読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

天上の愛、地上の美

art



宇都宮美術館に表題の展覧会を観に行ってきました。
長野県にある長坂バロック株式会社という自動車部品の会社の社長さんが、個人で収集したバロック期絵画が一斉に出品されるという珍しい展覧会。
個人のコレクターでこれほどまでの作品を揃えているって、凄いことですよ!そのことにまずビックリ。
特に有名な画家の作品があるわけではないのですが、どれも見目麗しく、時代の雰囲気を濃厚にまとった大ぶりの作品揃いです。
この系統をシュミとする人が観たら、とても充実すると思います。


私は全く別のことを考えながら観ていました。
技術もあって巧い作品を描いているのにも関わらず、名を残すことができなかった多くの画家たち。
彼らのことを想像しながら、その膨大なすそ野の広さのようなものを感じて圧倒されていました。
バロックの時代から、もちろん現代の今この時もそうですが、表現しようとする人間はほんとうにたくさんいる。
水準の高い技術を持っている人も少なくないのに、有名になってゆくのはごく一握りです。
それでも創作者は飽くなき夢と憧れをもって描きつづけるんですよね。今も昔も変わらずに。
素敵なことだなぁ、としみじみ感じたのです。
人間の底力のようなものを思います。
巨匠というものは、唐突に出現するものではなく、この豊かな深い海の中から不意に顔をのぞかせるようなものなのかもしれません。
こうして残された無名の画家たちの作品を眺めていると、彼らがまさにカンバスに向かっていた時のトキメキや憧れを感じることができます。
対象に向き合う刹那の画家の閉じられた世界を想像します。
その瞬間、彼らは人生を全き形で謳歌していたに違いない…と感じるのです。
人としての幸福を。


作品は、作者が生きてきた記録です。
この世に生があった記憶です。
たとえ無名でも、画家という属性を持つ創作者は描き続けるから生きるのでしょう。
小説家も、音楽家も、いずれの創作者もしかりです。
純粋に対象に向かう時こそ、至福の境地があるのではないかと思うのです。
そんなことを考えつつ、なんだか元気がもらえた展覧会でした。



美術館の周りの森には蝉しぐれ
夕立の気配に、緑の匂いが深まっていきます。
夏真っ盛りですね。