「ゼロの焦点」



えーと。ちょっとワケあって(って、単に動いてる姿を観たかったのだけど)西島くん目当てで「サヨナライツカ」を借りにツタヤに行ったらすべて貸し出し中で、しょうがないから「蟹工船」か「ゼロの焦点」のどちらかを借りていこう、と思ってちょっと考えて(原作はどちらも既読で、どちらも好きです)汗臭い群像劇よりはこっちのが見たいかな@西島的に、ってことでチョイスしました。
すぐ殺されちゃう役なのでどうせチョイ出だろうし、そもそも女優陣が苦手な面々なんで期待はしてませんでした。
ところが、始まってものの10分しないうちから絶妙にツボを押され、最後まで食い入るように見入ってしまいました。
いや〜思わぬ拾い物でした!観終えた後、あースクリーンで観たかったなぁーって思いましたからね。
こんな面白い作品だなんて、公開前に映画館で何度か見た予告編からはうかがえなかった。全く宣伝効果を挙げてない予告編ってどうよ?


この映画の最大の見どころであり私のツボ直撃だったのは、物語の時代を生き生きと映した画面の作りです。映像、美術、カメラワーク、俳優の立ち居振る舞い・・・要するに、見た目が秀逸。
並々ならぬ情熱とトキメキをもって物語の背景が再現されていた。こんなに”作りこんでる”映画、久しぶりに見ました。


物語は端から端までその舞台となる時代と共に呼吸しているものなのです。映像でそこ(=時代。立っている場所)をガチッと押さえてくれないと、物語は真の意味で動かない。
物語を愛するものなら、それを真の意味で動かしたい、現出したい、と切望するはずで、その試みは最高にエキサイティングなことでしょう。
そこらの映画評で「今なぜこんな古い時代のものをそのまま再現するのか意味がわからない」って意見をよく目にしますが、そう思う人の気持ちが私にはわからない。
その時代に対する興味が無かったらそりゃ妄想力は沸かないだろうけどね。歴史的ないわくつきの建物を見ても、古い建物としか思えない薄っぺらさからは何も生まれない。そういう人はそこ止まりだ。本人は気づいていないだろうけれど、ご愁傷さまなのです。
過去の名作、古い時代の再現を試みることは、決して「後ろ向き」なことではないです(もちろん新しくもないわけだが)。
こんな凝り性な映画があるからこそ、共通認識としての”歴史”がどこかで脈々と語り継がれてゆくんじゃないかな。清張の小説世界を覆っている戦後日本の独特の空気感を、どれだけの人が体感できるのか?今の若い人たちにそれができるかどうかは、こうした映画や小説のチカラにかかってるのです。


劇中流れる音楽もステキでした。ショスタコーヴィチ風の音楽なんかあって印象的なの。「うわ。すごくイイ」と思ったら、音楽監修、上野耕路さんでしたよ(ゲルニカのね)。さーすが。センスいいわ。っていうか、私の感覚にすごく合う。好き!
でもでも!最後のみゆき嬢が歌う主題歌はダメだわ〜。あれはナシにして欲しい。歌自体は名曲なんですけど・・・だから歌のインパクトに感動しちゃうヒトも多数いることと思いますが、どう考えてもこの映画とは相容れないでしょ。
ストーリー的には原作にないシーンも多く、中にはいらないところもありますし、過去の回想シーンなどは(冒頭のニュースフィルム出したくらいなのだから)もっともっと泥臭くやって欲しかったりしますが、おおむねうまく描けていました。
推理モノのはずがサスペンスになってるってのに関しては、仕方ないですね。いまさらこんな有名な原作持ち出して「犯人は誰でしょう?」もないだろうと思うので、主軸を謎解きではなく人間模様に移したのは正解です。


この作品の売りでもある、3人の女優の豪華競演ってとこですが。
やはりどうしたってヒロスエが弱いです。しかも彼女の目線が主軸であるゆえに、全編ナレーターをしてるってのがこれまた致命的。
ヒロスエって見た目はすごく雰囲気があっていいのですが(フォトジェニックってやつね)、とにかくしゃべるとダメダメなんだもん。某読みだし、声の質も子どもっぽくて軽い。この声でナレーター担当するのは破壊行為に等しい。
木村タエは相変わらずの堅実演技。薄幸な女がとってもよく似合う。動き方一つにも役柄の性質がにじみ出る細っかい職人芸。
ナカタニミキは鬼気迫る怪演。これはもうね、一見の価値があります。こういうブッ飛んだ演技もこのヒトの中でパターン化されている部分のもので既視感あるんですが、それでも引き込まれる。他の誰にも真似できない堂々たるナカタニ節なんだろうな。ブレませんねー。
狂気をはらんだ夜のドライブシーンなど、もう完全にヒッチコック映画の女優みたいな雰囲気。めっちゃくちゃ上手い。
でもどうしても私は3人とも苦手なんだなぁ・・・シュミの問題ですので、申し訳ないのだけれど(顔が苦手とかそういうノリ)。
一段と威力不足な主人公の新妻役を、ヒロスエでなしに菅野ミホか松たか子が演じてみたら・・・と考えてみるとすごくしっかりした感じになるけれど、それもフレッシュさに欠ける印象だな。若くて清楚な新妻、となると・・・蒼井ユウあたりはどうだろう?アヤセハルカは?意外なところで上野ジュリ?うーん・・・どなたも骨太だなぁ。堀北マキはイイセンいくかな?若すぎるか。そう考えるとなかなか適役がいませんね。


さて、お目当ての西島くんですが。
やっぱり想定の域を出ない感じでした。唯一の見どころは軽くエロいラブシーン(役得感あり。やっぱこういうシーンになるとヒロスエの良さが出る)と回想シーンか。
てか、この人の演技はいつも同じなんで意外性期待してもしょうがないですね。あいかわらずボーっとして、ボーっとしてるうちに崖の上・・・みたいな。おいおい。役柄までボーっとしてるぞ的な。
でも、なぜかただボーっとしてるだけなのに、物語を感じてしまうのだよねぇ。存在感ってやつでもっていける稀有なヒト。得なタイプ?
きっと本人何も考えてないだろうに、周りにいる女があのボンヤリ顔に憂いとか苦悩とか繊細な感性とかを勝手に読み取って妄想した挙句、その存在に深みを与え、謎めいた男に仕立て上げちゃうんだろうな、ってのが想像できる。・・・なんか、いいな。小悪魔め。
私は西島くんには溺れないと思うけど、溺れてしまう女のヒトを書いてみたいなぁってのを思うンですよ。そういう意味で今すごく興味があるヒトです。