『皆のあらばしり』 

 

乗代雄介さんの作品を読むのはこれが初めて。先日の芥川賞の候補作です。書店の芥川賞候補特集コーナーで見かけて、いつもはあまり興味がないのだけれど、あらすじを見たら面白そうだったし、作品の舞台が地元だったってのもあって気まぐれに買ってきました。

これがメチャクチャ面白かった!
扱っている内容のレベルの高さ(衒学的という意味での)とか、説明が少なくて再度戻って読みなおさないと一度では理解できてないところなどあって、文章は少し読みにくい。正直なところ、スイスイ読める文章では無い。これは私だけの意見かと思って、お嬢にも貸して読ませたら私が思う以上に読み難いといっていたので、きっとそうなんだろうと思う。
でも、そんなことが気にならないくらい物語のエッセンスが素晴らしいのよ。心意気がいいのです。作者の信念というか、書きたいものがはっきりとあって、それを表現するためにあえて高いハードルに挑んでいる感じがこちらに伝わる。そしてそれはとても心励まされるものでした。覇気に溢れている。そのうえ、明るくてユーモアもある。意表を突く仕掛けもある。すぐそこにあるけど気づかれない素晴らしいものを拾い上げてみせてくれるような、細やかさ。洞察力。そういうものを集結させて書き上げた、胸がジーンとしちゃう(今風に言えばムネアツな)成長譚です。
読んで良かったと心から思える作品でした。いいなぁ、こういう作品が書きたいなぁ、なんて羨ましく思いましたよ。私の理想にとても近かった。
作中にいちいちメモしたいくらいの名言もたくさんあります。「いいこと言ってやったぞ」感満載のキメ顔で言ってる(言ってるのは作中人物だが、作者のキメ顔が見える)。そういうとこも好きです。