「花蓮の夏」


台湾の青春映画っていうとどうも肌に合わないことが今まで多かったし、公開時に美少年の同性愛モノとして話題になってたので、内容もビミョーかなぁと思って長いことスルーしていた作品なんですが、花蓮の風景が見たい!というモチベーションに突き動かされ、遅ればせながらレンタルしてきました。
観て良かったです!
ああーーもう、私はなんという、なんというもったいないことをしていたのだろう!
こんな素晴らしい映画だなんて、予想外でしたよ。もっと早く出会いたかった。先入観ってダメね。
BLっぽい宣伝されていたけど、そんなことまったくなくて、真面目に誠実に青春期の愛情(同性愛も友情も含む)を実に丁寧に描いた傑作でした。


花蓮の夏 [DVD]

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幼いころからいつも一緒にいた「親友」のジェンシンとショウヘン。
高校生になった二人のもとにホイジャという奔放な女の子が現れることで、「親友」である二人の関係が変容してゆく…という、わりとありがちな設定ですが、この3人の絶妙な距離感、それぞれの感情の揺れなどが、いちいち胸にキます。
ホイジャのもたらす小さな刺激が、水面に落ちた水滴がどんどん大きな水文を描くかのように、「親友」の二人の関係を乱してゆく様子が、実に細やかに描かれていて、ぐいぐい引き込まれてしまう。


性愛を扱った作品では、自分の立ち位置との距離によって、登場人物の行動や考え方に共感したり反発したりがあると思うのですが、私は、「恋人も親友も本気で愛してて手放せない。男でも女でも寝ちゃえる。」という滅茶苦茶なショウヘンの気持ちが「すごくよくわかる」んですよね。ものすごく共感しちゃう。
なので、いろんなレビューでショウヘンの行動は理解されにくいことを知ってびっくりしました。
「わがまま」とか「矛盾してる」とか言われてる。
矛盾……してないけどなぁw
あの行為はやっぱり「過ち」なのかもしれないけど、あそこまでいってしまった流れはやっぱり必然だった気がする。
あれは、ショウヘンにとって一つの「賭け」だったんじゃないかな。
自分の中に渦巻く想いが、性愛なのか親愛なのか友情なのかそれともただの執着なのかを確かめるための。
昔、私がネットで書いてたBLもどき(だけど断じてBLではない)の物語で描いていた世界もこれと関係性が似ています。
身も心もゲイの男(ジェンシン相当)と、身も心もストレートな女(ホイジャ相当)が、身も心もとりあえずストレートだけどどう転ぶかわからない、限りなくバイに近い男(ショウヘン相当)を同時に好きになってる、というね。
もちろん見どころはショウヘン相当の男が、二人の間を悩みながらグルグルしている姿ですw何かの結論をそこでは必要として無い。
こういう関係が個人的に(物語として)ツボだということなんだろうなぁ。
私自身が、すごくバイ的な人間だからだと思う(爆)。
以前流行った「男脳、女脳」の診断では私、両方のど真ん中(男脳でも女脳でもない)だったんですよね(汗)。私にはあんまりジェンダー意識ってのがないのかも。相手次第でどうでも変わるような気がする。


以下ネタバレなので反転します
スマホで見ると反転って効かないみたいなので、行を下げて書きます。
結末知りたくない人はご注意ね。


最後の海辺の告白シーンで、ショウヘンが「俺もお前が好きだった」みたいなことを言っちゃったら台無しになっちゃうところでしたが、そうでなかったことにすごくホッとしました。
ここで二人が思いを通じてしまったら、それこそご都合主義のBLになっちゃうもんね。
いずれショウヘンはホイジャかジェンシンのどちらかを選ばなけりゃだめなんだろうけど、でも選べない、っていう…泣きながら葛藤しても選べない、っていうね。
答えをもらえないジェンシンとホイジャも悩み続けなくちゃならない。
そこに物語が生まれるわけですよ。そこが一番の見どころです(私にとっては)。
とりあえず今回は二人とも失いたくないショウヘンが無理やりそういう形に収めたわけですが、潜在的に男ともヤレるバイの人ですから、ホントのところはまだ何も結論は出ていない。「君は親友」なんてのは最後通告でも何でもないわけです。これからどうなるか、実は誰にもわからないというね。
実にイイわー、この何の解決もない感じが(爆)。身悶える青春ですな。
悩め悩め若者よ!
その姿こそが美しいのであるからして。
恋に悩む、なんてのは神様からの恵みのようなものです。恋をしたことがない人とは比べられないくらいシアワセですよ。


観終えた後も、空耳みたいにショウヘンがジェンシンを呼ぶ「カンジェンシーン」という声が聞こえる。(なぜかフルネームで呼ばれるジェンシンw)
ジェンシンの姿が見えないと、駄々っ子のようにその名前を呼び続けるショウヘンの不安そうな顔。
いつも不愛想にその声に応えるジェンシンは、いつかこの声を失うことにずっと怯えていたんだろうなぁと思うと、胸がキュンとなる。
花蓮の田舎道を自転車で二人乗りして帰るときのシアワセそうな姿がずっと心に残ります。
何も知らなかったあの頃にはもう戻れないけれど…でも、きっと二人には納得できる未来があると思う。
世の中の愛は性愛だけではないからね。もっと偉大なる愛に、いつか二人は気づくでしょう。


映画的には、主人公3人(張睿家(ブライアン・チャン)、張孝全(ジョセフ・チャン)、楊淇(ケイト・ヤン))の演技がめちゃくちゃ上手いことにホレボレします。
特に口数は少ないのだけど、その表情で感情を見事に表現するブライアンには脱帽!
ブライアンはこの作品で金馬の最優秀新人賞獲ってますからね。誰もが認める凄い演技だったってことですよ。
なのにその後あまり名前を聞かないなぁ…と思っていたら、スポーツ系の大学行ってたらしいですね。この後あまり出演作ないのがちょっと残念。もったいないなぁ。
ジョセフは今やイケメン代表みたいな売れっ子ですね。私には脇田さん(ワッキーね。今やおはスタで子どもたちの笑神)にしか見えないのだがw


台湾ではコレ、ノベライズされてるそうで(その後の顛末まで書いてあるらしい)、それがどうしても読みたくて探したんですが、どこも売り切れ……(涙)。
気づくのが遅すぎたようです(この映画、2006年のだからねー)。


予告編(台湾版)