今宵の月は

【お題「月」で四句】



月灯り百年前の帯を解く


煮凝りの琥珀ゆらりと月今宵


ほら月も濡れているわネ二人酒


蕎麦熱く鰭酒熱く月白く

                    約拿



人目を忍んだ逢瀬の夜。
とっておきの着物を着て、酒と肴を用意して。
夢中なのは女の方。男はのらくらとしている。
男は若い。ぼんやりとした、いつも遠くを見ている若者。
身を飾った百年前の帯も、丹精込めた煮凝りの鈍い光も、月が潤んでいることも、この夜を女がどんなに待ちわびていたかも、きっと気づかない。
男は気まぐれに笑い、気まぐれに抱き、肝心なことは何も言わない。
それでも女は男に惚れ込んでいる。
女だけが夢見るように、叫びたいほどに、熱く火照っている。
今宵目にするあらゆるものにトキメキと官能を思いながら、うっとりと、至福である。
……っていう、年増女の独りよがりのシアワセをモチーフにしてみました。

月灯りの下で凝ったアンティークの着物の帯を解く、っての色っぽいでしょ。
だってこういう帯は解くための帯じゃないんだから。着飾るために選んだ帯ですよ。でもそれを、解く。特別感が増す感じ。
「煮凝り」っていうのは、これまた存在自体がエロい。積もり積もって凝縮した女の情念のようで。
その鈍色の艶めきを箸で崩される時、女の中の何かが反応する。
「濡れているわネ」の「ネ」は、最大のポイント。
ここに女の甘え、弱さ、年甲斐の無さ、淋しさ、嬉しさが詰まってるのです。
この言葉を言いながら、女はちょっと涙ぐんでいる。
一文字カタカナにするだけで妙な抜け感が出せたりする。日本語ってホント楽しい、って思う。
最後の句は、女の情熱を白い月が見てる、っていう対比の妙を(熱く、熱く、白く)という繰り返しで出してみました。
でも月は決して冷ややかに見ているわけではないのよ。
要は温度差です。温度差を描くことで女の熱さを伝えられたら、と思って。


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俳句の何が楽しいかっていうと、自分で作った句をこうやって解説して、世界観を説明したり、繰りひろげられている物語を語ってみたり、っていう行為をすることです。
めっちゃ邪道なんだけど、私にとっての俳句の醍醐味って、そこなんですよね。
ガッツリ物語を語りたいがために俳句を作りたい。
俳句の価値観(省略の美、想像の余地、余韻)とは真逆のトンデモなモチベーションにて作っています(汗)
もうね、こういうとこだけとっても俳句向きじゃない人間、ってことで、ガッカリしちゃうんですけど…でも、俳句は楽しい。
だから下手でもちょこちょこ載せてみることにした。
俳句が下手でも、物語が語れれば、私それでいいしw
クリスマスにはサンタクロースに歳時記をお願いするつもりです!