暮らしを愉しく美しく

ターシャ・テューダーは私がとても尊敬し、憧れている人です。
何年か前からちょっとしたブームで、いろんな関連本が出版されているのですが、なかでも私がとても好きなのがこの本。


暖炉の火のそばで―ターシャ・テューダー手作りの世界
暖炉の火のそばで―ターシャ・テューダー手作りの世界



ここには感嘆の声を上げずにはいられないターシャの手仕事がたくさん詰まっています。
私は時々この本を開いては、うっとりと溜め息をつき…反面、自分の無力さにゲッソリとなったりもします(笑)。
本当にもう!ターシャの生活を垣間見たら、誰でも自分が無力に思えますって。
ターシャはかつてあった本来の人間らしい生活を体現することで、何かとてつもなく大事なものを私たちに教えてくれます。
とはいえ、それらの素晴らしい実践が、誰かを啓蒙しようとしての行動ではなくて、自分が好きだからやってる、というのがまた素晴らしいんです。
押し付けゼロ。で、ちょっと「ふふふ。いいでしょ♪」っていう自慢げなお茶目ぶりもある。「アナタもやってみたいでしょ。知りたかったら教えてあげるよ」って。
「人生は楽しい」「やりたいことはたくさんある」という言葉に、これほど説得力を持つ人はなかなかいませんですよ。


ターシャの仕事は、どれもこれもとてつもなく素晴らしいのに、あたりまえのように日常に根ざしているものばかりです。
最近の人って、何か手仕事をするとき、いかにも「やってます」っていう風に大上段に構えがちですが(もちろん私もそうですよ。ちょっと編み物したぐらいで自慢しちゃう(汗))、昔の人にとって生活の様々なシーンに手作りのものがあるのはごく普通のこと、主婦があたりまえにやること、だったんですよね。
チーズケーキを食べたかったら、羊を飼うことから始まる。羊を世話し、乳を搾り、チーズを作り、ケーキを焼く。
洋服が欲しかったら綿花を育てるところから。綿を摘んで、染色し、糸を紡いで、布を織り、裁断して、洋服を作る。
絵本が欲しかったら絵を描き、物語を書き、装丁を作る。
ハンカチには刺繍を入れ、レースを編んでカーテンの縁取りにし、ハーブを育ててお料理に使う。
台所用品だってロウソクだって石鹸だっておもちゃだって、なんだって自分で作ってしまう。


こうしてターシャの仕事を羅列して書くのは簡単ですけど、一つ一つの工程は気が遠くなるほどですよ。
そこにかかった「手間」の膨大なことを思ってみれば目眩がします。
しかもそれを、日常の家事と4人の子供の子育てと絵本画家の仕事をしながらこなしてしまうんだからスゴイ!!!
なんというパワフルさ!
それをローラ・インガルス((ローラの「大草原の小さな家」シリーズのお話もまた私の大好きなものです。
西部開拓時代の人々はみんな自分たちの手で生活の全てを作り上げてゆくパワフルな人たちだから、とにかく元気が出る!
家を建てることからして、夫婦二人でやり遂げちゃうんだからね。
食事ひとつ作るのにも時間がかかるというのに、畑を耕し、家畜を世話し、服も家具も手作りで、しかも子沢山。
それなのに生活に追われて荒んでいるわけでもなく、アイディアや創意工夫に満ちて暮らしている。
人間の底力ってすごい!と驚かされます。

ターシャの生活を見ていると、「仕事」って、「生きる」って、どういうことなんだろう?と考えさせられます。
すごく本質的なことを。
現代社会で「仕事」というのは、多くは賃労働のことをさすわけで、稼ぎが多いということが一つの価値になっているけれど、それだけでは世の中は成り立たない。
人間、おカネじゃないとは言い切れないものがありますが、「仕事」が賃金と関係なく存在するのは確かなことです。
生活の中に、おカネを稼ぐためではない仕事がある、しかもそれが歓びを伴っているということが「豊かさ」なのではないかな。


この本の中の作品で、私がいちばん感激したのはこれ↓



お人形とドールハウスです。もちろん全部手作り。
しかも、すごく凝っているんです!
家財道具や洋服だってたくさんあるんですよ。ひとつひとつ丁寧に細工を施した可愛いのが。
遊び方まで凝っていて、このドールハウスを介して、ターシャと子どもたちは小さな手紙のやり取りなどをしていたんだそうです。もちろん、お人形もキャラ立ちしてる。
これなんぞは生活には直接関係ない部分の愉しみで、よっぽどの有閑夫人でなきゃできないんじゃないかってものですが…
でも、ターシャは忙しい日常の中で、こういうものだって嬉々として上手に創り上げちゃうんですよ。
凄すぎでしょう〜。
ホント、うっとりと溜め息が出ちゃうよ。
これで遊んで育った子どもたちは、幸せですね。ステキな思い出が心を育んだことと思います。
アイディアひとつで、いくらだって子どもたちを楽しませて上げられる。
便利な現代社会に生きながら、どうして私はこういった能力だとか余裕だとかが無いんだろうなぁ。
子どもたちを喜ばせることをしたいといつも思ってはいるんだけど、なんだかモタモタとしてて時間ばっかりかかり、たいして気の効いたことがしてあげられていない我が身が不甲斐ない。