『長津湖之水門橋』

『長津湖』の続編です。

続編の監督はツイ・ハークだけになったのね。(陳凱歌とダンテ・ラムは監修だけのクレジットになってる)そういわれてみれば画面が実にツイ・ハークだった気がする。なにやら戦闘ゲームのワンシーンのような絵とか。
戦争映画にだって娯楽の側面があるのだろうけれど、この映画は娯楽としては見るにはかなりシンドイ。こっちだって千璽目当てで見てるのだから立場的には明らかに娯楽なのだが(汗)、物語を娯楽として消費できるかといったら全然そんな事は無い。
まぁ、私は戦争映画の見方をそもそも知らないのだけど。どう見てよいのかわからない、というのが本音。

 

以下ネタバレあります。

 

今作品はドンパチの極みとも思えた前作よりも、さらに圧倒的に残虐で過激。観客は過酷な視聴体験を強いられる。(しかもこれ映画館では4DXとかの上映があったそうだから凄い。ずーっと轟音の中揺さぶられ続けるのか。吐くかもしれない)
画面の向こうで体がバラバラになって吹っ飛んだり撃たれてハチの巣になったり火炎放射器でボウボウ燃やされたりしている人間を見て、血の匂いや痛みの感覚を少なからず受け取ってしまう想像力のある人は、見続けるのがとてもキツイ作品です。戦争映画は多々あれど、ここまで残酷で酷い死に様をこれでもかと見せられるものはあんまりないんじゃないかな。(でもこれが本当の戦場というものであろう)
正直、ギブアップ寸前。あまりにも残酷な絵を立て続けに見せられて、途中で本当に具合が悪くなりました。
今まで映画見て体調不良になったのはざっと思い出してみたところでは『セデック・バレ』『天国の門』『プライベート・ライアン』『スターリングラード』あたりだが、『長津湖之水門橋』も無事お仲間入りです。とにかく脆弱な神経と妄想過多な創造力を持った身としてはシンド過ぎた。
途中何度も視聴をやめようと思ったのだが、だが、だが!千璽が見たい!というどこまでもヲタクな執念が私を最後まで奮い立たせた。頑張って最後まで見た。ラストにかけての千璽が素晴らしかった。ああ、私はこの表情を見るためにここに来たのだ、と感無量でしたよ。
…って、バカだねぇ。こういった数多の千璽のファンを最後まで引き付けておくための装置に、私もまんまと引っかかったわけだ。制作側の「これ、易烊千璽を出しとけば戦争映画苦手な女子供も最後まで見ますよ。ぜひ彼はラストまで生かしておきましょう」みたいな思惑、絶対あったはず。そういう使い方されるよね…そりゃあね。
まぁ、そんな期待にガッツリ応えられるほどの見事な演技力があるということですが。

 

前回、多大な犠牲を生じた国連軍が一時撤退をしたことで、一応の勝利を遂げた志願軍ですが(それでも志願軍側の犠牲も尋常じゃなく、氷像のように戦闘態勢のまま凍死した兵士たちが多数いたのは衝撃だった…)、再び国連軍と戦闘態勢に突入。七連のミッションは、国連軍の唯一の交通路である水門橋を破壊すること。水門橋は上から下を一望できる高台にあり、そこに食い込んで橋を破壊するのは至難の業です。
水門の様相はこんな感じ。

ちょっとこれは大胆な構図で、実際はここまで高低差はないものの、とにかく上に攻め入るのは難しい。しかも七連軍は徒歩で移動するしかない兵士のみ。銃器も手持ちできるだけのものしかない。必然的にゲリラ戦にならざるをえず、個々人の戦闘能力に大きく拠ることになる。
いくらなんでも最初から無理があるのよね…。しかも想像を絶する寒さである(零下40度)。食料も無い。飲まず食わずで1週間…という勢いだ。そんなので、物量豊富な国連軍に勝てるわけがない。待っているのは破滅への道です。七連メンバーのその後はといえば…

◆指導員の梅生(朱亞文)

戦闘開始以前に、もはやこんな状態。なんかもう…一見して絶望的です。スマートで都会的だった梅生が見る影もない。眼を負傷していて、視界がどんどん見えなくなっていってるんですよ。だからもはや何もできない。これはもう生きて帰れる感じではないなぁ…と、見ているこちらも諦めムードに。最後は荷台に火を放ったトラックに乗って敵陣へ特攻。炎の中、郷里に残してきたお嬢ちゃんの写真が舞い上がるシーンが涙を誘います。
ちなみに梅生だけ、回想で奥さんとの別れのシーンが出てくる。上品で美しい妻が「帰ってきたら娘の数学の勉強を見てあげて」と言っている。心細そうな表情の奥さんの姿が心に残ります。

◆火力排排長の余從戎(李晨)

満身創痍の七連が束の間の休憩をとっている時に、上空に国連軍の爆撃機が迫ってくる。その時、たまたまラジオの電波を拾うために一人離れて山頂にいた余從戎。雪山の山頂で8機の敵機を自分に引き寄せ、仲間たちと離れた方向に導きながら、機銃掃射で全身を撃たれ、猛火にくるまれて焼かれて死んでゆくのです。身を挺して仲間を救った姿に涙…。

◆狙撃兵平河(韓東君/エルビス・ハン)

優秀な狙撃兵である平河は八面六臂の大活躍で、幾度もの危機をかわしてきた。だからもしかして生き残るのではないかと微かな希望を抱いたけれど、結局は最も無残な逝き方で失われてしまった。

敵の戦車の下に爆弾を置いて戻るはずが、衣服が引っ掛かり戻れなくなった。動く戦車の下で、ゆっくりとひき殺されてゆくのを、これまた崩れた建物に挟まって動けなくなった千里が助けられずに見ているだけという…。最後は千里の手によって戦車もろとも爆破される。このシーンは一番、見ているこちらの衝撃が大きかった。正視に耐えない。

◆千里(呉京

千里の戦いは、ちょっと荒唐無稽というか、史実ではこんなのないだろうなぁっていう、単身敵地に乗り込んでゆくスタイル。ちょっとアクション映画が入った戦い方だった。それでも最後は追い詰められてしまう。大勢の敵兵に一斉に撃たれて崖上から落ちてきた千里を、下で隠れていた万里が岩場に引き込んで身を隠す。最後の兄弟のひと時。でも、もう千里は話すこともできない。
兄の命の灯が消えるのをただ見守る万里。亡くなった千里の傍で眠る万里の全身は白く凍り、このまま凍死するのか…と思ったその時、千里の姿を見つけた米兵が遠くから火炎放射器でその体を燃やすのです。炎の塊となって坂を滑り降りてゆく千里と万里。凍り付いていた万里は千里の体が燃える熱で息を吹き返す。千里の魂が、何が何でも万里を救おうとしているかのようだった。

結局、生き残ったのは万里だけ。

人民志願軍の報告会で多くの部隊の死者数、生き残った数が報告される中、七連は157名の死者を出し、ただ1人万里だけが生き残ったことを報告します。
報告会では亡くなった兵士の名札(認識票みたいなものですね)が集められます。その数がもの凄い。

これはただの名札ではない。失われた命です。こんなにもある…。それぞれに、親があり愛する者があり健康で未来があった若者たちの命なのです。言葉もありません。

司令官に「何か欲しいものはないか」と聞かれた万里の答えは「七連を元に戻してほしい」でした。七連の兵士たちは万里にとって全員が「お兄さん(家族)」だったのだから。万里の願いは、失われた家族を取り戻したいということだけだったのでしょう。永遠に叶うことのない願い…

物語は万里が故郷に帰るところで終わります。このシーンがとてもいい。最後の万里のセリフは、深く胸を打ちます。万里の口から最後にあのようなことを言わせたことで、この映画に寄せる制作者の思いは伝わってきます。

祖国を守った兵士たちは、これほどまでに過酷な状況下で身を犠牲にして戦ったのだ(そして失われていったのだ)、ということは十二分に伝わる。彼らが英雄であることは間違いがないし、忘れてはならない存在でしょう。けれど、彼らを英雄として祭り上げて後ろで利用している存在があることも忘れてはいけない。これはどこの国でも同じ。戦争とはそういうものですね。
「国民」とひとくくりにすると見えなくなってしまうけれど、「個人」と限定すると見えてくるものがある。なぜなら個人の人生は一回こっきりだから。国民(という概念)は延々と続いて存在するけれど、個人はなけなしの命を捧げてしまったらそこで終わりだ。失われたものは二度と戻らない。
この映画は、そこをよく描いていたし、その意味で単なる愛国映画ではないと感じました。
これ、明らかに国策映画なのだけれど(国家が資金を出し、軍隊や設備の協力を惜しまず撮影に協力しているからね)、だからといって単純にプロパガンダだとくくってしまうのは違う。もちろんそういう側面もある。でも…そもそも「そこ」と戦っているのは誰か?という話ですよ。
創作をする人間が、強烈な規制の中で何をどう表現しているのかを読み解くのは、大雑把にパッケージの印象だけで論じる人間の手に負えるほど容易ではない。千璽のファンになったばっかりに難しい領域に足を踏み入れざるを得なくなったけれど、おかげでいろんなことを知り、考えるようになりました。過酷だ…なんでこんな修行を…?と思う時もあるけれど(汗)自分にとって、いい経験だと思っています。

まぁ何度も言いますが、これは中国人による中国人のための映画なので、公開もされていない日本からあれこれ言われる筋合いはないのです。そこは肝に銘じておきたい。私はただ、千璽の演技が見たかっただけ。それだけですから。素晴らしい演技を見せていただきただただ感謝です。

さて、アートワークいくつかを貼っておきます。
まず公式で一番よく見るポスター。

 

別バージョン。万里が木に結んだ赤いマフラー。

このマフラーのことは、前作から見てないとわからない。出征の時に、見知らぬ女の子が万里に向かって投げ入れてくれたものです。「応援してる、頑張って!」の意味で。この「赤」と、志願軍の旗の「赤」が重なって見えるようになってるのかな。人民解放軍の旗にある黄色い星はここにはないの。

千璽の単独ポスター。

今回の万里はゴーグルをつけている。これも前作を見ていないとわからない小道具。前作で亡くなった雷公(胡軍)から受け継いだ遺品のゴーグルなのです。これをつけて戦い抜いた万里。常に雷公が守ってくれている感覚だったのだろうね。

こちらは戦闘バージョン。

 

千璽が歌う主題歌『雪花』。名場面集になってます。とてもとてもせつない。


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予告編(香港版)


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