赤ちょうちん

赤ちょうちん [DVD]

赤ちょうちん [DVD]

  • 発売日: 2004/05/07
  • メディア: DVD


1974年の日活作品。
かぐや姫の同名ヒットソングを使っている映画だというのは知っていたので、歌のイメージそのままを想像して見始めたのですが、大間違いでした。
これ、めっちゃ暗い!
不安で、不吉で、暗いんですよぅぅ。最後は途方に暮れたよ。
若い二人が出会って同棲して…というところまでは普通の青春映画。
でも、子供ができて引っ越しを重ねるようになると、行く先々で不吉な影が覆いかぶさってくる。
そして最後に若妻は気が触れる。
気が触れるまでの過程を表すのに、印象的な映像を重ねるように使っています。
煙を吐き続ける葬儀場の煙突、得体の知れない保険勧誘員、子供をなくした大家、失踪した兄、祖母の死を知らせる電報、一家心中の家、鶏をさばくおじさん…
嫌がらせをしている(と、若妻が妄想しているだけなのかもしれない)引っ越し先の大家の役を悠木千帆(樹木希林)が演っているのですが、この存在感が凄い!怖い。さすがだなぁーと唸りましたよ。
この大家は生後まもない赤ちゃんを窒息死させて失っているんですが、それを言うシーン一つで立派にホラー。


もうね、この映画全体が、青春映画だと思ったのにホラーでした…ってな感じなんですよ。
全体のトーンが、失われた昭和の「後ろ暗さ」のようなものに包まれている。
カタカナだけの電報文が画面に映し出されるのも印象的だった。寺山修司みたい。
ちょっと前までは電報っていったらなんだか暗くて緊急事態というイメージでしたよね。
「ハハキトクスグカエレ」みたいな。
でも今は電報ってのはお祝いか、もしくは形式的な挨拶というイメージしかなくなりました。
今の子は、電報が怖い、ってイメージ自体がないのではないかな。
カタカナだけの電報文が不吉に思えるという感覚もないでしょうし。
だからこういう映画を見ても、映像の効果が伝わらなくなってゆくんだろうなぁと思いますね。
そういった共同幻想がなければわからない感覚ってのは多いですよね。
昭和も遠くなりにけり、か。
ちなみに私が最初に電報をもらったのは、学生時代に電話料金不払いで電話が止められた時に親がよこした
「スグレンラクセヨ」
というお怒り電報でした(汗)。
まさに恐怖体験でしたよ。そらもうこっぴどく怒られましたさ。
そういえばあれは確か、昭和の最後の年でした。


というわけで、いったいどこが「赤ちょうちん」??な映画なのですが、手法的にはなんだか奇妙に印象的で、巧いのではないかと思います。
ただ、予告編と本編が違いすぎるっていうか…パッケージと中身が違いすぎる。
秋吉久美子のヌード目当てで見たら大変な思いをしますよ、みたいな(笑)。
秋吉久美子は可愛かったですが、ちょっとハクチっぽいです(役柄的にも)。
このヒトはヘタに利口ぶるよか、こういった役のほうが活きるのではないでしょうかね。
存在感たっぷりで、他の人とは替えがきかない70年代女優の凄味ってのを感じさせられました。