんでしょうね。混迷の時代に入っちゃったっていうか。
ま、でもDNAに芸術家の魂が宿ってる民族ですから、きっとまた盛り返すと思うけれど。

それとね、もうひとつ思ったのは、子供はやっぱり「良い」本を読むべきだということです。
読書は自身の感性や哲学を形成するために無くてはならないものなのだから、できれば深みのあるものを与えたい。
なんかね、そういうのをしみじみと感じてしまったよ。
だって、普段、日本の本屋に並んでいる本とは、本のもつオーラが違うんだよね…展示してあるこれらの本はさ。なんというか、子供に対しての敬意があるのね。日本の子供向け図書はあまりにも子供を軽んじているわな…と、つくづく思う。
なんでもキャラクターをつける、TVに出てくるものがそのまま本になっている、安易な絵が使われている、漫画のような小説etc。肝心の想像力を刺激する要素の希薄な本が溢れてる。本屋は雑音のような本でいっぱい。
本の中に広がる無限の豊かさを実感する機会を、少しでも多く子供に与えたいけれど、それには親の努力が必要なことを痛感します。これは自省を込めて思うのだけれども。
吟味して導く努力というかね。
図録に載ってた小野かおるさん(絵本画家・東京造形大名誉教授)の話を読んで、ただただ溜め息でしたよ。
幼い頃、父親の中山省三郎さん(ロシア文学者)が、いつも読み聞かせをしてくれた…しかも、「絵のない、とほうもなく厚い本を少しずつ」だったり「詩の本」やマルシャークやレーベジェフの本を、毎日読んでもらっていたと。
それってどんなにか豊潤な記憶だろう!
ううう。親が違うときっと子も違うんだろうな…といういい見本ですね。頑張ろう、私も。

図録は会場では買えず、注文で宅配されるというシステムでした。
後日届いた図録を見て、再び嘆息。

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すごく力が入ってて、充実してる図録なのです。これはもう、企画した側の愛情と情熱を感じます。
とてもいい企画展でした!

公式HPはこちら。

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