「マイクロソフトでは出会えなかった天職」

読書記録はやはり印象的だった本だけにしておこう…と思っていたところ、久しぶりに、とても素晴らしい本に出会いました!これは書かずにはいられません。


マイクロソフトの若きマーケティング・ディレクターであったジョン・ウッドが、キャリアを投げ捨てて飛び込んだ社会企業家としての道。それは休暇で出かけたネパールでのトレッキングで出会った「本の無い学校」と「本を読みたがっているたくさんの子供たち」がきっかけでした。
「ここに、本を持って戻ってこよう!」という決意から始まった活動は、やがてネパールだけにとどまらず、世界各地に波及します。
本の無い子供たちに本を、教育が受けられない子供たちに学校を、お金が無くて学校に行けない子供たちに奨学金を!
彼が代表を務める”room to read(ルーム・トゥ・リード)”は、教育というかけがいのないチャンスを、慈雨のシャワーのように子供たちに与えてゆくのです。*1
読みながら何度も胸が熱くなり、時に感極まって涙がこぼれ、最後には拍手喝采をおくりたい気分になりました。
ボランティアの話だけではなく、人生への迷い、仕事と生きがいの関係や、仕事の進め方(マイクロソフトの企業内風景が垣間見られて楽しい!)や、周りの人間との協力の仕方、お金の調達法などなど、とても身近で誰もが抱えているような問題に対しての対処法や考え方などもたっぷり詰まっているので、ボランティアに興味の無い人だって、十分に楽しんで読めます。
というか、むしろ基本は「一人の男が天職を探しあて、そこで成功し、多くの人と幸福を分かち合うことができたんだよ!という夢のある話」、です。
とにかくすっっごくいろんなことを教えてくれる本です。強烈オススメ!
(余談ですが、翻訳の文体もとても読みやすく親しみがわきます。ぐいぐいひきこまれますよ!)


「できない理由ではなくて、どうすればできるかを考えたい」


「最悪の選択肢はなにもしないこと」


「前向きで積極的な力は、この宇宙でつねに暗闇と虚無の力を打ち破る」


「集中力と粘り強さと情熱、そして純粋な意志の力をもちつづけ、前へ、上へと進み続けよう」


などというパワフルで、ポジティブなジョンの言葉とその言葉を裏切らない彼の行動力と目を見張るような成果には、思いっきり心を揺さぶられます。
一人の人間のできることって、こんなにも大きいのか!と。この世界は、ちょっと視点を変えるだけで、もしかしたら劇的に生まれ変わるかも?なんてなことまで思う。


ジョンの話が興味深く読めるのは、彼のベクトルが常に前向きで希望のある方向に向いていて揺るぎが無いからです。
貧困地への寄付を募るにしても、痩せて悲しそうな目をした子供たちの写真を載せて「彼らは苦しんでいます。助けてください」という風にアプローチをする方法もある。
それは確かに社会の抱える問題なのですが、その悲しみを突きつけられたとき、自分の力でそれを救えるなどと簡単に思える人間はまず皆無ではないでしょうか。
多くの人は自分の無力さに唇をかみ締めながら、どこにどう使われるかわからない募金をボランティア団体に寄付するのです。
それでは募金をしても彼らを助けているような気持ちにはなかなかなれないし(だから「偽善」っぽい気持ちにも陥ったりする)、どこか贖罪のような気持ち(こっちは恵まれているのだから寄付しないと、という)もあるような気もします。


ジョンの活動はそういう悲劇に訴えるアプローチをとりません。資金の流れもわかりやすい。
送られた本を笑顔で抱きしめる子供の写真を載せ、「あなたの寄付でこの本が買えました。とても嬉しい、ありがとう!」というメッセージを送るのです。自分の送ったほんの少しのお金で、実際に誰かが救われ幸せな気持ちを感じてくれているのを、支援者はそこから確認できるのです。その実感は、とても素晴らしいものです。
寄付をする側にもやりがいがあります。自分だって微力だけど無力ではないと思えてくる。とてもいい方法だと思います。
お金を得るには、出資者の側に立つことも大事なのです。
ボランティアには莫大なお金が必要です。ジョンは涙ぐましいまでの奮闘ぶりです。
その資金繰りと彼の個人生活を考えたら、あまりにもあっけらかんとした無私ぶりに呆然としますよ。
自分が送った寄付金がどのように使われるのかは募金者誰もが気になるところですが、この本を読んだ後は、それがたとえばジョンがエコノミーじゃなくてビジネスクラスに乗るための費用と消えても本望!と思えます。(彼はマイレージの寄付をされない限り、エコノミーに乗り続けて世界を回っています!)
なんと、ルーム・トゥ・リードの活動は、予算のおよそ9割を実際の教育プログラムそのものに充てているというのですからね!
すごいですよ。


少し話が逸れますが。
私はついこのあいだまで、ある有名ボランティア団体に毎月3000円の寄付をしていました。銀行引き落としの形で何年もの間、です。
きれいな商品が載ったカタログやカラー刷りの冊子が届くたび、どこか腑に落ちない気分(こんなところになんでお金をかけるのだろう?という疑問、ですね)があったのですが、それでも貧困地域の子供たちの写真やレポートを見て、放っておくことなどできないような気分になっていたわけです。
ところが、つい最近その団体は、実は募金の多くを団体の活動費に充てていることを知ったのです。
黒柳徹子さんが活動している国連機関とも(名前は同じでも)別組織だというではないですか。
そりゃもうビックリ!でした。
HPにも明記してあるとおり、この団体は「アドボカシー活動(特定の政策を実現するために社会的な働きかけをすること)」の機関なのです。
わかりやすく言うと、ちょっと前に流行った「ホワイトバンド」の活動と同じですね。
「世の中、こんなひどい事が起こっているんですよ」と、広報するのが活動の主旨。それによって政府や国民の意識を高める、ってことです。
つまり、私の寄付はそのままダイレクトにあの悲しそうな子供たちを救っていたわけではなかったんです。
東京の一等地にある大きなビルを建てる一部になったり、きれいなオールカラーカタログを作る印刷代になったり、広報担当者のちょっとイイトコのケータリングに使われたりしたわけ。
なんだそれ?どんな団体ですか?罪悪感はないの?
ウチの子のおもちゃを一つ買うのを我慢させて毎月払ったお金は、今やゆくえもわからないし何に使われたのかもわかりません。
ボランティアをする人はただでさえ劣悪な環境に身をおいて活動するのだからそれを支えるのも募金者の役目、といわれればそれまでですが、私はそのような対象に対して援助していたつもりは毛頭無いので即、解約に踏み切りました。
まぁ、これも痛い勉強だったわけですが、ボランティアというのはなかなか曲者で、ジョン・ウッドのルーム・トゥ・リードように明快な答えを出してくれる団体は、実はすごく珍しいし、革新的なことだと、そういうところからも痛感するわけです。
某団体も広報活動ばかりやってないで、ジョンを見習って一からボランティアは何かを学んで欲しいですね。幹部に名を連ねる錚々たるメンバーにシラケまくりですよ。


私はこの本を図書館で借りて読みましたので、まずは、これをちゃんと買おうと思っています。
いつか子供たちにも絶対に読ませたい本だし、本を買うことで少しでも著者の(ひいてはルーム・トゥ・リードの)手助けになりますからね。
寄付を、とまでは言えない人も、本を買うことくらいはできると思うし、これは本当に読んだ人の世界観を変える一冊だと思うので、ぜひ「買い」ですよ!
寄付に興味がある方は、こちらの公式サイトを参照してください。右上から日本語サイト(PDF)もあります。

*1:ルーム・トゥ・リードの活動は1999年12月の設立以来、140万冊の本を寄贈し、287校の学校と3540ヶ所の図書館、117ケ所のコンピューター教室と語学教室を建設し、2336人の女子児童に長期の奨学金を提供しているそうです(2007年6月現在)。
追記:2007年12月現在では、444校の学校、5000ヶ所の図書館を建設、約4000人の少女に奨学金を提供、恩恵を受けた子どもの数は延べ130万人になっているとのこと。