冬の夜


山眠る足絡ませて男(ひと)眠る   



「山眠る」ってのは、しんとして生気の消えた山の様子を表わした冬の季語ですが、すごくイメージのわく言葉ですね。
この句では、「ずっと前に出ていったっきり音沙汰がない恋人」という物語に重ねてみました。
一人きりの女が寒い冬の夜に、かつての恋人との逢瀬を思い出している。
記憶の中の恋人の温もりが、しんとした孤独な夜に蘇ってくる感じです。
記憶なのでその温もりもどこか実態が無くてしんとしてる。
まるで生気のない冬山のように。
藍色の深い闇の中で、心にずしりと圧し掛かってくる静寂。
山にはいずれ春も訪れるでしょう。でもそれはもうちょっと先のことです。
女はひっそりと時を待っています。


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