寒い国から来た男

アシュケナージ―自由への旅(ジャスパー・パロット著)を読みました。
自分語りつき評伝です。
こんな本が出ているなんて、最高だね!
ファンは嬉しいですねぇ。ていうか、私が嬉しかったわけだが。


しかしながらこの本は、内容は面白いのですが文章が非常に読みにくく・・・(翻訳が?それとも原書が?どっちか不明ですが、ぶっちゃけヘタなわけ)おかげでなかなか読み進めませんでした。
毎晩毎晩ベッドの中に持ち込んで読み始めると、ものの5分もしないうちに気がつくと寝ている!という状態に。
これ、マジで毎日毎日こうだったんですよ。睡眠導入本か?てなもんで。
ヘンでしょう?ヘンだよー。1週間くらいの間、毎晩この本を開いた状態で顔に乗っけたまま寝てたんだから。
そのせいかどうか知らんが、しょっちゅう夢の中にKGBが出てきましたよ・・・


この評伝は、アシュケナージの半生を追いながら、ほとんどがソ連という国家と彼の関わりに関しての記述に終始してます
音楽家としての音楽的な背景などはほとんど語られていません。
政治と思想と冷戦下のソ連に生活することの実態と、そこで育った一人の男が西側の自由社会に来て思うあれこれ・・・が延々と綴られています。
これは一つのリアルな歴史の証言です。
出版された年(1985年)がソ連崩壊前なので、書かれた時点ではまだ「続行中」のシステムに対しての個人的な記述です。勇気要ったんじゃないかな。


日常のあらゆることを政府に振り回され続け、「個」をないがしろにされるのを普通の事として甘んじるほかなかった東側の人間にとって、西側の社会というのは「自由」を感じるより先に、その明確な基軸の無さに却って不安になるようなところだったかもしれません。
それでも、真逆の環境に順応しようと懸命に身を立ててゆく姿はケナゲで、いとおしさを感じますね・・。
あの時代に鉄のカーテンの向こう側からやってきた人って、張り詰めたような感受性や身の置き所を探っている感じや、まだ不器用な自己表現の仕方などが相まって、西側の人間にとってはきっとものすごく新鮮な存在だったと思うのよ。
そういう越境者の面持ちは、西側の人間にはないセクシーな魅力があったに違いない・・な〜んて妄想。
(申し訳ないね、邪道で。でも、これが端的に言うところの「物語の威力」ってことなんで・・・放っておいてくださいっ。)


私が抱いていたアシュケナージにおける印象(キーワード)は・・・おしゃべり、せっかち、ワーカホリック、インテリ、亡命者、コンテスト荒らし、自信満々、なんでも屋、指揮棒を手に刺したヒト、「指揮がマズイ」と軽く見られているヒト、ユダヤなヒト、ちっちゃいヒト、とっくりシャツ偏愛、全集好き、ブルックナー嫌い、奥さんが美人、息子がイケメン・・・などテキトーにイロイロありますが、評伝てのはそういうキーワードに血肉を与えてくれるので楽しいですね。印象を改めたこともずいぶんありました。
インテリだということは確かなんですが、思ってた以上に頭脳明晰なんだなぁーと感じましたし、ワーカホリックというより仕事熱心、せっかちというより精力的・・・という言葉の方が正しいんじゃないかと思ったり。
コンテスト出まくりだったのは政治的な背景があったせいだということや、(正確には)亡命もしていないというのもわかりました。
自信満々でもなく、むしろ傍から見て完璧でも本人は自信がない・・・みたいなタイプかもしんないことや、それほどユダヤ的な感性を持っていないことも、ソ連式に染まっていないことも。
とにかくね、圧倒的なジーニアスを持ちながら、振り子の針がブレていない・・・という、稀有な人っぽい。
しかも、冷戦下のソ連に育ってここまで物事を冷静にバランス良く考えられるなんて、よほど勘所がいいか、判断力があるのか。
この人、実はすっごい人なんじゃないか?という感じです。
スゴそうに見えないキャラなんだけども(笑)。


この人の生き方を見ていると、なんだか、自分ももっと本当はいろんなことができるんじゃないかと(ものすごく無駄な時間の使い方をしているのではないかと)いう気持ちになります。
「束の間の短い人生」という認識と、「人には無限の能力がある」という信念とが両輪となって誠実に彼を動かしているのを感じます。
ああ、私も頑張らなくっちゃ、と思えてくる。そして、そう思わせてくれるこの人のポジティブな心が私はとても好きです。


というわけで、こんなん読んだおかげでさらにアシュケナージにハマってしまいました。
演奏よりもキャラ的に惚れこんでいるという変な状態に陥ってます。
ウチでは旦那がアシュケナージを好きで音源がいろいろあるので、音的に馴染みがあるし、それぞれわりと好印象で接してきましたので、そういう安心感にももちろん根ざした感情だと思いますけどね。(・・・とはいえ、特に好きな演奏かと聞かれればそうでもないわけだが(^^;;。要するに一応は安心して聴けるスタンダードっぽい位置づけ。)


とりあえず今日もアシュケナージ聴きながら寝る。
おやすみなさい、マエストロ♪
本日のナイトキャップはこちら↓。パールマンバイオリンがまためっちゃ好きだ!

ベートーヴェン:ピアノ三重奏曲第7番「大公」、第5番「幽霊」

ベートーヴェン:ピアノ三重奏曲第7番「大公」、第5番「幽霊」