「帰って来たヨッパライ」

帰って来たヨッパライ [DVD]

帰って来たヨッパライ [DVD]

  • 発売日: 2006/05/27
  • メディア: DVD


帰って来たヨッパライ」で一躍時の人となったフォーククルセダーズの3人*1が主演した作品です。1968年作品。監督は大島渚
題名は「帰って来たヨッパライ」ですが、題名(曲名)とストーリーに関連性はありません。
でも、手法としてはこの曲と映画、似てるなぁ〜ってのを感じます。
ナンセンスの向こうに深い思想性を孕んでいるところとか、録音や撮影の方法がトンデモ(斬新、とも言うか)で、正攻法じゃないところとか。
とりあえず売れっ子になったばかりのフォークルを使ってなんかやろう、と思って作られた作品らしいんですが、監督を依頼したのが大島渚だったもんだから(フォークルのメンバーが「大島監督がいい」って言ったんだそうな。豪気だな(笑))、とうてい単純なアイドル映画に終わってません。
しかも脚本に足立正生が参加してます(うわ!すげぇ)。そりゃもうバリバリな感じっすよw
おかげさまでとんでもなく前衛的で政治色の濃い、思想的、かつ、ナンセンスな作品になってます。
当時の日本社会における韓国や在日の周辺に漂う雰囲気、安保反対、ベトナム戦争反対の気概がビシバシ(とはいえフザケたような描かれ方で)伝わってきます。


あとで調べて知ったのですが、この作品、1965年に起こった金東希の亡命事件をベースにしているようなのです。
金東希(当時22歳)はベトナム戦争への兵役拒否のため日本に亡命目的の密入国をして逮捕された韓国人青年です(逮捕後に彼が収監されたのが長崎県の大村収容所という場所なんだそうですが、その名前も映画に出てきます)。
べ平連が彼の亡命を助ける活動をしたり、安保闘争の学生たちの間でも象徴的存在として注目されたようですが、結局政府は彼を日本に亡命させることはしませんでした。韓国に送り返せば即刻極刑に処せられる、ということからの世論もあって、日本政府は彼を北朝鮮に移送しました。その後の彼の消息は不明だそうです。



鄙びた日本海側の海岸の村にこんな掲示があります。
「怪しい外国人らしき人を見つけたらすぐ連絡を」と。
密航者の怖いイメージが印象付けられるシーン。



日本にも米軍はいるのです。
国の中に自国民が触れられない場所があるという、これにもある種の怖さがにじみ出ています。
ついでに北山修の中途半端な女装姿w


密航青年・金東希は植民地日本による皇民化教育で日本語を話す世代です。
日韓の狭間に生まれ、敗戦により日本に捨てられ、いまやアメリカ軍の捨て駒となってベトナムの激戦地へ送られようとしている。たとえそこで命を落としたとしても、雀の涙ほどの安い安い恩給しかもらえない。
そういった切羽詰った厳しい状況に置かれている韓国の若者の対比として、日本のノー天気なノンポリ大学生(しかも当時流行のグループサウンズの影響で、「ミリタリールック」などと称してお遊びで軍服もどきを着て浮かれている)を持ってきて、お互いの立場をコロコロ変えて弄んでみる、てなことを、この作品はやっています。
韓国人が日本人になり日本人が韓国人になり…
そうこうしているうちに日本の学生はオノレのアイディンテティがいったいどこにあるのか、自分は日本人なのか韓国人なのか、韓国人だからどうだというのか、なにをもって日本人と証明するのか等々、すべてが混沌と曖昧になってゆくわけ。やがて、そこから国籍を越えた「人間」というものの姿を見出してゆくようになる(のではないかという予感を残した)形で終わります。


とはいえ、小難しい映画では全然ないです。イデオロギー臭もあんまり感じません。
とにかく主演のフォークルの3人がとことこんノンポリ風味で飄々としてて、しかも演技がド下手なので(爆)、終始「これ、なにかの冗談か?」モードなのです。そんなところもまたフォークルテイストでイイんですけどね。



特に加藤和彦の演技力は日本一ヘタなんじゃないかと思うくらいの驚き。何やっても完璧で隙がない加藤さんにもできないことがあるんだねぇ。
あ、あと加藤さんの足の指の長くてキレイなことにも驚いた!さすがだ。
はしだのりひこはフツーにコメディアンみたいですし(今やさらに芸人みたくなってる)、ドクター北山修は本来の秀才キャラじゃなくてここでは女の尻を追っかけて事態を悪化させる間抜けキャラで大活躍なのが可笑しいです。
そのド下手トリオを後方支援するのが、渡辺文雄佐藤慶緑魔子小松方正殿山泰司というベテラン俳優陣の面々。
彼らが出てくるとそこでグッと画面が引き締まります。かろうじてこれが学生の自主制作映画じゃなくて劇場用の映画だったんだ、と思い出す瞬間。
不思議な感覚に包まれた実に奇妙な作品ですが、なぜか心に残ります。失われた日本の風景も見どころ。

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*1:はしだのりひこは歌を録音した段階では未加入でしたが、その後参加しデビューしています。