「トロッコ」


ブライアン・チャンが出てる、しかも舞台が花蓮だ!
…ということだけで観ました。
相変わらずバカなモチベーションでしか映画をチョイスしないのですが、こうやって放っておけば普段だったら観ないような作品に巡り合うのだから、それもまた縁、ってことで。

トロッコ [DVD]

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この作品は芥川龍之介の「トロッコ」が原作(?)みたいに言われてますが、全然違います。
トロッコで冒険をした子供の話…というところだけは一緒ですが結末がまるで違う…というか、むしろ真逆(つまりコンセプトそのものが違う)。
要するにモチーフだけを持ってきた、という感じですね。
トロッコはこの作品ではもう一つ意味があります。
この映画のテーマは直球ど真ん中で「日本と台湾」。
トロッコは日治時代に日本が敷いたインフラで、その時代を生きた台湾の祖父にとって夢の象徴だったというエピソードを載せるための装置になっているのです。


古いトロッコを利用して山で仕事をする老人は、森を再生させようとしています。
そこはかつて日本が多くのヒノキを切り出していった山。
統治時代、日本は多くの資源を台湾から取っていきました。
靖国神社明治神宮の大きな鳥居は台湾のヒノキから作られているというのは有名な話です。
そのことを誇らしげに話す台湾人の祖父は、息子の嫁が日本人だということもとても喜んでくれる人です。
かつて日本に憧れ、一生懸命日本語を学び、日本のために身を捧げてきた人。
けれども彼はまた、戦時中日本軍として戦ったのにも関わらず、国籍を有しないという理由で恩給をもらえないという、日本の国から捨て去られている存在でもある。
祖父は言います。
「補償が欲しいのではない。ご苦労様でしたと、ひとこと言って欲しい。日本に、向き合って欲しい」と。


私はもう長いこと台湾の日治時代に関して興味を持っているので、この手の話はあまりにもフツーに、あたりまえのように観てしまうのですが、この映画で初めて日台の過去の傷跡に触れる人たち(若い人や子どもたちなど)にとっては、とてもわかりやすく、入り込みやすい作品になっていると思います。
まぁ、いかんせんめちゃ地味な作品ですので、客待ちでは観る人があまりに少なそう。
こういう作品は文部省選定(今はそんなのないかw)にして、全国の学校の鑑賞会に流すくらいの勢いで上映したらいいんじゃないかと思いますよ。今からでもさ。
中共シンパの日教組さんには無理ですかね。


日台関係には悲しい歴史がありますが、その悲しさの質は対中韓とは異質だというのをしみじみと感じます。
憎しみだけではない、愛憎絡み合った複雑な心がそこにはある。
捨てられた兄弟は、兄弟ゆえに愛しく哀切に満ち、兄弟ゆえに憎たらしく失望が大きいのです。
日治時代を過ごしてきた台湾の方たちの話を聞くとき、私は日本人として、いつも心から申し訳なく思います。
彼らの部屋に富士山や桜の写真が飾ってあるのを見るとき、私はその気持ちを心から嬉しく思うと同時に、自分の国を激しく嫌悪し、恥じ入ります。


山の老人が、日本から来た子どもたちに日本語で自己紹介をするするシーンは、私が最もグッときたところです。
その誰よりも美しく完璧な発音の日本語には、有無を言わせない力がありました。
彼の、夢や、憧れや、失望や、無念が、その完璧な日本語の中にギュッと詰まっているのを感じるのです。
涙が溢れました。
静かだけれど、胸に響くシーンです。
まだ日治時代は終わっていない。
終わっていない人たちがいることを、日本人は知るべきです。
日本は彼らに、何ができるのだろう。
ずっと無視し、捨て置くだけなのか。
あの世代の人たちがまだいるうちに、どうにかできないものかと思いますが、微妙に絡み合う東アジアの状況を考えると、それも難しいのかな…。


私はどうもオノマチがニガテで、彼女が演じる人間に毎度毎度反発を感じるのですが、今回もそうでした(爆)。
まぁ、演技が巧いゆえに、なんでしょうけどね。
物語の中の人間を好きか嫌いかなんてのはどうでもいいんですが、(てか、人物の性格も装置の一つであって、話を作るうえでの必然なのですが)なんだかいちいち気に障る女性でねー。
むかっ腹がたつのはいかんともしがたい(汗)。
あなた、お母さんでしょ?!って叱咤したくなるような、覚悟のないふにゃふにゃした母親なんですよ。
子どもたちが可哀想だなぁ…と思うのですが、でも子どもは子どもでそれでも成長してゆくのが頼もしいというか。
それが救いですかね。
とにかくいろんな意味で、登場人物全てに「頑張れ」って言いたくなりましたね。
そして、映像と音楽は秀逸!の一言。
緑の生い茂る花蓮の夏に溶けていきそうにうっとりします。


あっと!最後に、お目当てのブライアン・チャンね。
彼は山の老人の仕事を手伝っている青年の役でした。
ハマってましたよ〜。イイ!
故郷の山を再生させるために日本の大学で林業を学びたいという真面目で気持ちのいい好青年。
たくさん日本語しゃべってました。
なにげに素晴らしい体躯が頼もしくカッコ良い!
眼福ですー。


予告編