ココは笑うとこではありません

ドゥダメルの演奏で、何度見ても可笑しくて思わず笑っちゃう映像があります。
いや、もちろんドゥダメルが可笑しいことしてるってわけではないし、通常よりもさらに笑っちゃマズイぞ、ってな状況なんですが(汗)。
笑っちゃマズいって時に限ってちょっとしたことがやたら可笑しく感じたりすることってあるじゃん?
皆さんが神妙にしてるセレモニーの最中とかに、些細なことが妙に笑いのツボに入って抜けなくなる、みたいな。
これ↓


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ローマ法王ベネディクト16世の80歳の誕生日を祝う御前演奏です。
2007年のものだからドゥダメルはまだポッと出の26歳。
デビュー後の初めての大舞台って感じなのかな?これまた大抜擢です。
これの何が可笑しいかって、とにかくそのシチュエーションですよ。
彼の前には表情も変えず演奏するオケ(シュトゥットガルト放送交響)の面々が。後ろには、居並ぶヴァチカンのお偉方が。ど真ん中には厳しい表情をした教皇がデーンと鎮座していらっしゃる(汗)。
そんなド緊張を強いられそうな空間で、たった一人で髪振り乱し、過剰な動きとともにめっちゃパッショネイトな熱演を繰り広げる若造(しかもあのビジュアル)。
もうね、ドリフのコントか?ってノリ。
でもこれ、可笑しいだけじゃないんだよ当然のことながら。
ちょっと聴いた(見た)だけで釘付けになって忘れられなくなっちゃうくらい魅力的なドボ9なのです!
私はもうここんとこ毎日これ見てますよ。
メドューサみたいな頭をブンブン振ってるグスターボの姿が、夢にまで出てくる。うなされるくらい脳裏から離れないw
この勢いだといずれDVD買ってしまうかもしれません。
こんなに清々しくて的確でドラマティックで一生懸命でカッコいい「新世界」って今まで聴いたことないもん。
そもそもこんなのちっとも好きな曲じゃなかったし。ダセェとか思ってたのに。
この演奏を聴いてからは、めっちゃキラキラした曲に思えてきた。ドボルザーク、やるじゃん。的な。
(でもたぶんドゥダメルのこの指揮が見えなかったらこんなコーフンも半減かもとは思う。この指揮があるので、この曲の魅力が可視化されるというかね。てか要するにドゥダメルが見たいだけかアタシ←結局そこかい)


こうして演奏家のファンになることでクラシックの曲そのものも好きになる…というパターンは実に多い。
アプローチとしてはそりゃ不真面目かもしれませんが、それこそがもっとも手っ取り早くクラシックファンを増やす道かと、自分の経験から思いますねぇ。
クラシック振興関係者の皆さんも、「初心者のためのクラシックガイド」だの「1分でわかるクラシック」だのという方向でハードルを下げて新たなリスナーを誘い込もうとしてもたぶんムリがあるんで、その労力を人材発掘にかけたらいいんじゃないかと思いますよ。
一人の魅力的な音楽家が、クラシックファンを増やすのです。
芸術は熱狂からしか支持されないものです。
得るべき知識も熱狂ゆえに自ら欲するようになるのです。
ドゥダメルはまさに全世界で新たな熱狂を呼ぶことに大成功した、時代の寵児ですね。
なのに今更気づいてハマってるというノロマな自分…orz
あーもー何やってたんだろう私は。
せめて2年前に気づいてたらあのステキすぎるグラモフォン・カレンダー2011(ドゥダメルが載ってる。ヒラリーも。)だって手に入れられたのにーー悔しいーー(涙))


この演奏、モーツアルトのバイオリン協奏曲第3番のプログラムもあって、ソリストヒラリー・ハーン(我が女神!)だったので、そこの部分の映像だけは以前、何度か見ているんですよ。
でもその時、(大マヌケな)私は指揮者には全然目が行かなくて、このボンバーヘア君が誰なんだかなんて興味もわかず、見事にスルーしたというわけ。
演奏も、ぶっちゃけごくフツーの、どっちかっていうとあまり精彩のないモーツアルトだったし、協奏曲はほとんどソリストばかり映るので…って言い訳するだに虚しいなぁ。
こういう時、聖書にある一節を思い出します。


「天が下のすべての事には季節があり、すべてのわざには時がある。」(伝道の書)


出逢うべき時にしか、人は出逢えないんですよ。


こちら↓は、その時(2007年の御前コンサートの時)の記念写真です。



なんだか奇妙な3ショット。統一感まるでナシw
こういうの見ると、「いいのかドゥダメルで?」って感じがどことなし漂ってますね(本人がいちばんそう感じてそうだが)。
ヒラリーでさえ、ちょっと不似合いな場、という気がする。
演奏も、もちろんすごく巧いのですが、いつものヒラリーらしくなかったように思うし。
彼女もある意味「ロックなバイオリニスト」ですからね。私の中ではコンサバなイメージがないの。
いつまでも生真面目でリベラルな学生さんのイメージで…そういうところもとても好き。


ドゥダメルはとにもかくにも5年かそこいらでこういうところでお偉いさんと並んでもひけをとらない貫禄をつけたんだね。
(技術や知識だけでなく、見た目の印象も物腰も)
それも指揮者の大事な仕事だ。
指揮者が説得力のある存在感でもって威風堂々としていないと、オケも聴衆も不安になるもん。
まぁ、そんな意味でもこのドボ9「新世界」は

青二才風の天才がコンサバな場をかき回したあげく全部もってく」

…っていう、コメディ張りの痛快な伝説を目の当たりにできる、今となっては貴重な映像の1つでしょう。