「パッチギ!」

パッチギ! (特別価格版) [DVD]

パッチギ! (特別価格版) [DVD]

  • 発売日: 2007/04/25
  • メディア: DVD


小出くん目当てで見ました。
放っておけば絶対に見なかった作品(こんなんばっかだな(苦笑))。題材が好きではないものだろうな、と思っていたから。
でも、見てよかったです。いろんなことを考えられたので。


まぁでも、とにかくキッツイ作品でした。すごく良い作品でもあるのに生理的に受け付けない部分が多いのがヒジョーに残念。
とにかく暴力。暴力、暴力、暴力。アホな喧嘩のオンパレードってのがひたすら嫌です。
暴力全般がダメというのではなくて、(話の都合上)必要な暴力と不必要な暴力もあるわけですが、不必要なシーンが多すぎなんですよね。
そこがもううんざりです。
あおいちゃんの旦那さんはいつもこういうイメージなので、もう私の中ではガチで怖いよ。
それとさぁ「血と骨」を観た後も思ったのだけれど、暴力的で下品で頭の悪い集団として描かれるステロタイプ在日社会というものを、当事者の方たちはどう思っているのだろうか?ってことが気になります。こういう描写は失礼にはあたらないの?
これを反日映画だと言ってるヒトも多いみたいだけど、どう考えても在日朝鮮人のイメージを悪くしてるような気がするぞ。
朝鮮人ってみんなこんななの?というオソロシイ誤解を生みそうな描きかた。
いや、ホント。私は関東のど田舎の人間ですから身近に在日社会が存在しなかったのです(いたとしても気づかなかった)。だからそれがどういったものなのか、全然わからないんですよ。チラ見したことさえないので。なので描かれ方によってはにわかには信じられないながらも、そんなもんなのかな、と思い込んでしまう可能性もある。(まぁ、私はそんな単純じゃないですけどね、中には信じちゃうヒトもいるよ?)
大きい声を出す集団の主張ばかりが通って行くってのは、なんかイヤだ。
サイレントマジョリティとしての在日朝鮮人、という見えにくい人々はいったい何を思うのだろう?などとどうしても考えてしまいます。


暴力シーンを抜かせば、この映画はすごくいいセンいってると思います。
時代もきちんと描けている(と感じた)し、脚本もしっかりしてる。
思いのほか民族間の問題に対して説教くさいことを言っていない、というところもいいです。
主人公の青年・康介(塩谷瞬くんの熱演たるや感動モノです!若いのにスゴイ俳優さんだ〜)を実にピュアな存在と描いていることで、この映画にイデオロギーの押し付けを感じない作りになっています。
この映画の主人公の青年は両国が抱えている過去の歴史など何も知らない。
イムジン河」の歌われている意味も知らず、ただ「いい歌だなぁ」と感動し、しかも好きな子が演奏していたというだけで自分も歌ってみたいと思う。
その子と話がしたいから、近づきたいから、辞書を引き引き一生懸命異国の言葉を覚える。
中華明星にハマって、一生懸命中国語を勉強し、現地の歌を歌っていた私と、この主人公はまるで同じで、すごくよく理解できました。
そこに「国」なんて発想は無い。
純粋な恋心に突き動かされ、渡れないはずの川を渡ってゆこうとする「何も知らない」一人の日本人青年の純朴あるのみ、です。
でも、もちろん周りは障壁だらけ。理解しあえない民族の壁が横たわっている。
二つの民族は顔を合わせば喧嘩ばかり。どちらの家族も、二人が一緒にいることを快く思わない。
彼女のコミュニティに入るのは容易ならざることですし、ヘタに長居すれば爺さん連中に強制連行の話など聞かされ責められる理不尽さにもさらされる(それが歴史的事実かどうかということでなく、こう語る人がいる事実が描かれているということが大事なのです。この部分を切り取って「反日作品だ」という人がいるけど、それはあまりに短絡的。両国の溝の深さを示すシーンであるだけのこと)。
四面楚歌。
そりゃもうまるで「ロミオとジュリエット」か「ウエストサイド・ストーリー」か、ってな悲恋であります。
でも、彼はあきらめない。自分にできることをする。自分がしたいことだけを。「好き」の気持ちを、ストレートに歌う。


私が一番好きなシーンは、康介がラジオ局のスタジオで「イムジン河」を熱唱するところです。
なんとも言えずグッとキちゃう。涙が出てくる。
イムジン河」はやっぱりすごくいい歌だし。
私はずっと前からこの歌が好きだったのだけど、それを単純に言えない空気ってのがありました。
放送禁止歌という後ろ暗さと、「自分の歌う歌ではない」という微妙な距離感。イデオロギーが無ければ歌う資格が無いような、そんなイメージ。
この歌を好きだと言ったら両岸から石投げられそうだし、片側からは「お前は左翼か」「半島マンセーか」とか言われそうだし、もう片側からは「俺らの歌をお前らが歌うな」「知りもしないくせにわかった風なことするな」と言われそう。
たかが歌一曲でも、それを歌うのに自分の居所を決めなくちゃならないなんて、すっごく不自由!これはそういった意味(政治力に歌が負けてしまっているという意味)でも「悲しい歌」なのです。
「いい歌だから歌う」ってんじゃダメなの?って思うよ。
かくも両民族の壁は高く、溝は深く、人々は理解しにくいものなのです、たぶん。
でも、そんな厚く硬いイデオロギーの鉄扉に小さな穴を穿ち続けるのは、「個人の、個人に対する想い」なのだ、というのをこの映画は見事に提示してくれています。
朝鮮人が日本人になるのも日本人が朝鮮人になるのもムリ。そもそもそんなことする必要はないし。
違う国に生まれた二人が一緒に生きてゆくために、彼らはどうすればいいのか?
それをこの作品では真摯に捉えている。
安易に答えを出さない、という…でもほんのりと希望が見えるカタチで。
殴り合い、罵り合い、それでもつきあっていくしかない。そんな中でも、一緒に歌ったり、恋したり、子供産んだりしていくうちに、だんだん、だんだん、もしかして仲良くなっていけるかもよ?ってなフラットな感じがいい。
だって、実際そうだと思うから。
誰でもない、無名の一人一人の「個人」から全て始まるんだ。


てなわけで。
ホントにもう、過剰な暴力シーンさえなければイイ映画なんですけどねぇ。つくづく残念だわ。
それと、後から気づいたのですが、これも1968年(私が気になっていて、いろいろ調べている年です。わかりやすく言えば、好きな年、なのです)が舞台でしたね。
なんかこうしてポロポロとつながってゆくのだなぁ…という気が、ちょっとしました。
見聞きしたことのなかった別世界の1968年、って感じで、これもまた新鮮。


ああ、そうだ。小出くんに関してのことを書かなくちゃ。
小出くんはね、デビュー作とは思えないリラックスした感じでした。
コメディリリーフでしたから、お気楽でエッチな高校生を楽しそうに演ってましたよ。可愛かった〜。
最後のシーン(各人のその後の映像)で、学生運動に参加してて赤ヘルかぶってたよ!うひゃ。
何も考えてなさそうなバカ学生の雰囲気でしたが、ちょっとツボりました(なぜココでツボる?)。
この映画では「学生運動やってるやつはバカ」がデフォです(笑)。
ま、それもアリでしょう。
もっと大きなものを抱えている人たちにとって、全共闘の学生たちなんてきっと呆れるほどバカに見えたろうもんねぇ。
ああ、それと、オダジョーもステキだった。とっても彼らしい役で、こちらも楽しそうに演じてました。
若い頃、あんな年上の人が近くにいたらきっとすっごく影響受けるだろうなぁ。役柄が魅力的。憧れるキャラ。
沢尻エリカはかなりポッチャリしてて、素朴で良かったです。
関係ないけどエリカ様って笑うと藤原竜也くんに似てるよね。いや、似てないんだけど、似てるのよー。


イムジン河 フォーク・クルセイダーズ


背景がなんにもわかんなくてもきっと心に響くはず。
いい歌だ(涙)。
音楽監修、加藤和彦さんだからか、この映画はフォーク・クルセダーズの曲がたくさん挿入されてます。
そこがすごく(・∀・)イイ!!
グッとくる。「悲しくてやりきれない」とかね〜惚れ惚れする。いいなぁ〜。
ついでにこれも載せとこう。


「悲しくてやりきれない ザ」・フォーク・クルセダーズ(The Folk Crusaders)

この歌は「イムジン河」の逆回しから応用して生まれた曲、とか言われてる。発禁騒ぎの急場しのぎで作った曲らしい。
生ギター一本で歌ったらもっともっとイイんだけどね。バックの提灯居酒屋風ストリングス、いらねー。