「凍える鏡」

凍える鏡 [DVD]

凍える鏡 [DVD]

  • 発売日: 2009/06/12
  • メディア: DVD


圭くんが出ていなかったら絶対に見なかった作品。
でも、こんなミーハーなきっかけから、とてもいいものに巡りあえたりするのだから嬉しいことです。
地味でしんどい題材だけれど、とても心に染みるいい作品でした。
監督(大嶋拓)が脚本も編集も一手に引き受けて作りこんでいる(分業ではない)ので、ストーリーの核が揺るがないし、イメージと構成とに一体感があります。


タイトルの「鏡」っていうのは「親子」のことです。(心理学による喩えらしい)
それが凍えている…つまり、つらい親子関係による痛みや辛さを抱えているというほどの意味。
圭くんが演じる画家志望の青年・瞬は、見ているこちらも心配で気になって放っておけなくなるような(たぶん母性本能を刺激される)危なっかしくもせつない男の子です。
母に虐待された記憶を抱え、苦悩の淵にいる。全てにイラつきながら。
渡辺美佐子が演じる初老の童話作家・香澄は、実の娘と理解しあえず、瞬に寄り添うことで母親としての自分の再生を願っているかに見える。
寂しい魂を持つ者同士は、寄り添うように、雪深い山荘で暮らし始める。
世間から離れた静かなその場所で、二人が穏やかな安息を見出してゆく様子が優しく描かれています。
香澄が心臓発作を起こしたときの瞬のひと言は衝撃でした。名セリフ。
香澄が瞬のために生きよう、と思ったのはこの言葉があったからでしょうね。悲しくも嬉しかったろうなぁ。
脚本の良さが光っていました。


香澄の娘の臨床心理医・由里子(富樫真)は完全なるアダルトチルドレンですよね。彼女もかなり病んでいる。
わたしもちょっとその気があるので、身につまされる思いがしました。
自我をぶつけ合えるというのはある意味親子ならではなのかもしれない。
でも親子の自我は対等じゃない。そこに齟齬があるんですよね。


自分も母になり、娘をもったとしたらあるいは由里子も違ってきたのかな。
因果なことだけれど、母子の関係の歪みは母子の関係でしか癒せないような気がするんですよね。
私も娘をもって初めて母へのこだわりが薄らいだというか…ああ、あの時ママもまだ大人になりきれていなかったのだ、と思えたり、母親なんだから完璧なはずだなんてことはないんだ、というあたりまえのことに気づいたりしたんですよ。理屈ではなく、感覚でね。自分の中の「母」が、修正された。たぶん、等身大に近い方向に。
それはまぎれもなく癒しでした。


    ・・・・・・・・・・・


田中圭くん。
圭くんって…なんだろうねこの子は?やたら巧いんですよねぇ。
もしかしてすごい俳優なんじゃないかなぁ。ちょっとその辺にいないくらい。
相手役がまた大女優の渡辺美佐子さんですからね。そりゃもうついてゆく為に一生懸命だったってのもあるのでしょうけど。
でも舞台挨拶なんかではもう役柄とは完全に別人で、イマドキの明るくてやんちゃな男の子なんですよね。拍子抜けするくらい。
「素(す)」と「役柄」のトーンがまるで違うのに、ここまでの演技ができちゃうんだもんすごいよ。
見事に役になりきれて、しかも引きずらない人なんだろうな。役者だねぇ。
って、なんかわけわかんないホメ方してるぞ(汗)。
ベタ惚れで、自分でも何言ってるのかよくわかってないのダ(^^;;)。
圭くんの演技を見てると胸にキてせつなくなります。