「壬生義士伝」

 

壬生義士伝

壬生義士伝

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video
 

 東京国際でのクロージング上映を見られず、一般上映されるのを待ち焦がれたこの作品。
本日やっと見てきました。それもこれもひとえに浅田次郎センセの原作の大ファンだからでありまして、あの珠玉の小説をいったいどんな感じに映画化してくれちゃってるんであろうかと…もう気になって気になって。(正直なところ半分以上「危惧」だったのですが)
結論から言いますと、すごく良かったです。
クライマックスでの主人公の独白シーンが少し冗長かなぁ…とも思ったけど、気になるところはその部分くらい。
小説自体が長いですから、あれをきちんと心情含めて2時間なりで描ききるにはかなりの力量が必要だと思うのですが、思った以上に構成がきれいにまとまっていて、エピソードの取捨選択もよろしく、無理のない脚本になっておりました。
だもんで、やっぱり泣いてしまったよ。
映画館なので声を出して泣くわけにもいかず、静かに「ひーーん」と息を吐きながら泣いていたら、終いには頭が痛くなってきてしまい(爆)、慌てて頭痛薬飲む始末。
いや~疲れた。けど、すごーく満足でした。

なにより役者の素晴らしかったこと!演技派揃いなのはもちろん、キャスティングがねぇ~またまた素晴らしいんですよぅ。それだけでも感動に値します。ホント、最高のキャスティング。これ以上はたぶんないでありましょう…ってくらいの完璧度です。
ってなわけで、ここでは「イイに決まってるストーリー」や、その描こうとしている世界に関する私見、映画的な分析、新選組萌え語りなどはとりあえずパスして、俳優さんについてだけ感想をば書いてみます。すごくミーハーなトコで語っちゃってすんません(^^;;。
でも、そこがやっぱり一番楽しめたところだったからね。大好きな小説があって、その役を誰がどんな風に演じるのだろうか?という楽しみを久しぶりに満喫したので(^-^)。


主役の南部藩士・吉村貫一郎を演じるのは、中井貴一です。
もう、この人は何やっても巧いんですが、見る前から(どころか、キャスティングが決まる前から)「これ、演じるとしたら中井貴一しかいないよなぁ」って思ってたんで(笑)、その醸し出される雰囲気も大体想像がついており、安心して見ていられました。方言も板についている(ように思えた)し、とにかく磐石なり。
ってことで、置いといて。
私が一番気になっていたのは原作で好きだった新選組三番隊組長:斎藤一と、キャラとしてお気に入りな副長:土方歳三を誰が演じるのか?だったのね。
もー、これをちゃんとこの目で確かめなくては!と。

斎藤一新選組の中でもちょっとアンタッチャブルな存在で、謎めいた人物。
威風堂々とし、無口で、潔癖症で剣豪。維新後も生き残り、警視庁に勤めたりしながら70過ぎまで永らえた人です。
原作では何人かいる「証言者」の中の一人にすぎない斎藤一ですが、それでも他の人とは醸し出すオーラが違ってて、実に魅力的に描かれているのです。映画の中ではもう一人の主役、という扱いになっておりました。嬉しかったです。
その斎藤一を演じるのは佐藤浩市
お見事でした。
いつもいつも憤懣と虚無を心に抱いてる斎藤の個性がよく出ていた。
中谷美紀演じる恋人とのエピソードもものすごく「イイ男」度が高く見えてカッコいい!の一言。中谷美紀が隙を狙って頬にチュッ、なんてなシーンがあるんですが、その時の佐藤浩市の表情はもう!これだけで1800円の値打ちがあるかも~ってくらいイカしてます(*^^*)。
っていうか、それが斎藤一だからなんだけど。
アタシが佐藤浩市のファンなわけでなくて「斎藤一を演じる佐藤浩市がステキ」なのですよぅ。

中井貴一佐藤浩市のコンビネーションは水と油のような対照的な役を演じても不思議とすんなり溶け合うんですよね。
二人とも演技が巧いし圧倒的な存在感があるのに、並んでいてもお互いの持ち味を殺さず、どちらか一方だけが華をもつこともなく、なんとも絶妙なバランスを保持する。対(つい)の「イイ男」ぶり。惚れ惚れしました。

もうひとつ惚れ惚れしたもの。それは野村祐人演じる土方歳三なのでした!
もうこれはストーリーには全然関係ないとこでのホレボレなんですけど(^^;;。ただただ嬉しく(笑)。
今まで誰が演じても「ちょっと違うんだよねぇ」と思っていた土方歳三役なんですが、そうか!野村祐人だったか(゚∀゚)!目からウロコ!!ってな感じ。Vシネばかりじゃもったいないぞ野村祐人。
もう、アタシの頭の中ではイキナリ「野村祐人主演の「燃えよ剣」@司馬遼太郎」が始まっちゃってますよ。ああ!ステキすぎ。
よく見ると、あの顔はアタシ好みだし。そこはかとなく漂う品の良いノホホンとした雰囲気もまた麗しく。で、ちょっとヤンチャな感じで。これぞ歳さん!じゃありませんか?
このキャスティング、どうでしょね?>世の歳三ファンの皆様。
ってなわけで思いがけないところで萌え。

しかし思いがけないところで…といえばもうひとつ更に思いがけないものが。
それは中井貴一演じる吉村貫一郎の息子・嘉一郎役を藤間宇宙クンが、その親友・大野千秋役を伊藤淳史クンが演じていたことなのですっ!
吉村と大野の親子二代にわたる深い友情もまたこのお話のもう一つの軸なのですが、その切ないつながりをこの若い二人が実に情緒深く演じているの。(大野千秋の父であり、吉村貫一郎の親友である大野次郎右衛門を演じたのは三宅裕司です。こちらも誠実で抑制の効いたいい演技でしたよ~。)
っていうか、この(藤間クンと伊藤クンの)二人のカップリングってねー、知る人ぞ知る(?)美しい佳作「独立少年合唱団」っていう映画で、素晴らしく衝撃的な演技をみせてくれた二人なんですよ。
こんなところでまた出会えるなんて~~感動!
二人とも益々いい役者さんの顔になってました。藤間クンは雰囲気作りが巧いし、伊藤クンは目がイイ。目で語ることができる。
でも、この二人が並ぶと…こう言っちゃナンですが、ある種の独特の情緒が醸し出されるんですよね(^^;;。「独立少年合唱団」的な。「僕の声になって(←「独立~」のキャッチコピーです)」的な(笑)。
要するにちょっとヨコシマ。
で、それをわかってるのかどうなのかこの作品でも二人の別れのシーンで、手でじかに水盃を交わすシーンなんかあってさ。すごく色っぽいんですよ。
今生の別れのシーンだし、そんなヨコシマなこと考えちゃいけないクライマックスなんだろうけど、どうしても色っぽく思えてしまう。撮影してる方だってさーそういうニュアンス、絶対含んで撮ってるもん。わかるもんね。
そういう面も含めてさらに切なく胸に響くのですけどね。
この映画は家族愛の話でもあるし、武士の「義」の話でもあるし、男同士の友情物語でもあるわけですが、色っぽいのは佐藤浩市中谷美紀のラブシーンよりも、死に向かう男友達を見送る男達の瞳の色なのですよー。どいつもこいつも男が色っぽい。

そもそも浅田センセは女(娘とバァさん除く)が巧く書けない作家さんで(爆)、原作でも妙齢の女はわりと押しなべて「記号」と化してるのですが、それが多少とも血肉をもって動いていた、ってのは映画化して良かった点かもしんない。夏川結衣の「暖かな体温を感じる演技」は原作に無いものだったもの。吉村貫一郎の「執着」がちゃんと夏川結衣で具現されていた。
そして最後に。
村田雄浩が大人になった大野千秋を演じています。これがしみじみと良かった。
彼も何やっても巧いよねぇ。大野親子の「気弱そうでいて、その実、深く優しい心根」を、おっとりとした方言で静かに表現してました。そしてその妻も。これ以上はネタバレになるので自粛。
てなわけで演技ホレボレ映画、って感じでした。

作品の真髄を知りたい方は、ぜひぜひ浅田センセの原作をお読みください。
映画でも号泣しましたが、原作では私は痩せるかと思うほど泣きました。そしていろんなことを考えさせられました。美しい気持になれました。
この一作(と、「蒼穹の昴」)だけでも浅田センセは小説家になるべき人だった、と信じられるような素晴らしい作品です。絶対の支持をもってお薦めできる。ぜひぜひ。

追記。
えっとー浅田センセ自身もこの映画に出演してるはずなんですが気がつきませなんだ(^^;;。どこにいたのだろうぅぅ??カットされてたりして(爆)。

 

   *****


(03/1/31)追記:「壬生義士伝」再び←しつこい

今日また「壬生義士伝」見に行ってきました。うー。何度見てもいいー。
2度目なので前より画面の端から端まで余裕もってつぶさに見られたし、音楽もじっくり聴けたし、小道具や衣装も細かく観察できました。久石さんの音楽は本当にドラマティックで素敵だなぁーとしみじみ。サントラ、欲しくなっちゃった。
もちろん野村祐人が画面に少しでも映っている時は、呼吸もせず凝視、っつー(笑)ヨロコビー(@ゴリエ)なこともやったりなんかして。おかげさまで前は気づかなかった野外酒宴で団子食べてる姿だの、芸者はべらせての呑みっぷりだの、黒い扇子をパタパタさせてる姿だの、逐一堪能しました。
鉄砲の弾を掌で受けるシーンの表情なんか泣けちゃうよ。ブシャッと血飛沫が顔面に飛び散ってさ。血まみれのゆーじんは最近イヤっつーほど見てるんですが(実際、もうイヤなんだが)、時代劇だとイヤじゃないから不思議。血もまたイロっぽかったりして。思えば壬生狼もまたヤクザにゃ違いないんだろうけど、ヤクザも歴史になっちゃうとまた別物なのかな。

こうして細かく見てるとアラも見えてくる。例えば…
最初観たとき「伊東(甲子太郎)を殺れ。」と近藤勇が言うシーンで、ネットメロンを食べてんのがどうも不自然だなーと思ったのですが、今日見たらヒジカタさんの盆の上にはネットメロンの他にもマスカットが置かれてたのよ。やっぱ絶対不自然!と思い、家に帰って調べたら案の定。ネットメロンが日本にやってきたのは明治27~28年頃だそうだよ。
なんでも、福羽逸人という人が種子を取り寄せて試作したのが始まりだそうで、しかもその後もネットメロンは高級品で、主に皇室用として新宿御苑で栽培されていたのだそうです。
一方のマスカットは明治の初期にアメリカから導入されたようですが、栽培に困難を極めてようやく岡山の「硝子室(今でいうビニルハウス)」で栽培が成功して出回るようになったのは明治中頃のよう。したがって両方とも幕末に新撰組の屯所なんかにあるわきゃなく。
何やってんのかいな>美術担当。
ま、映画なんて娯楽だからいいんだろうけどさー。度を越すと命取りだよね、こういうのも。

あ!それから前にここで「浅田センセも出てるはずなんだけど」と書いたのはアタシの勘違いでした。ごめんなさーい。浅田センセが出たのはTV版の方(テレ東で去年の正月に10時間ドラマで放送されたもの)。アタシはこのドラマ、キャスティングに絶望して見る気も起きなかったんで(爆)、結局、浅田センセの演技初体験となる勇姿(?)は見ずに終わりました。すでにドラマ版はDVDにもビデオにもなっているようなので、見ようと思えば見られそうですがやっぱいいわ。
とにかくこの小説を映像化するときにいちばん興味あったのは「斎藤一を誰が演るか?」ってのだったんだけど、TVではこれ竹中直人だったんですよね。激萎え。
それだけでもう完全に見る気なくしちゃったのでした。別に竹中直人が嫌いなんじゃないですよ。でも、これは違う。自分の中で許されないほどのミスキャストだったのね。
ついでに言えば金子賢沖田総司とかさー萎え~~。見たくもないでしょう?「でしょう?」って(笑)、誰に同意を求めてるんだかわかんないけどさ。
極めつけは筧利夫坂本龍馬ね。もう号泣。ぜっっったいに違うっ!ありえん。世に多い龍馬ファンから苦情殺到しなかったろうか?金八センセも泣くぞゴルァ、みたいな。

しかし、なんですな。「壬生義士伝」はもうこれ以上ないほど素晴らしい小説だと思うわけですが、映画化とか文庫化にあたっていちいち浅田センセが「寄せる言葉」みたいのを書いてるのって、マズイような気がするんですよ。
小説が素晴らしいのだから、ホントのとこもう何も言って欲しくないんだけど浅田センセは言うんだよねぇ(^^;;キャッチーなことをさ。
たぶん小説家であると同時に商売人でもあるからでしょうが、「出版社のために」とか言ってひと肌脱いじゃうんでしょう。イイ人だよねぇ過剰なまでに。
でも、「喪われつつあるナショナリズムを書いたつもり」とかってさ。あぶねー。
それは小説で描くからいいのであって、こうして言葉に出した途端に胡散臭くなる。
センセ自身、確信犯的な部分もあろうかと思うけど(自衛隊出身が影響してるのかどうかしらんが(笑))、「ナショナリズム」の一言が一部の人間の誤解を呼ぶこともあるんじゃなかろうかとアタシは非常に危惧してます。単にコピーとしての言葉のインパクトの問題ですけどね。
これって2003年の今こそ人々が考えなきゃいけないであろう言葉ではあるけども、この小説に関してその言葉は過激すぎる気がする。
純粋にそれは「故郷」という言葉でイイのではないかと。
北朝鮮に拉致されてしまったみなさんを語るときも、誰もがそこを巧く「故郷」という言葉に置き換えてるわけだし。それを「ナショナリズム」みたいに言ってしまっては、もはや解決の糸口を自ら手放すことにもなりかねないわけで…って、話が途方もないところに行っちゃいましたが。
作者が言ってることに難癖つけんのもオカシイですね。おもさげながんす>浅田センセ
ただ、センセとこの小説世界が下手に誤解されたくないかなぁ~って思っただけ。

最後に一つ。
この映画、家族のためになりふり構わず働いた男の「義」が中心に語られてるわけですが(それゆえに世のオジサンに受けがいいって面もあると思うのですが)、それ以前にこの吉村貫一郎という人物が「大人物」だったという前提があるわけなんですよ。
剣が強くて、頭が良くて、性格が良くて、心身ともに健全で、志がある。
そんなある意味完璧な人間でさえも、貧乏の前で人をも殺める修羅の人と化す。修羅と化しても「義」を尽くす。その意味を考えなくちゃいけないんじゃないか、単に心の問題に置き換えてはいけないんじゃないか、と思うわけ。
甘い話じゃないっすよ。
「一生懸命」なだけではない、常に切磋琢磨を重ねてきた人の凄みがあるからこそ見ていて心打たれるんです。
「人を、尊敬すること」をあらためて学ぶ気がするなぁ~としみじみと感じたりするのです。
まず、大人物たれ!という。目指す場所を持て、という。そういう薫陶を聞く思いがする。
そうでなければ近づけない世界があることをしみじみと思うんですよねぇ。

丁度良かことに明日は映画の日だなっす(゚∀゚)!
この機会にぜひご覧になってはいかがでありゃんすべか?>みなみなさま。
もれなくゆーじんの勇姿もついてるでぁんす(笑)。
追記:↑こう書いたものの、「毎月1日が映画の日」ってのはウチとこのローカルネタでやんした。おもさげながんした。

壬生義士伝(上)

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