道尾秀介「雷神」

最近、新刊の帯の惹句に踊らされて買う日本のミステリ作品にはわりとガッカリすることが多かったのですが(たいていが煽り文句ほど面白くない。帯を見て買うのはカモか?ってな勢い)、久々に素晴らしい作品に出会いました!

 

雷神

雷神

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こーれーは凄かった!
先が気になり、もったいないけど一気読みしてしまったよー貫徹で読んだよーシアワセ!…というミステリの醍醐味を堪能しました。
細かく丁寧に張りめぐらされた伏線が、一切合切きれいに回収されてゆく様は実に鮮やかで、無駄な描写のたった一つもないのではないか!?と思わせる完璧っぷり。お見事!
緻密な推理小説なのに、読み終えたら純文学かと思うほど”人間の物語”としての妙味にも溢れていて、ちょっとこれはステージが違うなぁという感じ。
いや、凄いなぁ。めちゃくちゃ巧い。
道尾さん自身が「最高傑作」というだけある。推理小説のお手本のような作品です。過剰なまでに技が盛り込まれてて、ボリュームたっぷりのテキストという感じではありますが、いろいろと勉強になりました。
お嬢とシェアして読んだけど、お互い読み終わって「いや~凄いね!」「上手いねぇ!」と感嘆符ばかりの感想になってしまった。
ただ、事件の内容はすごく重くてツラかったです。数日、思い出しては落ち込むくらい。
人が殺されるような事件の裏に重いものが無いわけはないんだけど、ミステリの(どちらかといえば)軽妙さを愛する私のキャパにはちょっと収まりきらないレベル。心にズシッと残った。
人が殺される物語なんぞを書くならば、本来、目を背けたいほどの痛みや悲しみ、耐えがたい思いがあってしかるべきだし、それでこそ自然なのですよね。その点において、この作品はとても誠実なのです。その誠実と謎解き(エンタメ)の技巧とが絡み合って、ミステリではあるけれど純文学でもあるという作品の深みを生み出しているのではないかな。