「借りぐらしのアリエッティ」


子どもたちと一緒に観にいってきました。
TVなどでやっている宣伝で見る絵と音楽が気に入って、主にそこんところを楽しみにしていたのですが、思いがけず物語が心に残りました。
小品感が漂っていて一見さらっとしてるのですが、どこかしらとんでもなくザワッとしたキツイ肌触りを感じる物語です。
観終えた後の爽快感の無さと全編に漂うどうしようもなくやるせない悲しみに、気軽に観にいって何か重いものを背負わされたような気分になりました。
予想外に、人間の根源的な部分に踏み込んだ内容になってる。
でも、そこがこの作品の魅力でしょうね。
ただ、その魅力は子どもには伝わりにくい。なので、大人と子ども(子ども並みの鑑賞眼しかない大人含む)で、感じる印象がかなり違う作品になるように思います。


キーワードは「おわり」です。
この物語は、”滅びゆく者たち(=アリエッティたち小人のことを指しながら、それは私たち自身でもある)”の「おわり」への一つの過程を描いてる。
映画の最後に唐突に出てくる「おわり」の文字にも象徴されているように、これは、全ての者が終わりに向かっていく物語なのかもしれません。
希望を持っても、降っても照っても、何があっても、何もなくても、終わりへと向いたベクトルは揺るがない。
アリエッティは滅び行く者のシンボルとして登場する。
やがてたった一人で生きてゆかざるをえないかもしれない女の子。滅びへの旅には過酷な試練も待ち受けているだろう。
翔は常に死の淵を見つめている。果てしなく孤独でもある。12歳の子どもにとってそれがどんなにつらいことか。救いが無さすぎる状況ゆえに、手術はたぶん上手くいかないのだろうな、という嫌な予感さえする。
アリエッティの両親は、自分たちの亡き後にたった一人で残される娘の将来を考えて、いろんな準備をしている。その覚悟には悲壮感さえ漂う。
伯母さんは思い出のドールハウスを眺めながら古いお屋敷で一人朽ちてゆくのだろうし、ハルさんはいろんな意味ですでに終わってる感満載だ(人間なんてあんなものか?客観的に見せられるとキツイねw)
まぁ、そんな感じで、登場人物の誰のもとにも、希望溢れるシアワセな未来なんて見えないわけですよ。
それでもアリエッティは生きる気力に満ちている。強いまなざしと、きりっとした口元には生命力が漲っている。怖れと不安と孤独の中にあっても、好奇心も冒険心も憧れも持っている。
そんなところに、何か大事な、本質的なものを感じるのです。生きることそのものの磁力のようなもの、かな。


輝くような未来があるから人は生きてゆくのか?
夢や希望があるから生きてゆくのか?
では、もしそんなものが何もなかったら、生きる意味はなくなるのだろうか?

こんなことを考えるのはある種の現代病かもしれない。頭でっかちで真理を見誤っている。
本来、生きてゆくのに理由や意味などないんですよね。
本能が「生きろ!」という。健全な生き物にはきっとその声が聞こえるのだ。
だからアリエッティは「おわり」が見えていても前を向いて堂々と胸を張る。
終わってたまるか、の意志を持って顔を上げる。
その姿には「おわり」を凌駕する圧倒的な輝きがあります。
清々しいこの輝きこそを、”希望”と呼ぶのかもしれないなぁ、などと思えるほどに。

希望は他にもあります。スピラーの存在。
薬缶の船でアリエッティがスピラーにラズベリーをもらうシーンで、唐突に官能的な空気が流れました。
一瞬、本能的な男と女という構図に見えたんですよ。暖かなエロスみたいなものがフワッとね。
この2人はやがて家族になって子どもを生んで、一緒に生きてゆくんだな、という予感にドキッとしました。
アリエッティが言ったように「私たちはそう簡単に滅びない」のです。
終わりの中にも始まりがある。明日滅びるとしても、今日種を撒く、みたいな。生きるということの本質です。いいな、この感覚。


ジブリ作品の絵がきれいなのはあえていうまでもないことですが、この作品は音が一段と素晴らしく、そこも見どころ(聞きどころ?)です。
小人のアリエッティが聴く位置での音、人間の翔がすむ世界の音、遠くの音、近くの音、風の音、水の音…細かな音の描写が臨場感をもって表現されています。
声もステキ。特にアリエッティ!胸がきゅっと締め付けられるような声。
未来ちゃんはホントに上手い。劇的というか、物語性のある声を出せるんですよね。
「おとうさん」という一言だけで、ジワッとクるものがある。たぶん天性のものなんだろうなぁ。
ジブリ作品はたいてい声優に難があるのですが、このキャスティングは大成功です。希林さんもすごく良かったです。
が、やはりダメだなぁと思うキャスティングもある。
お母さんの声とかね。神木くんも頑張っていたけれど(役柄的にも難しかったろうと思うけれど)、ちょっと苦戦?って感じでした。
あと一つ。
翔の最後の言葉はどう考えてもいらんなぁ。言葉があるゆえに陳腐な気がしてしまい、残念でした。