たゆたう

 【本日のSS】

 

お題:002

「たゆたう」


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蝉時雨がふっ…と静かになり、夕立がやって来た。
灼熱の炎天に晒された体から、籠った熱が逃げてゆく。
公園の池のほとりに佇んで、今日も愛しいあなたを待った。
毎日毎日待ちぼうけ。待ちくたびれて、溶けてバターになってしまいそうよ。
こんな気怠い日は、あなたの面影を反芻する。私の肌を撫でる指の優しさや、真っ直ぐな瞳、深く響く声、可愛いえくぼ…
懐かしい記憶に包まれて、ゆっくりとまどろんでゆく。
いつの間にか夕立もあがり、宵闇はひそやかな虫の声に包まれた。

「久しぶりだね」
不意に懐かしい声が聞こえた。
(ああ、やっと来てくれたのね!)
嬉しくてゆらりと手を伸ばし、あなたの頬にそっと触れた。
杖をついた白髪の老人が、静かに微笑みながら私を見つめていた。
ああいつの間にか、こんなにも時が経ってしまったのね。
(お帰りなさい、愛しいひと)

私は柳。
池のほとりでたゆたいながら、ずっとあなたを待っていた。

(404文字)


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「たゆたう」って言葉で思いついたのが「柳」で……一度思いついたらそれ以外考えられなくなっちゃって、こんなのができました。なんだかどっかで聞いたような話だけど。まぁこれ、絵描きさんでいうところのスケッチだから。なんでもいいからとにかく書くのダ。恥ずかしいという気持ちがあるとできないので、とりあえず恥も外聞もなくやります!って思わないとダメね。