運動会の空

今日はボクちゃんの幼稚園の運動会でした。
全ての競技が終わった最後に、園児たちが風船を空に飛ばします。
どこまでも晴れ渡った青い空に放たれたカラフルなたくさんの風船たちが、どんどん空の彼方に昇っていって、やがて小さく消えてゆくのを眺めていたら、ふいに涙がはらはらとこぼれました。
さっきまで小さな手の内に握られていた風船は、あっという間にどこかに消えてしまった。
もう戻らない。
二度と会えない。
その最後を見届けようもない。きれいさっぱり消えてしまった。
そして、あとにはまるで何事もなかったような青い空。


さようなら、さようなら。
すべてが過ぎ行く時の中にある。
この幸せな幸せな秋の日も。
小さな手を握りながら、私の全ては満たされる。


夏草のしげる叢(くさむら)から
ふはりふはりと天上さして昇りゆく風船よ
籠には旧暦の暦をのせ
はるか地球の子午線を越えて吹かれ行かうよ。
ばうばうとした虚無の中を
雲はさびしげにながれて行き
草地も見えず 記憶の時計もぜんまいがとまつてしまつた。
どこをめあてに翔けるのだらう!
さうして酒瓶の底は虚しくなり
酔ひどれの見る美麗な幻覚(まぼろし)も消えてしまつた。
しだいに下界の陸地をはなれ
愁ひや雲やに吹きながされて
知覚もおよばぬ真空圏内にまぎれ行かうよ。
この瓦斯体もてふくらんだ気球のやうに
ふしぎにさびしい宇宙のはてを
友だちもなく ふはりふはりと昇つて行かうよ。


             萩原朔太郎「風船乗りの夢」