「セデック・バレ」その1〜それは私の鬼門でした


15年くらい前から、台湾の原住民に関して興味を持つようになりました。
それはもちろん、大好きな人(阿嶽ですよ)がたまたま原住民だったからです。
文献を調べたり、音楽を聴いたり、原住民文学を読んだりして、自分なりに理解を深めてきたつもりです。
大好きな人のことを知るためですから、モチベーションが違いました。
そんな中で自分的にアンタッチャブルだったものがあります。
「霧社事件」です。
日治時代(昭和5年)に起こった原住民セデック族による抗日暴動事件です。
「霧社事件」に関して、地元の図書館で読めるようなものはかつて全部読みました。
けれどもこの事件は、私の思考の範囲を超えすぎていて、自分の中で整理がつかないものになっていました。
本能的な嫌悪感と時代状況的必然に挟まれて、どうにも気持ちの持って行き場がわからなくなってしまう。なにか理屈を超えた強烈なわだかまりのようなものがあって不愉快になるのです。


私にとっての台湾師匠ともいうような先輩に、「霧社事件をどう思いますか?」「モーナ・ルーダオは英雄だと思いますか?」と尋ねたことがあります。
彼女は言いました「あれは仕方がない事件だった。日本が侵略して彼らの存在を踏みにじったのだから。原因があって、あの結果があるということでしょう。そして、現地では今でもモーナは英雄ですよ」と。
あまたの本に書いてある論調と、それは同じでした。それが一般的な見解なのでしょう。
「モーナのやったことは仕方がなかったこと。日本による強引な植民地化が全ての元凶」
もちろん理屈ではわかるんですよ。
植民地政策など他国への暴行と搾取、価値観の押しつけ以外の何物でもない。
司馬遼太郎言うところの「存在としての誇りの背骨を石で砕くようなもの」です。
日本人による横暴や差別もあたりまえのようにあったでしょう。
個別にはいい人も悪い人もいたでしょうし、いいことも悪いこともあったでしょうが、すべてひっくるめて「日本が強制的にすべてを変えようとした」という構図は崩れない。
反抗抵抗があってもそれは仕方がないでしょう。


けれど、あの事件の日、モーナたちが有無を言わさず首を刎ねて殺戮したのは、運動会に集まっていた子ども(犠牲者130数人のうち半数以上が子どもです)や女性、その地に派遣されている警察官や教師、医師らとその家族です。
この殺された人たちと「侵略する日本国家」というものが、私の中でどうしても一致しないのです。
罪もない子どもたちが屈強な山の男たちに次々にものすごい勢いで首を刎ねられる図を想像してみてください。
首はその後、校庭の桜の木に吊るされました。
そこにはどんな理由も、意味も、意義も、人としてのなにものをも、認めることはできない。
本能的に、ムリです。嫌悪感に体が震えます。


モーナはなぜ軍人・警官を標的にしなかったのか?
彼に義があるのなら、どうして?
端的に言うと、私のわだかまりはただその一点のみにありました。
日常の場にいる女子供を突然の血祭りにあげる英雄なんて聞いたことがない。悪質なテロリストのやることでしょう?
この事件を通して原住民を見ると、私は彼らを嫌いになってしまうかもしれない、と史実を読んだ時に思いました。
でも嫌いになどなりたくない。
好きだからこそ生まれるものがたくさんあるのに、こんな過去の亡霊に縛られてこれからの友好と親愛の可能性を閉じたくはない。
だから自分の中ではこの事件に触れることをずっと避けてきました。
自分の中の原住民愛を、守りたかったからです。


そんなわけで、ウェイ・ダーション監督の話題作「セデック・バレ」が公開された時も、観るつもりはありませんでした。
まさに私が避け続けてきた霧社事件そのものを描いた作品だったからです。
でも、当然ながらこの映画の事はずっと気になっていました。
台湾の原住民を題材にした作品なんて滅多にないうえに、映画祭でたくさんの賞を獲ったのです。
気にならないわけはない。
訳知り顔で批評するにわかな人たちより、私はよほどこの関連には詳しいし、想いも深いという自負もあります。
公開後には映画評や観た人たちの反応をネットで拾ったり、監督や出演者の談話を読んだりして様子をうかがってきました。
おおむね好意的な意見が多く、とりあえず「反日」目的の映画ではなさそうだということがわかりました。(ウェイ監督には前作「海角7号」で親日目線を感じていたので、その点は心配してなかったですが)
それに映画としての完成度がすごく高そうな様子です。
原住民の様子もよく描かれているらしく、私の好きな原住民の歌と風景も満載だというではないですか。
ますます気になります。
歌だけでも聴きたい。景色だけでも…
などと思ううちに、やはり観ておくべきなのかも……と考え直しました。
霧社事件はイヤだけど、勇気をもって観てみよう、と。
前置きが長くなりましたが、そういう経緯で遅ればせながらDVDで「セデック・バレ」を観ました。
ということで、やっと本題。
……なんですが、いいかげん長くなったので続きは後日書きます(汗)。