「濡れた赫い糸」

濡れた赫い糸 [DVD]

濡れた赫い糸 [DVD]

  • 発売日: 2005/11/21
  • メディア: DVD


いかにもエロな感じの題名ですが、実際受けるイメージはそうでもないです。
色町の娼婦を描いているのに、なんとヌードの一つも出てきません!お見事なほど。
裸ナシでどんだけエロを描けるかという勝負でもしてるのか?と思いたくなるくらい、その演出は徹底してる。
てか、勘違いしてしまうヒトが続出でしょうが、こんな題材を選びながら、たぶん監督はエロを表現しようとしているんではないようです。実際、微塵もエロくないのは、監督にエロを描く能力が無いのではなく、描く気が無いからなのでしょう。
そのせいかわかりませんが、妙に中途半端な作品です。
ターゲットがわからないんですよね。エロ目的でも、バイオレンス目的でも、恋愛目的でもない。
感情のこね回しのようなすごくジュンブンガクっぽい方に行ってるのかもしれない。どっちかっていうと。


主人公の男はどこまでもお人よしで騙されやすい優しいヒト。
これを一輝が演じてますが、一輝のためにあるような役です。
ビジュアルはもう最高で、アタシの好きな方向でした。
でも、周りの女があれなので、期待したエロティシズムはまるでなく、ダメダメな男がただただ不本意に翻弄されてゆくだけーみたいな情けないところにまとまっちゃってます(その情けなさもまたイイのであるが)。
それにしても、せっかくイケてる一輝使っているのだから、もうちょっとでいいから、せつなくていじらしい恋を描いてはくれまいか?と、思わずにはいられない。残念。
とにかく女が…高岡早紀吉井怜も、ただただ壊れて投げやりで暴力的な匂いがするんだもんね。安らがない!
花でいえば造花みたいな触感。深みも情緒もない。そこに蜜の暖かさが無い。
絡み合ってはいるものの、女のほうの感情が男に全く向かっていないから、殺伐としてみえるんですよね。
男女の関係性が対峙してなくて、それゆえ全く色っぽさがでてこないの。
高岡早紀の方はいつもどこか遠くを見ていて、主人公の男なんて最初からろくに眼中に無いし、吉井怜の方は男に依存しているようで実は向き合っているのは常に自分。自分の渇きをこれでもかと見ていて、それを埋める男を狂ったように求めているのだけれど、それはべつに主人公の男でなくても誰でも良かったと思える。しかもそれが犯罪級に悪質な「取り憑き」なのだ。ダメだわーこの設定。萎える。


男女を描くには、やはり「せつなさ」のようなものがあって欲しいなぁと思うんですよ。
エロは「せつなさ」がないと、生きてこない。
感情が行き違っている(というか、同じ次元に無い)男女が絡んでも、無機的で虚しい。
ただ、奥田瑛二演じる世話役の男と娼婦たちとの間にはこの「せつなさ」みたいなものが優しげに漂っていて、いい感じでした。
一輝と太った娼婦の間にも、ささやかなせつなさがあった。
こういう二人だと、ちょっとした仕草さえエロかったりする。
たとえば、ポン、と肩を叩くようなさりげないものでも、男女がふと正面から向かい合う時のエロティックな空気が流れ始めるから不思議。


と、まぁ、人物描写には大いに不満があるのですが、「忍山」という架空の色町の佇まいの描き方は素晴らしかったです。
どこか懐かしいような安らいだ雰囲気が忘れられません。
「場」の描き方がすごくいいです。ディテールも。安普請の家とか、カーテンの柄なども。
今でもない昔でもない、なにか浮遊感のある「場」。
この映画で一番エロティックだったのが、宵の口に忍山の細い通りを歩く一輝の後姿だったりします。
それはめくるめく恋の予感(しかも下半身に直結する)、を感じるからですよ。
男が遊里をそぞろ歩く。それだけでも、遊里の描写がちゃんとしてれば、ヌードなんかナシでも…ってか、女なんぞ出てこなくても、色気ダダ漏れです。
恋そのものは無くても、予感だけでもこれだけ色っぽい。恋がちゃんと描けていればさぞや…と思うと、非常に残念です。