「僕のニューヨークライフ」

僕のニューヨークライフ [DVD]

僕のニューヨークライフ [DVD]

  • 発売日: 2007/07/06
  • メディア: DVD

ずっと前から、いつ公開するんだろうと楽しみに待ち、昨年やっと公開されたものの単館上映で、あげくその後なかなかDVDも出ず、いいかげん痺れを切らしていた作品をようやく観ることができました。
それにしてもなんだこの邦題。ダせー。
原題は「Anything Else」。そのままでいいじゃん!
正直、待ちくたびれてしまって興味が薄くなってきていたし、今こういうの見るモードじゃないんだよねーとか思いながらも、DVDが出るのをずっと待ってたんだから見るだけは見ようと思い、レンタルしてきました。


ところがところが。
やはりこれがアメリカ映画の底力。ってか、ウディアレンの名人技。
観始めてすぐに、この作品の世界に獲り込まれてしまいました。
だってあの音楽(私の大好きなコール・ポーター!)と、愛しのジェイソン・ビッグスと、秋のニューヨークと、ウディアレン独特の比喩的冗談に溢れたお喋りがそこにはあるんですから。
もうこれだけでOK。
ストーリーがどうでも、もう全然気になんなくなる。
映画って、大事なのはストーリーじゃないのだなぁーと感じたりもする。
この映画を観て「登場人物の言っていることがわからない」「ストーリーがわからない」と思う人もいるようですが、そういうのが「わかる」映画ではないからウディ・アレンの映画はステキなんですよー。


ジェイソンはウディが演じてきた頭でっかちで間の抜けたジューイッシュボーイを引き継ぐ正統的後継者のオーラをまとっておりますね(笑)。思ったとおり、ウディの世界がよく似合う。ホレボレ。
アメパイももちろんすごくいいけど、基本的にジェイソンって知性派だと思うので、こういうのもとてもハマる。
スタイリッシュな見たくれもステキ。お洒落な格好してるんだもんね、あのジェイソンが!w



テーマソングはビリー・ホリディが歌うコール・ポーターの「Easy To Love」。
この選曲がもう、めちゃめちゃイイ!!画面の質までガラリと変える。
この曲が流れるシーンでの男女のやりとりが最高です。
レコード屋の薄暗い棚の前で、この曲が入ったレコードを手にとって男が言う。
「昨夜もこれを聴きながら君の事を思ったよ」
女はじっと目を見ながら応える。
「コールポーターを聞いて私を?…本気で恋したのね。」
ああ〜〜わかるぅぅぅこの感覚!
だってコール・ポーターって、恋をしているときに聴くと、すごくクルんですよ。
官能的で、夢見がちで、妄想ドバーーって感じ!
そういったディテールを使ったイメージ作りというのも相変わらず巧いウディアレンなのでした。


ウディアレンはこれを最後にニューヨークから拠点をロンドンに移したそうです。
この映画の主人公も最後にNYを後にするんですよ。
ニューヨークを描き続けた人が、ニューヨークから離れてゆく背景にはいろいろな想いがありそうですが、そういうことを考えながら見ると、なにかまた一つ、深みが増すように思います。
ウディアレンは9・11に関することを何も言及しないし、そういったアプローチでこの街を捉えるのがとてもイヤだったようです。
今や政治的な象徴を持ってしまった街で、ミニマムな「自己」をこねくり回すようなラブストーリーを描き続けることは、彼の中で難しくなってきたのかもしれません。
あの日以来、ウディの愛するNYは過去のものになってしまったのかも。
そう考えると、セツないです。
このお話でも、身を守るための装備が身を滅ぼすきっかけになったというエピソードがでてきますが、あれはウディの9・11以降のNYに対する精一杯の皮肉かもしれません。
特に刺激的でもなく新味もないけれど、ささやかでちょっと小気味のイイ掌編小説のような作品です。