「ウィンター・ソング/如果・愛」

ウィンター・ソング [DVD]

ウィンター・ソング [DVD]

  • 発売日: 2007/04/20
  • メディア: DVD

邦題が気に入らないので、原題も合わせて表記しといた。
本当に久しぶりに、映画の中の學友に会いました。
ただでさえここ数年、あまり香港映画を観てないのですが、それだけでなく、ある時期から學友が…あれだけ大好きで大好きで夜も日も暮れなかった學友が、ちょっと見たくないくらい嫌いになってしまっていて(汗)。この作品は気になりつつも観ていなかったのです。
嫌いになったきっかけは自覚してます。原因は學友には無い。あえていえば私にもないんだけど。
好きすぎて反動で嫌いになったとか、単に飽きたってわけでもなく(私は実際ものすごく飽きっぽいのですが、これに関しては飽きたのではなくある時一瞬にして「ダメ」になったのです)なんというか、アクシデントみたいなもので、私の中の何かが學友の醸し出す何かと妙な化学反応を起こして「どうにもダメ」という拒否感覚から抜けられなかったんです。
そしてそのまま、5年以上経った。
ふと気づいたら、學友に対するアレルギーが薄らいでいることに気づきました。
以前のような恋の想いが戻ったわけではないし(これはもう二度と戻らないでしょう)、まだちょっと抵抗感はあるのだけど、でもごく普通に彼の歌を聴いたり映画を見たりできるように思えたのです。これだけでも私にとっちゃ大進歩なのですよ。
そんなわけで未見だったこの作品をやっと観てみる気になったのダ。


こんなステキなストーリー(構想)があり、作品の根底に立派な恋愛哲学を持ちながら、なんというもったいない映画!
というのが、まず感じたことです。
すごくいいシーンもあるし、いいセリフもあるし、登場人物の感情の動きのあり方は(コンセプトとしては)見事に深く、もし上手い演出の上に載っていたら、普遍のラブストーリーになったと思うほどなのですが…こまかいところにいちいちダメ感が蔓延していてそこに引きずられてしまう。なにもかもダメならまだ諦めもつくんだけど…材料がいいのにマズイ料理作ってる、みたいな残念な感じです。
久しぶりに無心で香港映画を見ましたが、申し訳ないけれど、やはりこれでは斜陽といわれても仕方ないかもなぁなんて思いましたよ。


劇中劇のミュージカルのデキがとてもアレレで、とってつけたような状態だというのが悪いのだろうか?
でも、そこがビシッとキマっていたとしても、ダメ感はぬぐえないようにも思う。
エリック・ツァンとサンドラ・ンが出て来て、導入部からの幻想的な世界観をガラガラと崩すことが問題なのか?
この、もともと強烈な個性を抱えた二人のキャラ設定は、この作品の方向性を曖昧にする。こんなとこで香港風味のホッとする笑いなんぞは不要だ。旧正月映画じゃあるまいし「おきまり」はいらない。
「ラブソング」でエリックが物語に対し多大な効力を発揮したのは、あのエリックから(場違いな)お笑いを排除したからであることと、もう一つの記号である「ヤクザの親分」というのを有効にしておいたからであって、そうした操作がなければこの人を使うのはとても難しい。ナチュラルに置いといちゃマズイw
なぜなら俳優が記号として成熟しすぎているからです。下手な使い方をすると、下手な香港映画そのものになる。そういう娯楽映画ならそれでいいけれど。この映画ではマズイ。
じゃ、エリックが出なかったら良かったのか?といえば、やはりそれもあまり関係が無い。
残念なところはそういうところじゃない。でも、こうしていちいち挙げれば些細な違和感でしかないものが雪のように幾重にも積もり作品全体を覆っているのを感じます。


久しぶりに見る學友はというと、既視感に溢れておりました。びっくりしたことに「欲望の翼」と同じ演技をしていた。
女に対して不安ばかりを抱き、でも「オレが一番のはずなのに」と妙な自信を持ってるから愛情さえ歪んでゆくような男(ついカッとなっての暴力つき)という類似点があったせいかもしれないけれど、何よりも表現(表情の作り方とか)が同じだったので、老けたサブが再び現れたか?!と思った。
要するに學友の演技はここらへんが限界なのかも。こういう役は上手いのですが、どうしてもパターン化されとる。
昔はこのへんの演技も「恋は盲目」の勢いでどれも胸キュンものだったけれど、今となっては「どうしてこの人は予想外のものがでてこないのだろう」と諦め半分で思う。
「ま、本業は歌手だからいいんじゃね?」っていう意見は多いけど、そんなところで甘くなってどうする。物語の中にいる限りは歌手だ云々ってのはとりあえず関係ないし。この映画では歌が上手いということはポイント高いけれど、それゆえに、より物語から乖離しているようで(歌神である本人を、より近く感じてしまい)むしろ軽くイラッとする。頑張るのはそこか?朗々と歌い上げれば気が済むのか?と(これは私独特のアレルギー反応かもしれないので、どうかスルーしてください)。
ああ…やっぱどうしても學友に関しては辛口になっちゃうな(汗)。
でも、フォローするわけではないけれど、學友は彼なりに全力投球だったのがよくわかるし、悪いのは演出なのだと思う。
登場シーンからしてダメ感いっぱい。ベタすぎる。一気に興醒め。
周迅との絡みはことごとくあかの他人のごとき距離感。遠いよ………。
この二人に肉体関係や愛憎があるなんて間違っても思えない遠さに色気も臨場感も何も感じられず。
クライマックスのあのブランコシーンなんかはもう、演出がド下手で目をそらして苦笑しちゃいましたからね。他にいくらだって表現方法あるだろうに、なんでああいう撮り方すんの?脱力。
ピーター。君のせいだぞ、ピーター。


とはいえ、金城くん、周迅、チ・ジニの演技はどれも學友とはレベルが違って説得力あったから、やっぱりピーターのせいってばかりでもないですね。學友の演技力の貧弱さはどうしたって目立つ。
余談ですが今度學友はタン・ウェイとラブコメを撮るようですね。
今やタン・ウェイ大好き!ラブ!の私なので、このニュースには色めき立ちましたが、タン・ウェイもキャリア短くとも演技は巧いし存在感もある女優さんですからね。學友のあの学芸会演技では墓穴を掘るのでは?という気がひしひしと。大丈夫かなぁ。コメディだからどうにかなるかな。この新作は見届けるつもりです!


話は戻ります。
金城くんはいつのまにこんなに深みの出せる俳優さんになったのでしょうか?長セリフが多くなかったのも功を奏したのか?
10年にわたる容貌と立ち位置と感情の変化を伴うこの人物設計はかなり難しかったと思いますが、見事にひきこまれました。
ま、いらない演出も多かったですけどね。シャイニングか!ってな勢いのタイピングとか、プールで死んだフリとか。ホラーじゃないんだから。あんなのは無い方がしっくりくる。
この男の感情の展開には一つ一つ妙に共感を覚えました。それって自分に似ているからなんでしょうか。
金城くんが北京へ周迅を連れ出して、置いて帰ってしまい、でも慌てて戻る、ってところの行動なんかもう、私か!と思いましたモンね。
あれを復讐だとか恨み節だと捉えちゃ間違いよ。気づいて欲しい振り向いて欲しいという心の叫びがああいう形になるンです。全力の渇望なのです。
最後に周迅とは別れて行くわけですが、その展開も実に納得です。そうすることでしか恋は実らないのだという…その感覚がたまらなく好きです。それが恋の本質さ。


でもって周迅。相変わらずその役柄の背景まで想像させる表現力を持っています。凄いね。ガッツリ楽しませてくれます。
私にとって周迅は「黄磊の世界にいる人」なんですけどね(偏見)。1920年代の大陸にいる。しかも万年書生のようなあのセンセの隣にw
周迅の演技はいろいろ観ているけれど、とにかく「橘子紅了」のイメージが強くって。あのキョーレツな世界のど真ん中にいたのが周迅なのですもん。
この映画でもアメリカ人の前で周迅が(芝居の衣装である)清朝の宮廷服を着ているシーンがあるのだけど、あそこが「純粋周迅100%」って感じで、なんかホッとしました(笑)。
彼女のあの未成熟っぽい華奢さや色の白さや皮膚の薄い感じってのは、奇妙な色気があるのですが、思うにそれってまさしく「纏足」の女に通じるものなんですよ。肉感的な女性や正統派美人には醸し出せない、独特の「女」性が男の執着の対象になるというのはなんだか納得してしまう。
って、そんな先入観に閉じ込めておいてしまってはもったいないのですけどねー。ホントはものすごく引き出しの多い人だと思うので、どんな役でもイケそう。


そして、次元の違うところにいるかのようなチ・ジニの存在も良かったです。
私はこの設定が一番気に入りました。この人がいるといないとでは、映画の印象がガラッと変わる。
ただ、これも演出がなんかダメなんだよねぇ〜。最初のバスのシーンは秀逸ですが、そのあとがグズグズ。もうちょっと別次元っぽい(天使的な目線を如実にしたような)扱いだった方がいいような。


久しぶりに香港映画を見たせいか、なんだかぼんやりと拍子抜けしてしまいました。
ずっと昔、私が大好きだったのはいったい香港映画の何だったのだろう?ということを考え込んでしまったよ。
大陸や台湾の映画は好き嫌いはあるものの、どれもフラットに見られるのに…香港映画にはなぜかいつも肩透かしをくう感じ。
明星が大好きだった私にとって、香港映画は映画として存在していなかったといえますが、もしかして私は王家衛の作品世界だけにただひたすら恋焦がれていたようにも思えます。
私の心の中の愛おしい「香港」はすべてカーワイの映像の中に、今もって音も無く繰り返されているのをフト感じました。
ピーターの映画観た感想がこういう締めくくりって…ピーターにはごめんなさいだけど(汗)。