5月に読んだ本(1)柳広司


ここ数年、手にした本に相次いで失望したことで、最近の日本人作家の書く小説にはほとんど興味を持てなくなっていたのですが、なんと久しぶりにラヴ!な作家を見つけました。柳広司
わりと作品数があるのに、「ジョーカー・ゲーム」が売れるまでまったく名前を聞いたことがなかったのが不思議。
まぁ、気づいてなかったのは私だけじゃなくて、実際(一昨年にベストセラーを出すまでは)鳴かず飛ばずだったようですが。作品の質は以前からとても良いのになぜ9年も売れなかったんだろう?って話ですよ。
要するに、何かきっかけがないと素晴らしい作品も日の目を見ない、ってことなんだろうね。売り方さえ上手ければ下手糞な作家のろくでもない小説も・・・というか、そんなんばかりがベストセラーになるのに。まぁ、読むほうの頭もその程度、ってことなのかもだけど。
とはいえ、今では(思い切って強烈なオリキャラ小説を書いてみたおかげで)柳さんも売れっ子作家の仲間入りができてなによりです(^-^)。売れていれば、好きなタイプの小説を思い切り書けますもんね。


柳さんの作品ってどれも私にはドストライクなんですよ。「こういうのが読みたかった!」というね。
それは言い換えれば「こういうのが書きたい!(読みたいけどなかなかないから自分で書けたらなぁと思う)」ということでもあるんですが、当然ながら私の力量では書けないものばかりなので、ホントに「読ませてくれてありがとう!」って気持ちになります。
それと、最近の作家の中ではダントツにインテリだってのがステキです。ものすごい読書家で、文章を暗記する能力に長けてるらしいのだけど、それが書いてるものを読むだけでもわかります。すっごくたくさん本を読んできた人が書く文章なのですよ。息をするように自然にモノを書ける人なんだろうなぁ。苦もなく読めるのに物語世界にグッと連れて行ってくれる握力の強さが素晴らしいです。とにかく上手い。
膨大な知識があるのに偏っていないのも、作品にちゃんと(さりげなく)著者の考えや想いを織り込んでゆくところも、好感度大です。
とにかく底力を感じる作家なのよ。圧倒的に、”そこらのモノカキ”とは違う。めっちゃカッコイイ。ついでにビジュアルもカッコイイ。出たがりじゃないところもさらにカッコイイ。というわけで、昨年ジョーカーシリーズでハマって以降、遡って以前の作品を読んでるところです。

トーキョー・プリズン (角川文庫)

トーキョー・プリズン (角川文庫)


文句なしの傑作。読んでよかったと思える一冊です。
ミステリとしてはもちろんですが、それを超えて人間劇として素晴らしい作品になってます。
根底に流れる東京裁判や太平洋戦争に対する著者の考えにすごく感じ入るところがありました。
昔、BC級戦犯に関する話で、「当時の捕虜収容所の係官が、食糧難の折、少しでも捕虜たちに食べ物を調達しようとして、苦心の末に牛蒡やハチノコを入手し、自ら食べる分まで削って捕虜に与えたのに、それが戦後、”ろくな食事を与えられず、木の根っこや蛆虫を食べさせられるという虐待まで受けた”との証言により戦犯として処刑された」という話を聞き、ものすごいショックを受けました。これは世にも悲しい事件として私の心にずっと残ってた。文化の違いが誤解を呼び、善意が悪意として捉えられてしまう悲しさと虚しさ。戦争というのは、結局のところそういうことの延長線上にあるのだというね・・・。
この小説ではこういった理不尽な戦禍が余すところなく描かれています(これと同じエピソードが冤罪の証明として使われようとする場面が出てきたりもします)。
しかもそれをありがちな戦勝国に対する糾弾、東京裁判批判に終わらせないところが見事です。人の世のどうにもならない出来事として、単なる戦争の勝敗を超えた真に平等な人間ドラマとしてあの裁判が扱われている(裁判が平等って意味じゃないっすよ、念のため)。
この処理の仕方が真摯で、なんかもう、トリックミステリを超えて胸に響きました。
もちろん謎解き部分も、お見事です。道具立てもクラシカルな香り豊かで、雰囲気がいいですよ。おススメです。

百万のマルコ (創元推理文庫)

百万のマルコ (創元推理文庫)


歴史上の偉人が探偵として物語の中の事件を解決してゆく・・・というのが初期の柳作品の定番らしいのですが、ここでは主人公がマルコ・ポーロです。
手法は浅田先生の「天切り松 闇がたり」に似てるかな。語り部モノ、というか。捕らえられたマルコポーロが塀の中の仲間たちにかつての武勇伝を聞かせて、その不思議な話のオチを当てさせる、というパターンの連作短編です。
エピソードごとに、マルコの体験した世にも不思議な旅のシーンが浮かんできて、柳さんの真骨頂である”ここではないどこか”へ向かう想像力の旅、といったものが楽しく実践されているのを感じます。
推理モノとしてはちょっとネタが弱いかなぁとも思うのですが、軽く読んで心楽しい気分になるにはうってつけ。

キング&クイーン (100周年書き下ろし)

キング&クイーン (100周年書き下ろし)


こちらは出来たてホヤホヤの新作。書下ろしです。珍しく現代日本が舞台。
歴史モノにみられるような重厚さはなく、スタイリッシュな軽めのミステリですが、面白く読めます。ホリエモンみたいなキャラがいたりするのも大衆小説っぽくさらっと読めるポイントか?
現代日本にいながらも、アメリカのチェス競技会の世界を題材としているので、”ここではないどこか”に連れて行ってくれるいつもの作品のトーンはちゃんとあります。
謎解き部分は常道パターンでありながら、さながらチェスの逆転劇のように画面が反転するかのような鮮やかさがあって気持ちがイイ(私はこういうの大好き)!
ただ一つ、ちょっと引っかかったのは・・・主人公が女性の元SPなんですけど、このキャラが私的には微妙。というか、女を書くのがイマイチだってのが柳さんのウィークポイントだったりするかもなぁ?とちょっと思ったりも(^^;)。ま、それもご愛嬌かな。