「日本春歌考」

日本春歌考 [DVD]

日本春歌考 [DVD]

  • 発売日: 2006/04/27
  • メディア: DVD


1967年の大島渚監督作。
学生運動に触れている作品なので観てみました。
「春歌こそ抑圧された民衆の本当の声である」との考えの下に作られた作品らしい。
「性欲的」であることが、どのように「政治的」な意味を持つのか…ちょこちょことメタファーらしきものが出てきますが、それが何をあらわしているのか私にはつかめませんでした。
やはり大島監督の作品は難しい(汗)。
考えてゆくとかなり解釈の幅がありそうですから、映画学校の教材などにはうってつけ、という気がします。
でもそれだけだったら「なんだかなぁー」って感じですが、思考停止状態で見ても印象的な場面が多く、何かいつまでもその映像がひっかかってたりするようなところがあるんですよ。
映像はすごく計算されてると思います。今の時代の映画とは根本的に発想が違う感じ。
主義や思想はともかく、画面作りはスゴイなぁーと。


「春歌」ってことだから、見る前はちょっと偽悪的な(というか、わざとエログロなところからアプローチする)映画かと思っていたのですが、全然違いました。
「性欲的」であるということによる興奮などは微塵も感じられない。ものすごくアンニュイな若者が、行動的でもなく、破壊的でもなく、敗北感の中で「チェッ」とか言っているような作品です。
社会はどこか遠くで回っている。
女は幻想の中にしかいない。
でも、若者たちは先生に教わった春歌を歌うことで、何か、ごく本質的なものに近づこうとしている(近づけるのではないかとかすかな光を見出している)。
軍歌も革命歌もフォークソングも春歌の前にかすんで聴こえる。
軍歌や革命歌やフォークソングを歌う若者にどこか投げやりな劣等感(?)を感じているらしい主人公のシラケ君たちは、「なんだよ、みんな同じじゃないか。」と思うわけ。
オマエモナー精神だ!(それは反論の余地を許さない究極の〆言葉であり、かつ、どこまでも傍観者であることの宣言でもある)
さすが大島監督。40年前にモナーの精神を理解していたのですねー。
シラケ君たちは思うのだ。
「俺たち、革命も戦争も知らんけど、インテリでも芸術家でもないけど、女にもモテなくて妄想しかないけど、それでもおまいらとどう違うの」と。
みんなクダランよ!と。
ホントは、たぶん大いに違うのだと思うんだよw
でも、全てのものを自分のレベルに引きずり落として判断してしまう、という時代が人にはあるわけだ。
それが青春、ってやつなのかもね。そして青春は性春でもあるわけでね。
って、自分で書いててなにがなにやらわからんけれども。


頭から離れないのは、雪の中を行進する黒い日の丸の群れです。
紀元節復活反対のデモ行進なんだけど、あれは実際にあった光景なんでしょうか?
そうでなかったらスゴイですよ。スゴイ表現力だ。ものすごいインパクト。
黒い日の丸ですよ!なんかもう、本質的に怖いのよ。
この映画にはこのシーンのほかにも「雪」というモチーフが効果的に使われています。
雪は他の色を際立たせるので、映像がポーンとこちら側に入りやすくなるんですよ。
その湿った閉塞的世界から、主人公たちをもポーンとこちらに放ります。
主人公たちと同じ空間にいるような感覚を醸しやすい構成になってる気がする。


どう考えても不自然だなぁ、と感じた設定がひとつ。
それは「前橋から来た」はずの男子学生と女子学生が同じ高校の生徒だということです。
これはありえないね。
どうしてそんな不自然な設定にしたのだろう?あえて「前橋」である必要は無いのになぁ。
群馬では高校(特に進学校)は昔から男女別学で、その生徒の精神性はこの映画に描かれたようなものではありえません。
自分がいた場所だからよくわかる。
見た瞬間、「あ、違う」と思ったもんね。私たちの世代でさえそうなのだから、その20年も前の世代だったらなおさらです。
そんなの小さなことだと思うでしょう?
ところがそうではないですよ。これはすごく大きなことなのです。だって思春期の男女関係のあり方に直接関わる問題ですからね!
私たち別学出身者にとって、「同級生の男子」という概念は(おそらく)無いし、対峙の仕方も違うのです。
その部分に関する矜持がまた、スゴイんだから(笑)。別学魂とでも言おうか。
地方の歪み、だといってしまえばそれまでですが、それは昨日今日始まったことではなく、連綿と続いたこの土地の「自然な」枠組みなのですから、もう、しょうがないね。男女平等糞食らえだ。
だから、あの主人公たちは前橋が故郷ではないのだよ。(方言も無いしさ)


若い宮本信子さんと伊丹十三が生徒と先生役で共演してて、すごく感慨深いものがありました。
だって、宮本さんの視線、伊丹さんのこととても好きだと書いてあるようだったですから!(その役の女学生が先生のことを好きなんですよ。そういう設定なんですけどね、それを超えたラブ光線が出ているような気がしてしまったの。思い込みw)
恋する女子高生の宮本さん、すごく可愛かったです。
ああ、この人は、こんな好きだった人と結婚したのね、と。でも、あんな結末になってしまったのね…と、しみじみ。
この可愛い女子学生がこの何年も後に体験する喜びと悲しみを私は知っちゃってるようなバック・トゥ・ザ・フューチャーな気分になって、なにか胸にジーンときてしまいました。せつないなぁ。
幼さが残る吉田日出子さんも可愛かったです。
日出子さんの歌う「満鉄小唄」は印象的でした。朝鮮人訛りがね、涙を誘いますよ。
そうだ、朝鮮の慰安婦の問題もモチーフのひとつに入っていたのですよね。大和朝廷騎馬民族朝鮮人説とかね。
うーん、ますます複雑。
天皇の扱い方もちょっとアレレだし。
それも大島監督らしいビミョーに凶器っぽいとこですかね。