巨大ショッピングセンターが作る異世界


下流社会」ブームを起こした三浦展氏の編纂した興味深いレポ集を読みました。
前著「下流社会 新たな階層集団の出現 (光文社新書)」の方も読みましたが、私個人としてはこちらはお話にならないダメ本決定でしたので、*1この人の論考はタカが知れていると思っていたのですが、この「下流同盟」の方は素晴らしかったです。
現状を正確に抽出して問題提起をしている。それにとてもわかりやすい。
身近なことだけに、問題意識をかきたてられるんですよね。「ヤバイことになっとるなぁ」と実感としてわかる、というか。
すごく面白かったです。


社会が下流社会化してゆく背景の一つに、都市のファスト風土化があるということがこの本の主な論考です。
ファスト風土化」という言葉は三浦氏の造語なんですが、簡単に言うと、
「郊外型の大型商業施設の急増によってその土地それぞれの商業施設及び共同体が崩壊し、文化も歴史もなく均質で匿名性をまとったファストフードのような土地が増えてゆくこと」
を指します。
それのどこが問題かというと

  • 地域社会の破壊(街中商業の衰退→空洞化→町の文化・コミュニティの崩壊)
  • 消費優先の価値観の蔓延(消費第一主義→消費のための労働→人生の目的の喪失)あるいは(安物の大量買い→粗製濫造→賃金低下→ワーキング・プアの増大)
  • 生活の不安定化(24時間365日営業→生活時間の乱れ→人心の荒廃→犯罪の増加)
  • 多くの環境問題(電気、ガソリンなどの大量消費→CO2の過剰排出→環境破壊)

などに結びつく、というわけです。
これらが全て複雑に絡みあいながら「負のスパイラル」を形作ってゆく。
そして究極のところ、人間存在そのものをスポイルしてゆくわけ。


私が住んでいる地域でも、郊外型大型店の出現で街中の古い商店街は寂れてゆく一方です。
単なる経済競争における勝敗の結果だとドライに見てしまいがちですが、コトはそう単純じゃなくて、それは国と人とが滅びてゆく第一歩であることを、ここでは明確に説明してくれます。ちょっと目からウロコですよ。
都市というのは、人間を抱える母体なんですよね。それをテキトーに扱っていては、人も文化も育たない。
そこに気づき、従来の都市形態を守ることに尽力するフランスの例などもあげられています。
我が国もポカーンとその場その場の儲け主義だけで動いてたら後でトンデモないことになるね。
まずはこの「負に傾きかけた」現代日本の社会構造を知ることが第一なのではないでしょか。
そして、最低限、個々人がファスト風土化の波に足元をすくわれないように注意することで、いろんなものが守れるのではないかと思うのですよ。


私は、砂漠のような広い土地に郊外型の巨大モールがそびえている光景が、実はとても好きです。
週末は家族揃って嬉々としてショッピングモールに出かけ、だだっ広い駐車場を歩きながら「ああ、楽しいなぁ」と心から思ったりするのです。
だから、この本の内容は自分の中のフェアリーランドを「そこ、ホントはゴーストタウンだよ」と指摘されたかのような空恐ろしさがありました。
でも、よくよく考えてみると、私はその巨大モールから、風に乗って一瞬漂ってくる終末的な荒廃の匂いに、何か、ロマンティックなものを感じている部分もあるかもしれないとも思うのです。だから、毎週のように足を運びながらも、どこか拠り所のないフワフワとした刹那的な感覚があったのです。その不思議な感覚のありかが、なんとなくわかったような気がします。
そういった、ごく個人的な「詩的イメージ」の点からも、このレポは面白かったね。

*1:私が最も忌み嫌う「人をカテゴライズして断じる」だけのものだったので。書いた意図もわからんし。