「喪失」

喪失(小学館文庫)

喪失(小学館文庫)


2000年度ベスト北欧推理小説賞受賞作です。
いやー。ますますカーリン・アルヴテーゲンにハマっています。これももーめっちゃくちゃ面白かった。
身に覚えのない連続猟奇殺人の罪を着せられて追われているホームレスの中年女が、自分の無実を証明するためどん底の生活の中から真犯人を探すために立ち上がってゆく…という話です。
この女がなぜホームレスになったのか?というところから物語は始まっています。
この状態に巻き込まれるまでの女の人生を描ききることで、物語が厚みをもって迫ってきます。心のあり方を描く筆力が尋常じゃないくらい深いので、事件に関わってしまった女の恐怖心や怒りや諦めや希望を感じることができる。事柄に反応する主人公の気持ちの流れに読者が無理なく乗っていけるんです。
この心理描写力にはホント脱帽。
トリックがありアリバイがあり推理があり…みたいな、いわゆる「推理小説」という形をとってはいないのですが、極上のサスペンスになっています。謎の提示とその解決への流れは実に見事。夢中で読ませます。
なんだろうこの人は。すごい才能!
カーリン・アルヴテーゲンの小説を読んだ後は読書の喜びや愉悦しかなく、自分で物語を作ろうなんて気には到底なれない…ってのが、なんだか(アタシにとっては)いいんだかわるいんだかって感じですけどね(^^;;)。自信喪失甚だしい。だって「絶対無理!」って思うもん。こんなの一生かかったって書けないもん。アタシがなんか書こうなんて冗談でしょと思うもん。
でも、そう思わせてくれる読書が、本当は一番素晴らしいのだと思います。とりあえず、ミステリの場合は絶対にそうです。
いろいろな解釈が可能な純文学なんかだとそうでもないかと思いますが(読者がバカで作品の本質が読み取れないとか、そういうのも多々あるからね)、ミステリには「絶対値」があるのでね。凡作か秀作かは一目瞭然だ。
「アタシだったらもっといいトリック思いつくぞ」とか「こんな偶然で事件解決するなんてウソくせー」と感じるようなのは幸福な読書とは言い難いんですよね。
面白いかどうかですべて決まる。そして、彼女の作品はどれもため息が出るほど面白いのです。