夕暮れの、白い風船

クリスマスに子どもたちに贈る本を探すのに自分が子どもの頃に読んで印象的だった作品をピックアップしていたんですが、そん時ふと、大好きだった物語を思い出しました。
遠藤周作の「白い風船」というお話で、私が6年生だった時に国語の教科書のたしか最後に載っていたものです。
小学生の男の子が、宇宙人の存在なんかを真面目に信じてて、ドキドキハラハラして成長してゆくのだけど、6年生になったある日、宇宙人だと思っていたものが単なる風船であることに気づき、いつの間にかそれを受け入れている自分がもう子どもでないことをも気づいてゆく…というようなお話。
わりとコメディ・タッチで描かれた、可笑しくて可愛らしい話なのに、なぜかせつなくて鼻の先がキュンとするのです。
このお話には印象的な「丘」が出てきます。丘の向こうは夕暮れです。少年は窓辺でそれを見ています。
そこにポカンと白い風船が揺れて漂って、夕焼け空に消えてゆく。その風景が、不思議な余韻を心に残すのです。
遠藤周作は説明など一切なしで、その風景で物語を終えるのです。
巧いですよねぇ。今思うと本当に文学者です。


今でもこのお話を読んだ時の奇妙に自分に近いような感覚が忘れられず、物語の中の風景は私の心象風景の一部となっています。
私にとって、「大人になること」は、あのお話の中に描かれた気持ちそのままなのです。
私は、このお話を読んだ当時、「大人になるのは淋しい」と思っていました。
大人になるということは、夕暮れ空に白い風船が消えてゆくあの場面に重なるような気がしていました。
しあわせな子どもだった私は、白い風船をいつまでも宇宙人と信じていたかった。
でも、あの夕暮れの美しさせつなさに気づいて心が揺れるのは、大人になってゆくからこそ、なんですよね。大人になるのも、悪くない。
それに気づくのはもっとずーっと後なんですけど。


このステキなお話を、現在6年生である娘にぜひ読ませたい!と思い立ち、ネットで検索したところ、これは本になって売っていないという事が判明いたしました。
読みたかったら当時の教科書を見つけるしかないようです。
残念!
教科書は20歳くらいまでは実家で母が全て取っておいてくれていたのですが、何度目かの整理で捨ててしまいました(私が「そんなのもう必要ないから全部捨てて」って言ったのだと思う。そういう性格がこういうときにアダに(哀))。
一度も書籍化されていない話を書籍化希望するのって、「復刊ドットコム」じゃダメなんすかね?
これ、6年生の最後で読むからこそ、のお話なのです。
またいつか、教科書で取り上げて欲しいものです。