「台北晩9朝5」

虚無的な若者の彷徨はどこも似たり寄ったり

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今をさかのぼること8年前にテディ・チャン(陳徳森)が監督したUFO製作の香港映画、若者たちの性と愛を描いて話題になった作品「晩9朝5」のリメイクです。
舞台は2002年の台北に移っています。
テディ・チャンは今回は製作に回り、監督は今をときめく戴立忍が務めております。香港版と比べてみると面白いよー。

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おおお。カウンターテーブルにカクテルを置いて、撮影秘話を語る戴立忍導演。
演技指導中はこのヨレシャツを脱ぎ捨てて、ハダカでメガホンを握る熱血ぶり。アンタが脱いでどうする(^^;;。
ストーリー及び見どころは、こちら(私にこの映画を強力PUSHしてくれた戴立忍迷のsienさんのサイト。レビューコーナーを見て!感動よ)が、日本一詳しいので、参照していただくとして(笑)、ここでは個人的にいくつか感じたことなどを。

とにかくまず驚くのが、「今の台北ってこんなにオシャレなのかー」ってことです。
キレイな街角、最新流行の服で闊歩する女の子たち、センスのいいインテリア、設備の整った部屋。
クラブで流れる音楽は東京の流行と寸分もたがわないし、オフィスもピカピカ、モバイルも携帯電話も日本のものより機能良さそうで…何から何までまるでそれは「ありえそうだけどありえない」作り物の世界なのね。
でも、この作品ではそれがポイントなんだと思ったの。
生々しい男女の関係を描いた、描きようによってはグロにも下品にもなる題材を扱ってる本作品では、ときにその「作り物の背景」は緩衝材のようにふんわりと全体の空気を和らげるのです。
つらい恋も、すれ違いも、別れも、死の悲しみも、裏寂れた汚い街角にポンと置かれるのと、夢のようにきれいな場所に置かれるのとではやっぱり違うんですよね。
「リアリティがない」と言うヒトもいるかもしれないけど、このささやかなマジックは映画ならでは、だと思うのです。
しかもこの映画って、さらにダメ押しのように、いいところで花火が上がったり、雨が降ってきたり、100本もの風船が空を飛んだりするんですよ(笑)。もう、舞台はできすぎ、って感じ。

でも、物語に描かれている男女の感情のもつれあいは決して飾られてはいないです。
とてもリアル。
それぞれの個性が端的に描かれていて、一人一人の悩んだり苦しんだりしてる姿が手にとるようにわかる。群像劇だけど、いわゆる「賑やかし」のようなお飾りのキャラクターが一人もいない。

私は個人的に香港版を観たときからとにかく「Cola」という男の子が苦手なのね(^^;;。(香港版では陳小春が、台湾版では張兆志が演じてる)
香港版よりさらに台湾版のColaが強烈だったんだけども、おかげでこの役が初めて掴めた気がするんですよ。小春は単なる遊び人みたいな演じ方だったけど、張兆志はね~立派に「病人」だったのね。SEX依存症、みたいな。ヤってないと不安なのね。そういう距離感のとりかたしかできない。恋ができない。
張兆志の演じるColaには、そんな苦しみが感じられました。

逆に、一番共感するのはEVAなのですが、彼女も単に臆病だったり頑なだったりというのではなく、すごくナチュラルに彼女自身の個性がああなのだ、という許容の広い描き方をされていて、魅力的でした。
結局ね、EVAは大好きなBENと別れる事になったけど、そのかわり永遠の恋を手に入れたんだ、と思うんですよね(私が共感する理由はソコです(笑))。
これでBENはきっと一生、EVAを忘れない。
手に入れられなかったキレイな女性を、ずっと胸にしまっておける。しかも(これまたダメ押し的に)トランペットまで付いてるんだから(笑)。もう、EVAは「女神」と化してるよね。
別れはとてもツライけど、結局EVAは勝利者なのだと思うのね、アタシの価値観だと。だからもう、ものすごく綺麗に見えた。

このBENを演じてたのが黄玉栄という俳優さんなのですが、彼はちょっとイカすのよ(笑)。蘇有朋を骨太にした感じのタイプで。人気出るんじゃないっスかね?
一方、末期癌に冒された父親を見守りつつ、生きることの無常を鬱々と思い悩んでいる薬の売人:小馬を元・L.A.BOYZのスタンリー・ホアン(黄立行)が演じてます。スタンリーというと、刷り込みのように「ユースケ・サンタマリア?」って感じのニヤケたイメージだったんだけど(笑)、久しぶりに見たらそうでもなく。男臭い感じ、しましたね。二枚目ではないと思うけど、役が二枚目だったので雰囲気はGOODだったと思います。
女の子も、みなさん新人さんらしいのだけど、等身大に上手に演じておりました。
気になったのは、IDEN役の江沂倫って子がさー、小美(江美琪ね)に似てるな~って思ったんだけど。親戚?って、関係ないでしょか。

監督の戴立忍は、画面の作り方が本当にロマンティックです。
性的な部分もイヤらしくなく、でもきちんとエロティックに描いておりました。
思うに立忍は女の子の「乳」だの「尻」だの「足首」だのよりも、何をおいてもまず「腰」(腹部も込み)にエロを見い出してるような気がすんのね(笑)。
女性たちの腰の写し方はそりゃもう的確にエロでした。みなさん腰が細くてしなやかだしね。とてもセクシーにきれいに撮ってくれてます。
飲み会の席での「王様ゲーム」でも、腰を舐める、っつー罰ゲームあったりして。監督のこだわりか?(爆)。

香港版はラストに到るまでがすごく暗い雰囲気だった記憶があるのですが、こちらはほんのりと希望が感じられる優しい終わり方をします。
黄立行演じる小馬のその後も触れていない。Hitomiは相変わらず夢を追っている。VIVIには笑顔が戻り、COLAはマイペースで生きてる。
誰もが優しい陽だまりの中に佇んでいるような…そんないい終わり方でした。